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医療における意思決定再考(1)医療上の意思決定を左右する最大の因子は・・

日経メディカル10月号に抗凝固薬の選び方に関する特集があり、そのなかの私の「経口抗凝固薬の選択に当たっての考え方(小田倉私案)」が掲載されています。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t226/201410/538814_2.html(要無料登録)

以前、拙著「プライマリ・ケア医のための心房細動入門」での考え方は以下のとおりですが、今回は、よりシンプルにするため「医師の専門性/注意点」がなくなり、代わりに「患者の好み」のところに「コスト」「食事制限」を入れてあります。「エビデンスの捉え方」も患者の価値観ではありますが、限られたスペースの記事なのでいろいろな概念が紛らわしくないような図となっています。

<図1>
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これまで抗凝固薬の選び方の基本コンセプトとしてこのシェーマを何回も取り上げましたが、この元ネタは言うまでなく、マクマスター大学による以下の論文からの図表「エビデンスに基づく臨床決断アップデートモデル」です。(私の図では話を簡便にするために「患者の状態や環境」は「患者の好みや行動」に含まれるものと考えてください。本当は別の概念ではありますが)
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1123314/#B1

<図2>
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ただ、私自身この元の図も、それから今回の図も、なんとなくしっくり来ないものがずっとありました。
それは何かというと「これは誰の視点から見た図なのか」ということです。

たとえばこの図2にある「患者の好みprefernece」は、時にもう少し広い意味で「患者の価値観」と呼ばれることもあると思いますが、この価値観の主語は本当に「患者」でしょうか。「臨床的専門性」は医療者が自分の得意不得意を自己採点した「医師医療者の価値観」なのでしょうか。「エビデンス」は医療者からも患者からも独立した客観的な概念と捉えて良いのでしょうか?

少し考えればわかることですが、この図2も私の図1ももちろん医療者へのメッセージとして書かれたものであり、エビデンスははじめは医師の頭にしか入っていませんので(医療者より先に情報を持っている熱心な患者さんは別ですが)、エビデンスも専門性もその主語を考えると「医療者が妥当と考えるエビデンス」であり「医療者自身が考える自分の専門性」だと言えます。そして「患者の好みや行動、環境」も「医療者がこうだと考える患者の好みや行動」ということになるばずです。

言うまでもなく医療上の意思決定の当事者は患者(時に家族)と医療者ですので、この図1枚では当事者の一方しか見ていないことになります。上記と同様に「患者から見たエビデンス」「患者が考える自分の好みと行動」「患者が考える、自分の先生の専門性(ウデ)」があるはずです。

先日のブログでShared decision making (SDM)について取り上げましたが(SDMに適切な日本語がまだついていません。”協調的意思決定”といったようなニュアンスですが。。)、この意思決定の「分け合う=shared」の意味を私なりに解釈すると、上記のEBMの3(4)要素というのは、医療者の頭の中にある「エビデンスに対する価値観」「患者の好みや行動」「専門性」と、患者の頭のなかにある「エビデンスに対する価値観」「自分の好みや行動」「医療者の専門性」の2つの異なる価値観があり、それぞれの価値観をすりあわせてひとつの意思決定へと収斂させることだ、ということになります。

<図3>
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そうなのです。私たちが診察室で毎日行っていることは、エビデンスの一方的な伝達や教育ではなくて、また患者の一方的な訴えの吐露だけではなく(それもよしですが)、このような患者と医療者の「価値観のすり合わせ」なのでありそれ以上でもそれ以下でもないと考えられます。

この価値観の中身のうち、エビデンスは医師側に圧倒的に多くの情報がありますし、患者の好みはまさに患者の世界そのものですので、患者−医療者の間の価値観のすり合わせというのは、エビデンスを患者に一方的に教育することでも、患者の好みを再優先させることでもなく「医療者の考えるエビデンスと患者の考えるエビデンスをできるだけ同じレベルに近づけること」および、「患者の持つ好みをできるだけそのまま医療者が捉えること」ということができると思います(「医師の専門性」は紛らわしいのでここでは省きます)。

