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共病記(2)〜医者が患者になった時〜

共病記=医者が患者になった時(入院したので「患者になった時」にしました)の続きです。
前回はこちらです。
http://dobashin.exblog.jp/20303802/


救急隊の方が、私の体を瞬く間に担架に乗せ、救急車まで運びました。この間不思議にあまりめまいは感じなかったように思います。それより、目をつぶり、息を潜ませて担架で運ばれると、不思議に「空気の匂い」「温度」に非常に敏感になることに気が付きました。部屋から廊下に出た瞬間のむっとした夏の夜の空気と、建材の鼻に付く化学臭。外に出た時の頬に差す小雨と土の匂い、救急車の中の薬品や医療機器の匂い、それらひとつひとつにそれまで全く意識しなかったような匂いや感触を覚えました。異様に敏感になった臭覚、触覚でもって脳に直接伝わるかんじでした。

でも、救急車の中は地獄でした。それほど揺れてはいなったのでしょうが、ちょっとした段差や左右の横揺れが、ひどいめまいと吐き気を誘いました。おそらく10回は嘔吐したと思います。最後は吐くものがなくなりましたが、本来上から下に行くべきものが、急激に逆流することの苦痛をひさしぶりにいやというほど味わいました。経験したことのある人は多いと思いますが、これでもかと押し寄せる吐き気の苦痛は言葉では表現できません。苦行です。

早く着いてくれ、その言葉だけを念じていました。実質的には10〜15分程度だったのでしょうが、1時間にも感じました。

ようやく、病院の救急外来に到着しました。ここは実は私も勤務したことのある病院で、うっすら目を開けると部屋のレイアウトに若干の見覚えはあるのですが、でも今日はこれまで全く来たことのない病院のように感じました。と言うより病院の部屋全体が現実感のないもの、妄想の中のもののように思えました。なんでここに自分がストレッチャーに乗りながら横たわっているのだろうという受け入れがたい現実のせいだったのかもしれません。

すぐに看護師さん、若い先生方数人が取り囲み、名前、生年月日、住所の確認、血圧測定、酸素飽和度測定、点滴差し替え等、滞りという言葉とは全く無縁の、ある意味機械的な処置が次々となされていきました。大変な状況にもかかわらず、その手際の良さにひどく感心しました。

そのうち若い先生がやってきて「神経所見を取らせていただきます」と、丁寧に声がけされたあと顔面、上肢、下肢、体幹の麻痺、温痛覚、触覚と順序通り丹念に診察されました。この間、ひとつの所見をとるたびに「〜をしますね」と声がけされました。いつも自分はこんなに丹念に患者さんに声がけしてたのか不安になりました。私が医師だったことも大きいと思いますが、患者になってみて、こうした丁寧な声がけがとても患者さんを安心させることを痛感しました。

心電図、ポータブル胸部X線、採血と進み、頭部CTとMRIを撮ることになったのですが、ここへ来てまた大問題、つまり強烈な尿意が限界に達していました。採血の段階になり、もう一寸たりとも動くと失禁しそうになりました。ただ、ベット上で排尿できるかものすごく不安で、また恥ずかしくもあったため、極力ひっぱっていたのですが、もうダメでした。尿意を告げるといかにも屈強な男性の看護師の方が尿瓶をあてがってくれました。そこで、乳児の時をのぞいては初めての臥位での排尿をしました。尿意がものすごく強かったためか、首尾よくおしっこが出て下腹部が楽になった時には本当にホッとしました。

CTはすぐにおわったのですが、検査台に移る時とストレッチャーに戻る時が、また大変な苦行です。いちいち嘔吐していたように記憶しています。MRIは別の棟にありスタンバイに時間がかかりましたが、同じように苦行しながら移動しました。

