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エラーへの不寛容と罪の文化が過剰医療を招く:BMJ誌

Intolerance of error and culture of blame drive medical
excess
Jerome R Hoffman
BMJ 2014;349:g5702 doi: 10.1136/bmj.g5702 (Published 14 October 2014)


UCLAの救急医療センターの名誉教授の先生による「エラーへの不寛容と罪の文化が過剰医療を招く」という論説です。

<冒頭>
・過剰検査、過剰治療には多くの理由あり
・商業主義と財政的インセンティブは大きい
・しかし、最も大きな理由は医師の不確実性とエラーに対する不寛容であり、これらは特に西洋の大きな医学的文化である
・克服する必要有り

<医療の誤りやすさの否定>
・”間違うのが人間”。特に急性期医療では意志決定のエラーは避けられない
・被害を減らす最善策はエラーを見つけ同定すること
・しかし恥と罪の文化は西洋に根本的にある
・科学は完璧であるとの観念もそれに輪をかける
・医学は無限の可能性があるという一種の神話は広く信じられていて、これが医療への完全な結果への要望と悪い結果を許さない文化に関係
・医師もミスはその人の責任と教育されていて、「結果は理想より小さなもの」(〜悪い結果は悪いプロセスの反映)と諭されている
・さらに社会的にも患者の害は罪であり恥であると感じるように仕向けれられ、完全さ、空疎な確実性が要求され、「多いことは大事」「情報は力」「テクノロジーが全てを解決する」そしてついに「死は選択可能なもの」という”標語”がまかりとおる。

<保身医療の役割>
・エラーへのおそれは、医師を常に過剰診療へと向かわせる
・ハイリスクな6つの専門領域の医師に対する調査では、824人の米国医師の90%が保身医療になりやすいと認めている
・具体的には、不必要な検査:59%、適応以上の処方:33%、必要以上の患者との関わり:52%
・救急分野の医師の97%は、医学的に不必要な画像診断をオーダーしてしまうとの報告もあり

・ゆえに医療過誤に対する法改正が考えられてきた
・しかしそうした法改正が、訴訟を減らし、保身医療やコストを削減するという効果は限定的
・最大で5〜9%の医療費削減ができたとの報告あり
・しかしそのデータは1980年台の高齢者のもの

・ただしその取組自体は、使いすぎは罪という文化の形成に有用
・保身医療のコストは、アメリカの医療費の82%を占めるとも言われている

<行動変容へのアクション>
・現状を変えなければならない
・法改正以外の道を探そう
・英国NIHでは950の“do not do”リストを作成し、不必要な医療の削減を模索
・米国内科医学会のChoosing Wisely(賢い選択)キャンペーンでは、60以上の専門学会がトップ5の低価値医療行為を選定
・JAMAやBMJのリサーチもあり
・もう一つのアプローチはShared decision making(共有された意思決定:筆者訳):医療費削減のエビデンス多い

・しかしこれらのアイディアをも越えていく必要がある
・避けられないエラーへの寛容さ:医師専門社会と社会全体の両方でそのような「受け入れられるミス」を定義すること
人の体を失敗から守るよりも、月に人が行くほうが、とてもやさしいということを医師、社会お互いに教育していく
・臨床の外の情報、あるいは我々の理解していない情報をが害を生む
・「病気をより早くキャッチする」ことは常に患者を良い結果に導くとは限らない
・そして最終的には、多いことがいいこととは限らないーmore is certainly not always better

<まとめ:キーメッセージ>
・エラーと不確実性へのゼロトレランス(全くの不寛容)が過剰診断過剰治療を招く
・過剰医療抑制策として、医療過誤法改正は問題解決として不十分
・不確実性への広い理解には、医者世界と社会の両者の文化的変容が必要だろう

### エラーと医療の不確実性に対し、医師も社会も両者ともがもっと寛容になろうという論説。
法律や、Choosing Wiselyなどの方法だけでなく、「許す」文化自体への変容が提唱されています。

西洋は「罪」の文化、日本は「恥」の文化といわれますが、西洋にもどちらの概念も関与しているというのは興味深いです。程度の差なのか。

ただし、日本の医師の間では、訴えられるから多めに検査や治療をオーダーしてしまうというよりは、いわゆる「念のためMRI」や「念のため抗生物質」のように何かの問題に対しとにかく是正しておかなければならないという律儀?な精神が奥底にあるように思われます。そういう意味では「罪へのおそれ」よりも「無謀な誠実さ」の文化かもしれません。この文化の変容はどうしたよいのか。

ただ、こ之論文では文化の変容の具体的戦略は述べられていません。地道にコツコツShared decision makingを心がけるか。すぐMRIを希望する患者さんにどう説明するか。なんといっても文化を変えるとなると、当事者だけの努力だけではなくて、メデイア、教育、医療システム全体の変革が圧倒的必要であると思われます。

「多いことはいいことだ」から「多くないのもいいこと」「多いのは悪いこと」に頭を変えていくこと。さらには「多い、少ない」で分けられない不確実性があることをみんながわかるようになること。それも当事者であってもそう考えられるかどうか。。。。

まずはそうしたことを考えるのに良い論文でした。また別の切り口のがあったらご紹介します。

写真は昨日の散歩。住宅街の何気ない道影にもこんな自動販売機がしっかり作動しているのが日本の路地裏ですね。寛容ですねー
a0119856_23112672.jpg

by dobashinaika | 2014-10-26 23:11 | 医療の問題 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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