もっと医療者側としての実践的戦略に話を絞るならば、「医療者がどのようにしてエビデンスを患者さんにわかるように伝えるか」ということと「患者さんの好みをどのようにしてあますところなく引き出すか」ということになってくると思われます(患者さん側からも「エビデンスを理解する姿勢・リテラシー」や「自分の好みをわかりやすく伝えるスキル」が必要となるはずですがここでは論じません。脱線していくので^^)。

またスキルの話になって何だと思われる方もおられるかと思いますが、お互いの価値観を伝え合い、分かり合うのは言語を通じてであり(非言語もありますが)、また診察室という時間的空間的に限られた世界においてですので、現在の医療システムの中ではいろいろな意味で制約があることがSDMの障壁と考えられます。そうした制約を少しでも乗り越えるための方略を具体的に考えることは大切で、「スキル」という言葉が無機質な臭がするのであれば、「お互いの価値観の具体化とそれの共有」(これも無機質?)という作業であるといいたいとおもいます。

さて、この価値観のすり合わせこそが意思決定の本質だとすると、先ほどの図1,2の3(4)要素だけでは意思決定を左右する要因としては、全然足りない、ラスボスともいうべき超重要な因子があります。それは「患者と医療者の価値観の差異」です。言い換えれば、患者と医療者の間の距離感、あるいは患者の医師への信頼度(その逆もあり)だと思います。これまでのEBMの意思決定シェーマに覚えた違和感、あるいは、圧倒的に何かが足りない感じはコレだったのですね。

<図4>
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考えてみれば2つの当事者がいて意思決定をするわけなので、2者の間の違い、距離、隔たりが、一番決定的な因子なんですね。その視点があの図には、私から見れば足りないとうことになります。そして両者の差異をどう縮めるかということがすり合わせでありSDMということになります。

両者の距離は何で決まるか。それはエビデンスや薬そのものに対する価値観の背景によると思われます。たとえば、抗凝固薬を頑なに拒否するAさん。いくら塞栓症リスクが出血リスクより大きいと数字で説明しても飲むことを承諾していただけません。よく聞いてみると、何かの雑誌で抗凝固薬で脳出血を起こして生死をさまよった方の体験談を目にしたとのことです。その描写の恐ろしさが鮮明に脳裏に焼きついたため、塞栓症のリスクはわかるけれども、飲むことで脳出血には絶対なりたくないとのことでした。

もう一人のBさんの場合は、やはり知り合いにワーファリンを飲んでいて、吐血した方を知っていました。しかし長らく当院にかかられていて、私の提案する治療法に全面的な信頼を寄せて頂いていました。

このように患者さんの価値観の背景には、知り合いからの情報、健康リテラシー(読み取り能力)、リスクの捉え方、そして医師への信頼度が大きく関わっていると思われます。この中で最も大きい物は医師への信頼度だと感じます。信頼度が大きいほど、患者さんのエビデンスや自分の好みは小さな領域となります。それだけに信頼される医師ほど、エビデンスの解釈には適切さが求められると思われます。

このように、医療上の意思決定を行う場合EBMの3(4)要素に加え、患者の医療者への信頼度も加えて考えたいなと思います。リスク・コミュニケーション論では、この信頼度を決めるものは「能力」と「誠実さ」ですが、どちらも耳が痛いですね。ますます医師はスーパーマン的努力が必要なようでクラクラします。

また次の機会で、いよいよクラクラしなくて良い実践的方法について、具体的な抗凝固薬を名前を上げならが考えてみたいと思います。

というわけで本当は最初の図のバージョンアップを載せる予定だったのですが、またまたそもそも論をしてしまい、時間がなくなってしまいました。すみません^^

※それから、このような図を書いておりますので、利益相反は明確にしておきたいと思います。
私は、日経メディカルの図に挙げられている各薬剤の製薬会社(エーザイ、日本ベーリンガーインゲルハイム、バイエル薬品、第一三共、ブリストルマイヤーズ)のうち前4社から、平成24年12月までは講演会謝礼を受け取っておりました。平成25年1月からは各社主催または共催の講演会あるいは出版物の監修を行っておりますが、それに関する謝礼は全5社から受け取っておりません。
ご参考になればさいわいです。

昨日は雨でしたが、雨にも負けず散歩しました。今朝は晴れてまたにゃんこのお出迎えです。雨の日もあれば晴れの日もあります。
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by dobashinaika | 2014-10-23 23:57 | 心房細動診療:根本原理 | Comments(0)

EBMとSDM(shared decision making)の関係:JAMA誌

The Connection Between Evidence-Based Medicine and Shared Decision Making
Tammy C. Hoffmann, PhD1,2; Victor M. Montori, MD, MSc3; Chris Del Mar, MD, FRACGP1
JAMA. 2014;312(13):1295-1296.