MRIは受けたことのある方も多いと思いますが、閉じられた空間で大きな音と振動を感じます。押し寄せるめまいと嘔気も相まってそれはひどく長く感じました。

その後、かなりの時間控室で待っていました。相変わらず正面より左を向くと、例の高速風景移動が起きます。点滴を受け、めまいの薬が入り終わっても全く症状は改善なしでした。「やっぱり脳かな」とおもっていたところ、内科当直の先生がいらっしゃり、CT,MRIの結果をお話されました。CTでは脳梗塞の像は認めない。MRIも大筋では大きな異常はない。ただし、ディフュージョン(MRIの拡散強調画像という撮影方法。脳梗塞の急性期に有用)で、小脳にわずかに変色しているようにみえるところがあるが、アーティファクト(人工的な雑音)のようにも見える。末梢性のめまい(脳由来でなく、耳の奥の平衡感覚のトラブル)の可能性が高いが、小脳のトラブルの可能性も否定できないので、入院の上安静が必要とのことでした。

人間とは、危機的状況の中で物事を自分の都合のいいように解釈します。それまで「小脳梗塞」かもしれない。。と漠然と考えてはいましたが、「末梢性の可能性」と言われた途端、ああもう大丈夫だという、なにか大きなものに包まれでもしたかのような安堵感に全身が支配されました。心房細動もないし、血圧は薬でかなり低かったし、他のリスク因子もないし。。。当直医の「小脳のトラブルの可能性。。」といったことなどほとんど頭に残っていなかったように思います。

そのまま耳鼻科の病棟に入院となりました。顔見知りの看護師さんが何人もいて、いつもならとても恥ずかしい感じだと思う状況ですが、それよりこの時点では安心感のほうが先でした。点滴のせいか、入室の頃には少しだけ吐き気も治まっていて、このまま落ち着けば2日くらいで帰れて月曜日からまた仕事だ。。そんなことまで考えました。

時計はすでに午前2時を回っていたかと思います。その晩は長い入院生活が始まることなど全く考えもせずに眠りにつきました。

### 本当は、もっと端折って書きたかったのですが、日記などを元に書いたら、細かなことも書かないでいられなくなってしまいました。もっともっと重大な疾患を経験している方もおられると思いますが、日頃患者を診る側の人間が、はじめて大きな疾患で患者の立場になった時の感想だと思って読んでいただければ幸いです。

休日の広瀬川遊歩道。ウォーキング、ジョギングする人であふれます。ジョギングは頭に響くのでまだ無理ですが、早歩きはかなり出来るようになりました。
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by dobashinaika | 2014-11-03 23:37 | 医者が患者になった時 | Comments(2)

土橋内科医院を受診される皆様へ

いつも土橋内科医院に通院いただき、ありがとうございます。

長らく診療をおやすみしておりましたが、本日から、院長(小田倉)がこれまで通り診療を担当することになりましたので、ご報告申し上げます。

このたびは、長きに渡り診療をお休みし、皆様にはご迷惑ご心配をお掛けし、大変申し訳なく思います。

8月初め、診療後にめまいを感じ、市内の病院に入院いたしました。平衡感覚をつかさどる小脳という脳の場所がありますが、そこに行く椎骨動脈という血管の一部の壁が裂けて循環が悪くなる椎骨動脈解離という病気でした。過度の首の運動がきっかけになるとも言われていますが、この病気の本当の原因はいまだによくわかっていないようです。しかし、幸い安静と薬だけで血管の状態は回復し、全く後遺症が残ることなく、8月下旬に退院いたしました。

9月29日からは、以前同様に診察を行っております。

今回患者さんの立場になってみて、不安、痛み、苦しみ、大変さ、医療スタッフの役割などなど、これまで本当のところを気づかずにいて、初めてわかったことが多々ございました。

今後はそうしたことを、診療に活かしていきたいと思います。そして体調に十分留意し、これまでどおり何でも相談できる診療を心がけたいと思います。

今後とも土橋内科医院をよろしくお願い申し上げます。
by dobashinaika | 2014-09-29 23:00 | 開業医生活 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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