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抗凝固療法に対する患者と医療者の認知/行動についての質的研究システマティックレビュー:BMCFP誌


目的:ビタミンK阻害薬(VKA)のアンダーユーズに関連する因子を探求するために医療者と患者のVKAのリスクベネフィットに対する認知と行動について評価したシステマティックレビュ

方法:
・医療者と患者の抗凝固療法に対する認知と行動に焦点を当てた質的あるいは質的量的混合の研究を対象
・2013年までの各種論文検索エンジンを使用

結果:
1)9研究。研究の質:4研究はexcellent,5研究はmoderate

2)医療者,患者共通に関心あるテーマは3つ:
・抗凝固薬使用の強化
・利益と不利益のバランス
・意思決定と治療管理の役割

3)患者の関心テーマ3つ
・知識と理解
・日常生活への影響
・治療の満足度

4)医療者の抱く困難感
・未来の不確かさ
・個人に特化した意思決定
・主要な問題を任されているという責任感

5)患者の抱く困難感
・情報と理解の不足
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結論:医療者と患者の認知と行動はVKAアンダーユーズの潜在的要因であろう。診療ガイドラインの質と使い勝手の向上,意思決定のための支援ツールの開発,プライマリケア医と専門医感の連携強化,患者への情報提供の改善といったことが抗凝固薬のアンダーユーズを改善する。

### 家庭医療分野から昨年出た論文ですが未紹介だったのが悔やまれる非常に興味深いレビューです。
循環器専門医は抗凝固薬のリスクベネフィット(ときにNOAC別の)やCHADS2スコアなどに目が向きがちですが,「なぜ抗凝固薬が出せないのか」を認知と行動の面から考えるのが家庭医です。そしてそこに質的に焦点を当てることこそ,量的研究だけでは計り知れない現場の悩み,葛藤が垣間見えるわけです。

共通の関心事としてリスクベネフィットは当然として,意思決定や治療上の管理について患者医療者双方が関心を持っている点はこうした研究に参加者する人の意識の高さを伺わせます。

困難感として,医療者は「未来の不確定」がある点はすごいと思いました。やはり抗凝固薬を使っている医者にとって,「未来は誰にもわからない」ことを骨みにしみて感じているのだと思います。

一方,患者さんは日常生活へのインパクトや満足度,情報の不足を気にするわけです。薬を飲むこと,飲まないことで具体的に生活自体にどんな影響が出てくるのか,単に脳梗塞が予防できる。消化管出血の可能性がある,というだけでなく,脳梗塞,脳出血になったときの生活の質の変化を具体的に示すことが,患者さんのニーズであり,イメージが明確化されるのかと思います。しかしながらここを突いてしまうと,不安感の増大に通じることがあり,この分野で患者さんのニーズをそのまま意思決定に取り入れることの難しさも感じます。

抗凝固療法における意思決定。もうこのネタ何回取り上げたかわかりませんが,最近は行動経済学にもとづくナッジとい概念が有効ではないかと考えています(以下参照)。
その辺に関しては後日まとめて書きたいと思います。

$$$ 待望のおのくん,ゲットしました。とても柔らかいです。
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by dobashinaika | 2018-03-29 00:03 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)

心房細動初発から治療までの患者経験〜心房細動とはなにか、病気とはなにか:JCN誌

Patients' experiences from symptom onset to initial treatment for atrial fibrillation.
McCabe PJ, et al
J Clin Nurs. 2014 Nov 25


疑問;心房細動の症状を感じてから治療に至るまでに患者は何を経験するのか?