JAMAから。Evidence-based medicine (EBM) and shared decision making (SDM) の関係についての総説
要点のみ

・EBMとSDMともヘルスケアの率の本質だが、両者の相互依関係については十分理解されていない
・EBMはこれまで患者の価値、好みを無視しがち:それらの統合が困難なため 

<両者が不可欠>
・SDMなきEBMは暴政(専制政治?):エビデンスは本に訳されずに投げ出され、アウトカムか改善しない・EBMの原則に目が向けられない時SDMは限定的となる
疾患の自然経過、可能な選択、利益と害について知らされなければ、患者の好みや意向は信頼できるリスクベネフィット評価に基づくものでないことになる

<なぜ分断されていたのか>
・これまでEBMのリーダーや研究者、指導者とSDMのそれとは別のクラスターだった
・EBMの起源は疫学なので、方法論やエビデンスのリソース、吟味、統合などに焦点が当てられていた
・そして患者との話し合いやエンゲージには気が蒙られなかった
・EBMの関心の多くはスキャンダル(未発表データとか、spin、利益相反)やテクノロジーに目が向きがち

<統合の実現>
・まずEBMトレーニングにSDMを取り入れること
・もう一つは臨床ガイドラインに両者を取り入れること
・多くのガイドラインは患者の好みを取り入れていない
・または患者と会話するよう促しているが、その方法まで言及していない
・リスクベネフィットが拮抗している時やエビデンスが不明瞭な場合にこそSDMが強く薦められる
・特にリスクベネフィットが拮抗している時。たとえばワルファファリン患者での服薬アドヒアランス、モニタリング、食品

<結論>
・最近になりEBM,SDM両者のリンクの不足と重要性が指摘されてきた
・ガイドライン、教育、リサーチなどで強調される機会がたくさん
・Evidence-based medicine needs SDM, and SDM needs EBM. Patients need both.
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###抗凝固療法も例示されていましたね。抗凝固療法などはSDMの適応の必要な最たる分野かもしれません。

どうシェアしたら良いのか。EBM(狭義のでしょう)の中に取り入れられにくかったのは、それが本質的に”スキル””テクニック”ではくくれない、客観的な技法ではないからだと思われます。

SDMなきEBMは暴政(専制政治?)なら、EBMなきSDMは宗教でしょうか(あるいは詐欺?)
by dobashinaika | 2014-10-04 23:32 | リスク/意思決定 | Comments(2)

日本心臓病学会で考えたこと:薬のアドヒアランス、薬選択の意思決定の徒然

26日から3日間、東北大学循環器内科の下川宏明教授会長のもと、第62回日本心臓病学会学術集会が開催されました。この3日間仙台は、それは気持ちのいい快晴の連続でして、全国の循環器専門の先生は初秋の杜の都を満喫されたのではないかと思います。

さて、私、実は8月初めから体調を崩し、診療したりおやすみしたりの日々が続いておりました。
ようやくここ1〜2週で体調が回復しつつあり、元通りの診療ができるようになったので、昨日の午後と本日、学会に顔を出してみることにしました。

仙台国際センターは、実は当院からもそれほど遠くなく天気も最高なので散歩がてら行けそうだったからもあります。

昨日27日は仙台市民会館でNOACのセッションを隅のほうで聞きました。
印象に残ったのは、女子医大の志賀先生のアドヒアランスの話です。
各NOAC 80〜250例程度の検討ですが、1年で万全のアドヒアランスのひとは80%、2年では60%くらいという数字に驚いた、というか、そうかもな、という感じがしました。当院でもNOAC飲みはじめの3ヶ月間で患者さん自己申告のアンケートを取ったところ、1回でも飲み忘れがある人が15%いらっしゃいました。

