高齢者の抗凝固療法においても,脳卒中予防効果が大出血リスクを上回る:Heart Rhythm誌


疑問:高齢者の抗凝固薬におけるネットクリニカルベネフィットは?

方法:
・心房細動。75歳以上,2013−2015年登録
・アウトカム:脳卒中,頭蓋内出血

結果:
1)11760例。抗凝固薬服用42.4%,ワルファリン17.4%,DOAC25.0%

2)ワルファリンTTR60%≧ (vs. < 70%)
脳卒中:低リスク(年間2.54% vs. 5.21,% P=0.01)
頭蓋内出血:同等(0.68 %vs. 1.10%, P=0.45)
ネットクリニカルベネフィット:高い (9.78 vs. 6.52)

3)DOAC高用量 (vs. 低用量)
脳卒中:同等: (8.40% vs. 9.81%, P=0.67),
頭蓋内出血;少ない (0.33 vs. 1.20, P=0.02)
ネットクリニカルベネフィット:高い (4.42 vs. 1.78)

結論:多くの高齢者に抗凝固療法が施行されていなかった。高齢者のネットクリニカルベネフィットはポジティヴであり,特にワルファリンTTR60%以上あるいはDOAC高用量で特に良好だった。

### イスラエルのコホート研究。高齢者であっても,適切に抗凝固薬を使えばベネフィット>リスクであることの補強エビデンスです。同様の報告はこれまで多く,条件が許せば高齢者でも(こそ)使うべきことを示唆します。もちろん個々のケースで出血リスクが高い場合は撤退も大いにありと思われます。

ちなみにTTR良好またはDOAC高用量は,それが原因か結果かは不明なので,結論づけて「〜すべき」ということはできません。

$$$ 晩夏の夕暮れ。茜はまだ紅にならないようです。まだ暑い。
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# by dobashinaika | 2018-08-23 08:21 | Comments(0)

東京のコホート研究では脳卒中/全身性塞栓症と全死亡はDOACーワルファリン間で有意差なし。大出血はDOACで有意に少ない:SAKURA AF レジストリー


P:登録時心房細動が確認され,抗凝固療法を施行されている日本のNVAF患者3268例

E:DOAC1690例

C:ワルファリン1578例

O:主要評価項目:脳卒中/全身性塞栓症。心血管死,全死亡,大出血,および以上全てについても解析

試験デザイン:東京地域の医療機関(2心臓血管センター,13病院,48診療所)からの前向き登録研究。2013年9月〜2015年12月に登録。平均追跡期間39.3ヶ月

結果:
1)追跡率:1年=97.5%,2年=91.2%

2)以下のアウトカムでDOAC-ワルファリンで有意差なし
脳卒中/全身性塞栓症:DOAC vs. ワルファリン=(1.2 vs. 1.8%/年)
大出血:DOAC vs. ワルファリン=(0.5 vs. 1.2%/年)
全死亡:DOAC vs. ワルファリン=(2.1 vs. 1.7%/年)

3)プロペンシティスコアマッチ後は
脳卒中/全身性塞栓症(P=0,.679),全死亡(P=0.894)は同じ
大出血はDOACで少ない(P=0.014)
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結論:日本における心房細動患者の抗凝固薬使用の現状とアウトカムに関する,高追跡率で信頼すべきデータである。3年追跡で,脳卒中/全身性塞栓症と全死亡はDOACーワルファリン間で有意差はなかったが,大出血はDOACで有意に少なかった。

### 日本大学板橋病院が中心となって行われている心房細動登録研究におけるアウトカム論文です。
患者背景等に関する論文はすでに出ています(これまで紹介しないですみません^^)

有名な伏見AFとの比較ですが,平均年齢はSAKURA 72.0歳,FUSHIMI 73.6歳。平均CHADS2スコアはSAKURA 1.80点,FUSHIMI 2.0点です。

SAKURAは抗凝固薬投与例のみが対象なのと,ワルファリンのTTRが算出されているところも違う点です。

まず2年間での抗凝固薬使用率の推移を見ると,ワルファリン,ダビガトラン,リバーロキサバンは減少し,アピキサバン,エドキサバンが徐々に増えているのがわかります。
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アウトカムでFUSHIMIと違う点は,スコアマッチ後は大出血がDOACで有意に少なかった点です。考察では,スコアマッチ後も1600例強と多くの例で比較している点を指摘していました。

それにしてもこの試験での大出血率は大変低いですね。ワルファリンでも年間1.2%,DOACでは0.5%です(頭蓋内出血でなく大出血です)。TTRも大変いいし,またCHADS2スコアも比較的低い例が多いのも一因と思われます。