方法:
・質的アプローチ
・対象:女20人、男21人。1つの医療センターでの心房細動患者
・オープンエンドクエスチョンを用いて、症状初発時から治療に至るまでの患者の経験を探る

結果:
1)平均64.3歳

2)以下の4つのテーマに分類可能
1)症状に対する誤解
(2)心房細動の意味の発見
(3)恐れに直面、その後受容
(4)納得し、再承認する


3)登録者は心房細動の知識が欠如していて、症状や診断を評価していくときの医療者の反応からきっかけを掴む

4)おそれと不確かさは、医療者がはじめに迅速な治療を行い、心房細動への説明をすることで軽減される

5)患者は明確な情報の入手を歓迎し、学ぶことに専念し、ケアに参加しようとするようになる

結論:医療者は、患者が心房細動を正確に理解し、新たな診断に対処し、自己管理へのモチベーションを高めるための援助において重要な役割を演じる

実臨床との関連:心房細動の症状初発から治療までの患者の経験への視線は、心房細動自己管理の効果があることを広く知らせることになるだろう

### 素晴らしくも興味深い知見ですね。

私、8月に椎骨動脈解離を経験して以来、病気をするとはどういうことなのか、よく考えます。医療者にとって病気とは、患者さんに起こった現象を科学的に意味づけして、その意味付けを治療に生かしていく、そういったいわば客観的な対象としてとりあえずは目の前にあります。

一方、病気になった患者自身にとって、まず、病気は当然ながら客観的な対象ではありえなくて、たとえば私の場合、目を開けて左を向いた時、風景が高速ランダム運動する現象と、常時後頭部から背中を回りおへその周りに至るまでのなんと表現してよいかわからないもっさりした感じを発症当初から感じたわけですが、これらは目に見える実在の”もの”でも、ましてや”現象”と呼べるものですらなくて、まさに自分と一体となった感触というか、そうした感触まで含めての「自分そのもの」としかいえないものなのです。あとで言葉にしたから分けられるように思われますが、実際は。この感じはたとえば「めまい」です、この感じは「頭痛」ですと切り分けられるものではありません。

こうした、病気発症時の得も言われぬ感触は、この論文の質的アプローチが明らかにした(1)の症状への誤解と呼ばれるものかと思います。「誤解=misinterpreting」という呼称よりは、混乱とか混沌がいいように思いますが。ただ私としては、そうした混沌はまさしく自分そのものなので、「混沌とした自己」といったほうがいいように思います。

こうした混沌に一定の秩序を与えるのが、言葉であり、特に医療者の言葉かもしれません。主治医の説明で私も初めて、この混沌は実は、右の椎骨動脈の壁に亀裂が入って、そこにできた血栓が小脳に飛んだためだということを理解し、上記(2)の意味の発見ができたわけです。心房細動患者さんも、この感じは、脈が不規則に出てくることによって感じられるもので、これを心房細動と呼びます、と言われて初めて、自分の”感じ”が、心房細動という言葉と対応し、症状と身体的現象が因果関係としての意味付けされ、いちおう安心というか理解ができるわけです。

私の場合、医師としての知識があったので、意味付けの作業は割とスムーズでしたが、この作業こそ個人差のある、人によって進行度は様々な、それこそpersonalなものかと思います。
その後の、「おそれ」「受容」「納得」「再承認」の過程は私自身非常によく理解できます。このプロセスは多くの病者が経験するプロセスだろうと思います。

プロセス。
そうですね。病気になるということは、それまでの「自己」を構成しているネットワークが、病気をきっかけに急激に変容する。そのネットワークの変容の有り様そのももであり、変化していく全工程のことだと思うのです。決して、「動脈の解離」とか「心房内のスパイラリエントリー」といった物理的現象へと単純に還元できるものではありません。医療者は、そのネットワークの変容のバランスを、科学的方法を武器に少しでも整えようとするパートナーのような存在でしょう。

この論文ではそのような医療者の患者内部のネットワークの「コーディネーター」的側面を、質的アプローチで明らかにした点で、優れたものと思います。

この「混沌」と「言葉」と、体の中で起こる「物理的現象」のおりなす様々な諸相については、大病を経験してみて見えてきたものがたくさんあります。今述べた意味付けコーディネーターとしての医者、というのも実はもう少し違った側面があるとも思っています。またその意味付けには、かなりの限界があるということも感じています。
そのへん、また共病記で書き留めることにします。

$$$ 小雨けぶる晩秋の神社。晩秋というのはいいですね。思うのですが、この「晩秋」を何千年か経験することで、日本人の滅び行くものへの共感のようなものが相当養われて来たのだと思うのですね。おおげさですけど。
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by dobashinaika | 2014-11-26 22:56 | 心房細動診療:根本原理 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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