志賀先生の施設では、ダビガトラン自己中止2例で脳梗塞を起こしたとのことです。
ではどうすればよいか。

患者さんには、まず飲み始め初期に抗凝固薬のゴールをしっかり認識していただきたいし、医師の方も降圧薬やスタチンのように、少しくらい飲み忘れても重大に考えないのでその意識を改める。そのためには患者さんへのコーチングを厳しくする必要がある。そう考えがちですが、ことはそう簡単ではありません。

患者さんに情報を提供して、医師と一緒に治療法を選択する、いわゆるshared decision making (SDM、意思決定共有)の重要性がよく指摘されますが、抗凝固療法の場合、リスクを数字で表すツールなどを使ってSDMを図り、アドヒアランスやアウトカムを向上しようとしても、うまくいくという報告もあれば、そうでもないというのもあります。

特にNOAC時代になり選択肢が増えたあとの検討は殆どないようです。
こちらも参照。
http://dobashin.exblog.jp/19768186/
http://dobashin.exblog.jp/19768203/
http://dobashin.exblog.jp/19917325/

そうした問題意識を抱えたまま、本日、山下先生のランチョンセミナーを拝聴しました。
そしたら驚いたことに、山下先生も同じことを考えておられました。

山下先生の話は、いつもながらレトリックとデータの両者が豊富で多岐にわたっていましたが、主張自体はシンプルでおおよそ以下の様なことだと解釈しました。メモからなので間違いあったらすみません、訂正します。
・NOACを比較する場合、スタンダードのワルファリン群のプロファイルがまちまちでばらつく
・RCTでのINR管理も(Jロケット以外)日本の基準とは違う
・RCT間の差は軽微
・それより患者の価値と各薬剤の強みを重視したい
・また薬剤動態も重視する。
・血中濃度が測定できればよいが

そうですよねえ。というか、このことは実は私前々から主張していたスタンスです。エヘン(笑)。
といばるわけではありませんが、ブログやツイッター、拙著でも、つぶやいていたことではあります。
たとえば
http://dobashin.exblog.jp/18677495/
http://dobashin.exblog.jp/19600208/
しかし、同じことでも山下先生が発信する力は莫大ですね。非常に心強いです。

クリニカルエビデンスは常に危うい、だからそれ以外の要素、患者の世界、医師の専門性、患者の取り巻く状況まで考える。これはEBMの教科書にある基本ですが、NOACの世界では特に痛感します。
みんなNOAC、NOACと言ってますが、まだRCT4つしかないわけです。現実世界を反映しRCTにフィードバックをかける観察研究が極めて少ないです。

山下先生のご指摘通リNOAC間の比較は、それぞれに違うワルファリン群を介しての間接比較ですので、今は各種統計的補正を施しているとはいえ、やはりそれで確固たることが言えるわけではありません。

またよく見かけますが、評価項目の一部だけ比較する、例えば「虚血性脳卒中」だけ比較するのも、あまりおすすめはできません。
まして、サブ解析同士の比較(例えば腎機能別サブ解析)で、こっちの薬はこういう場合には良いよ、というのは、EBM的にご法度のはずです。

薬剤選択では、今一度EBMの基本に立ち返ってこうしたことをゆっくり考えたいところです。つまりNOACの使い分けなど、いまだ弱いエビデンスに基づいた脆弱なものであるということを。
そして、そうした中でも使えるエビデンスは、必ずあるので捨てずに使うようにしたいということを。

最近良く感じるのは、循環器や神経内科専門医の先生は、やはりかなりNOACを使われている。一方開業医は、循環器に詳しい人ほどワルファリンのままでいることが多い。そのまた一方NOAC一辺倒でものすごく使っている先生がいる。その影でまだまだあまり抗凝固療法自体に消極的な先生が、一杯おられる。

こういう状況かとお思われます。私の周辺だけかもしれませんが。

追記:ツイッターで「コストが大切」とご追加いただきました。これも専門医とPC医で意識に温度差があるかもしれません。当院でも「高いから」ワーファリンで良いというからがかなりおられます。
これもアドヒアランスとともに大問題ながらあまり学会や研究会で取り上げられない。コスパ研究もっとほしいですね。

で、そうした診察室内部のコップの外で、適応がありながら処方されていないひとや、無症候性で全く医療機関を受診していない心房細動患者さんがどのくらいかわからないほどおられる。

こういう構図が、いまの心房細動抗凝固療法を取り巻く状況ではないかと密かに考えるわけです。
あくまで私の感じる雰囲気であり、それこそ何のクリニカルエビデンスがあるわけではありません。
ですので、もしご批判的吟味をしていただければ、大変助かります。

で、これからどうするかですが、上記のSDMをこの日本の医療現場でどうやって行くのか、具体的にはやはり薬の情報をどう捉えてどう患者さんに伝え、お互い納得の行く選択ができるかということなんだろうと思います。

そうはいっても患者さんが自分で選ぶことは難しくて、やはり医者にお任せが多いのではと言われたことがあります。そういう意向の患者さんもおられますが、NOACに関してワルファリンも含め4つの薬の特徴を丁寧に説明したあとで、やっぱりわからないからお任せしますという方はかなり少ない印象があります。ARBなどと違い、4つ(今後5つ)それぞれにかなりの個性の差があるからだと思われます。NOACこそはSDMを行うべき、また行い易い薬だろうと思います。

この納得への道が難しいわけですが、まず述べたようにNOACに関する情報の捉え方としてRCTや間接比較、サブ解析のみを重視しない、観察研究も十分注意する姿勢ですね。

そして情報を患者さんとどう共有するか、もっと具体的にいうと患者さんにどういうふうに説明して、こちらの意見を押し付けずに薬を選びやすいようにお話するか、当然患者さんごとに話し方は違います。これは試行錯誤で唯一の答えは存在しないです。

一人ひとりの状況、リスク、理解度を考え、ひとりひとり違う話をする。まあこれこそが臨床であり,
まさに医者の仕事
そのものだと思うのです。

今日は理路非整然で、徒然勝手に書きました。長文にお付き合いいただきありがとうございます。

篠山紀信展をみて(なかなか感動)、それから素晴らしい広瀬川の秋に浸りながら歩いて帰れました。全てに感謝です。

これから気が向きましたら、ここ2ヶ月の共病生活について書いていきたいと思います。
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by dobashinaika | 2014-09-28 22:51 | 心房細動診療:根本原理 | Comments(0)

新規抗凝固薬に関する大規模試験の問題点(その2):T/H誌

昨日からの続きです。

New oral anticoagulants for stroke prevention in atrial fibrillation: impact of study design, double counting and unexpected findings on interpretation of study results and conclusions
http://dx.doi.org/10.1160/TH13-11-0918
N. C. Chan et al


<予期せぬ副作用>
1.各NOACともワルファリンより頭蓋内出血が少ない
2.高用量ダビガトランとリバーロキサバンで消化管出血が過多
3.ダビガトランで心筋梗塞が過多
4.低用量エドキサバンは、虚血性脳卒中が高率にも関わらず、血管死、全死亡は明らかに減少した

1)頭蓋内出血
・3NOACでワルファリンに比べた頭蓋内出血減少は強く一貫している:RR中間値0.40
・RELYとROCKETAFでは、脳内出血の大多数は頭蓋内出血(各46%、72%)。次が硬膜下出血(45%、24%)
・NOACは凝固因子を量的に抑えるので、局所の微小出血部位で組織因子絡みで大量に生成されるXaやトロンビンにより駆逐されてしまう。
このことが微小出血を大出血に変換させないことにつながる
・対するワルファリンはXaやトロンビンを修飾し、微小出血部位で組織因子に関連する凝固因子(VIIと思われる)を抑える
・このことは実験レベルで証明済み

2)消化管出血
・ダビ150,リバーロ、エド60はワルファリンに比べ、消化管出血率を増やした
・一方、アピは消化管出血減少傾向を認め、エド30は明らかに減らした:出血減少としては最も地味であるが
・これらの薬剤は消化管において活性型として高濃度に配置される
・ダビ150が糞便中の薬物濃度が最も高い
・NOAC(リバーロ除く)のうち、ダビは上部下部消化管で出血率は同等だが、アピ、エドは上部に多い(2/3)。
・ダビは吸収がpoorで、エステル化による生物学的活性化による活性化された薬剤が腸管に高濃度に残るためであろう。

3)心筋梗塞
・ダビはワルファリンに比べ、心筋梗塞リスク増加と関連した:キシメラガトランなども同様
・Xa阻害薬にはその傾向なし
・メカニズム不明
・影響は軽微だが、統計的には明らか
・プラークラプチャーした部位でのトロンビン凝集を妨げる力の違いかもしれない

<低用量エドキサバンの死亡率低下>
・ENGAGE AFでは、エドキサバンは15〜60mgという4倍のスパンの用量設定がなされた
・低用量エドキサバンは、ワルファリンより虚血性脳卒中を明らかに減らし(ARR0.55%/年)、血管死も減らした(ARR0.46%)
・死亡率も低下させ、出血減少がこれに寄与した:大出血ARR1.82%、致死的出血ARR0.25%:多くは頭蓋内出血減少
・低用量エドキサバンとワルファリンの死亡率減少の差は、頭蓋内出血減少だけでは説明不可能:致死的脳卒中のARRは0.07%、死亡率のARRは0.55%
・他に死亡率減少の理由としては血管死の減少がある
・大出血が、非出血性血管死に寄与しているとするのは妥当:機序として抗凝固薬の中止、低血圧、過凝固など

【考察】
・再評価によって見えてきたこと
1)有効性のアウトカムから頭蓋内出血を省くと、虚血性脳卒中の減少効果でワルファリンより優れたのは高用量ダビのみ

2)リバーロキサバンとエドキサバン60のITT解析での優越性欠如は、高い早期脱落率によるものであり、間接比較の問題を浮き彫りにした

3)ダビ、リバーロ、エド60は消化管出血増加に関連

4)特に低用量NOAC使用で、出血減少に伴い死亡率が減少

・アピとエド30は出血高リスク例にアピールする:消化管出血増加に関連せず

・エド30はワルファリンより脳梗塞が高率だがアピは脳梗塞の低い傾向

・リバーロとエド60は1日1回が強みだが、消化管出血はワルファリンより多い

・ダビ150は、非出血性脳卒中をワルファリンよりも減らす唯一のNOACであり、2012ESCガイドラインでもアピ、リバーロ内服中の脳梗塞高リスク例には推奨された:ただし消化管出血、心筋梗塞は増やすのでそうしたリスクのある例には注意

・直接比較はない時点では、NOAC間の選択は虚血性脳卒中予防、大出血リスク(頭蓋内出血と消化管出血)、心筋梗塞リスク、死亡率と1日1回という便利さを検討することに影響を受けるであろう。

【結論】4NOACは、より便利で、頭蓋内出血を減らし、少なくとも脳卒中/全身性塞栓症予防に効果的であり、死亡率を減少させる。NOAC間の相対的な有効性と安全性についての明確な結論は、直接比較がない以上控えるべき。

### 最後の1文が全てのように思います。その割には結構大胆に使い分けに関して述べているように思いますが。。中断率が高いためNOAC間比較は難しいという指摘が一番目を引いたように思います。

現時点では4NOACを上記のようないろいろな観点から優劣を考えて使い分けすること自体、医師の”好み”の問題に帰結せざるを得ないというのが本当のところだろうと思います。まあこの件に関しては、論じればキリがないですが、疲れたのでこの辺で。
by dobashinaika | 2014-03-05 01:10 | 抗凝固療法:比較、使い分け | Comments(1)

新規抗凝固薬に関する大規模試験の問題点(その1):T/H誌

Thromb Haemost誌に4NOACの大規模試験に関して興味深い総説が掲載されていますので、紹介します。

New oral anticoagulants for stroke prevention in atrial fibrillation: impact of study design, double counting and unexpected findings on interpretation of study results and conclusions
http://dx.doi.org/10.1160/TH13-11-0918
N. C. Chan et al


【(これまで)公表されている結論】
1.ダビガトラン150は、大出血を増やすことなく、ワルファリンに比べ脳卒中/全身性塞栓症予防に効果あり

2.ダビガトラン110は、ワルファリンに比べ脳卒中/全身性塞栓症予防は非劣性で、大出血は少ない

3.リバーロキサバンは、大出血を増やすことなく、ワルファリンに比べ脳卒中/全身性塞栓症予防は非劣性

4,アピキサバンは、ワルファリンよりも脳卒中/全身性塞栓症予防、および大出血、死亡率減少に優れる

5,エドキサバン60は、ワルファリンに比べ脳卒中/全身性塞栓症予防は非劣性、大出血、心血管イベントリスクは減らす

6.エドキサバン30は、、ワルファリンに比べ脳卒中/全身性塞栓症予防は非劣性、大出血、心血管イベントリスクは減らす

総じて、4NOACは安全性、有効性で少なくともワーファリンと同等で、頭蓋内出血は減らす。このことは市販後調査や、登録研究、モデル研究で指示されている。

【データの批判的審査後の上記結果の再評価】
結果の解釈や推奨度の考慮に影響を与える問題として以下があげられる。
1.4試験とも、頭蓋内出血(出血性脳卒中)は脳卒中(有効性アウトカム)と大出血(安全性)による”ダブルカウント”

2.ROCKET AFとENGAGE AFにおける高い早期中断率:これらはITT解析においてリバーロキサバンとエドキサバンの不利益となる

3.RE-LY,ROCKET-AF,ENGAGE-AFにおける予期せぬ副作用

4.低用量エドキサバンの予期せぬ死亡率減少

〈頭蓋内出血のダブルカウント〉
・伝統的に、心房細動の脳卒中予防研究では一次有効性アウトカムは脳卒中(出血と梗塞)と全身性塞栓症の複合である
・各4試験において、NOACは脳内出血(合併症)を減らした
・ゆえに、出血性脳卒中を有効性と安全性の両方に組み入れることはワルファリンに比べたNOACのネットベネフィットを過大評価する可能性あり
・有効性アウトカムから脳内出血を外すことはNOACのワルファリンに比べてのベネフィットの解釈を以下の3つの形で変化させることになる
1)4つのNOAC全てでネットクリニカルベネフィットの誇張された評価があきらかになる
2)ワルファリンに比べて虚血性脳卒中を減らすのはダビガトラン150のみである
3)これまで認知されているアピキサバンの脳卒中と頭蓋内出血の両方の減少に関する対ワルファリン優位性は両方に出血性脳卒中が含まれることで説明可能

<ITT解析の早期中止のインパクト>
・各論文はITT解析が報告されているが、ROCKETAFとENGAGEAFの初期解析法はon-treatment 解析である
・ITT解析すると、リバーロキサバンと高用量エドキサバンはワルファリンに比べ非劣性だが、アピキサバンと高用量ダビガトランは優位性を示した
・このことをもってアピ、ダビよりリバーロ、エドの効果が少ないと考えるべきではない
・その比較が間接的であるという事実とは別に、4試験には早期中断者数とITT解析に含まれるoff-treatmentでのイベント(試験期間中)の数に重要な差異がある
・4試験のうちROCKETAFとENGAGEAFは高い早期中断率であった:参加者のCHADS2スコアが高くより重症例がいるため
・ROCKETAFではリバーロキサバン群の35.4%、ワルファリンの34.6%が早期に中断、ENGAGEAFではエドキサバン34.3%、ワルファリン34.4%で早期中断
・このためこれらでITT解析を行うとoff-treatmentでのイベント(が多くカウントされてしまうこと)により薬の効果が薄まる
・早期中断は各試験の両群間のoff-treatmentイベントにアンバランスをきたす:ROCKETAF=ワルファリン群66追加に対しリバーロ群81イベント追加。ENGAGEAF=ワルファリン群105に対しエド群14追加
・高い早期中断率の結果、ROCKETAFではハザード比はon-treatmentでは0.79(p=0.02)だが、ITTでは0,88となりもはや優位性は消失。ENGAGEAFでの高用量エドキサバンも同様

### さすがマクマスター大学グループ、というか、脳出血のダブルカウントは以前から矛盾として指摘されていました。脱落率過多によるITT解析の不適切さは、EBMをかじったものなら気づくべきですが、私も脱落率高いなあと思いながら、まあそんなもんかとも思ってスルーしてしまっていました。RELYでは21%、ARISTOTLEも23%で、総じて決して低くはない数字ですね。

ここまでまとめるだけで疲れましたので、後半の「予期せぬ副作用」とディスカッションもかなり面白いのですが、すみません、明日できれば紹介いたします。
by dobashinaika | 2014-03-03 23:37 | 抗凝固療法:比較、使い分け | Comments(1)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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プライマリ・ケア医のための心房細動入門

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