ただし,高齢者でのサブ解析では今年の日循で発表されているものによれば,大出血でも差がなかったようです。

今後とも注目したい研究と思います。

$$$ 高い空,乾いた風,薄い雲,季節の移ろいが愛おしいですね。
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# by dobashinaika | 2018-08-19 22:23 | 抗凝固療法:比較、使い分け | Comments(0)

診療所での「いいね!」とその先

地元の医師会雑誌の「随想」コーナーに拙文を掲載させていただきました。
こちらでも紹介いたしますので,ご笑覧ください。

医師になって30年以上経つと,毎日の診療体験が「生物医学システム」だけで彩られることはほとんどなくなり,もっぱら「心的システム」「社会システム」の方に力点が置かれるようになっています。
現状よりもっとゆるい形で,いろんなひとたちと一緒にやっていければと思っています。そうした思いで書きました。


### 診療所での「いいね!」とその先


 ほぼ3日に1回,胸の苦しさを訴えて当院を受診される高齢の男性がいらっしゃいます。独居で身寄りがありません。心電図をとっても異常はなく,そのことを伝えると毎回笑顔で帰られるのです。ある日看護師がよく話を聞いたところ,「自分が心臓病でないないことはうすうすわかっているけれども,こうして診療所に出かけて話を聞いてもらうことで不安が和らぐ」というようなことをおっしゃるのでした。

 このような場合,私たちは「メンタル的」「より詳しい検査をすべき」「なにか抗不安薬でも」と考えがちです。こうした方の訴えを逐一聞いていては診療に支障がある,そう考えるのも無理はないでしょう。

 しかし,こうした方に心臓病ではないことをとくとくと説明したり,抗不安薬を漫然と投与したりしても,事態が改善することは少なく,むしろますます袋小路に陥ることも,経験のある医師なら気づいていると思います。

 「夫婦とも認知症で,すべての介護サービスを拒否し低栄養と心不全で入院した高齢女性」「20年以上ほとんど外出せずゴミ屋敷に暮らす高齢男性と独身の娘さん」「高校に入ってから朝起きられなくなり母親に連れられ相談に来た青年」

 これらは最近の当院における印象深いケースです。診療所で診療するようになって13年経ちましたが,開業したての頃ともっとも違うのは,このような「複雑な」患者さんが格段に増えたということです。「複雑」というのは,「メンタル的な」ということではありません。生活習慣病など単一な因子を取り除けば問題が解決するといったことではなく,複数の,しかも社会心理経済的な因子が絡み合って生じている問題ということです。こうしたケースでは医師あるいは診療所の力だけでは事態が進展しないことがほとんどで,家族,多職種,各種の社会資本による関わり合いが当然必要になります。

 1年前から,月1回,ある日の午後の時間に,こうした「複雑な」患者さんについて,ご本人,家族,ケアマネージャー,介護サービス担当者,薬剤師,訪問看護師,当院看護師,事務スタッフを参加者とする「対話の場」を設けることにしました。ここでは,たとえ認知症の方であっても,いや認知症だからこそ,できるだけ患者さんに「語って」いただくようにしています。「語り」の内容は特に決めず,好きな食べ物とか,どんなテレビを見たとか,今なにに関心があるかといった日常の些細なことがらです。しかし些細ではあっても,そこから意外なご本人の「考え」であるとか,「こだわっていること」が明らかになることがあります。家族やケアマネさんも驚くような場面が数多く訪れます。「薬を飲まないのは,近所の〇〇さんに怖い薬だと言われたから」「実は詩吟が好きでやりたいのだが,最近していない」こうした語りから問題解決への緒が見いだせることもあります。帰るときには患者さんは一様に笑顔になり,ときに涙を流す方もいます。会の意義に関してはケアマネさんを始め介護スタッフからも非常に好評です。いうなればFacebookInstagramの「いいね!」を顔の見える関係で実践するという感じかもしれません。「対話は問題を解決するための手段ではなくて,それ自体がむしろ目的である」そう考えることを基本にしています。

 でも一方で,本人の言うことがご家族のみるところと全く違っていて,あとで本人のいないカンファランスを行うこともあります。また対話しても事態が一向に進展しないケースも少なくありません。「いいね!」だけでは到底進展しないようなこじれたケースもたくさんあります。先述したような介護を全く拒否するご夫婦など,何度もケアマネさん,主治医他があれこれとアプローチしても頑として受け付けていただけません。現実は非常に厳しいです。こういうときでも,家族,多職種でそうした場を一度でも作っておくと,皆で事態改善へ関心を共有しているという空気感(スクラム感覚)が発生することになり,そこから思わぬ打開策が飛び出すこともあります。さらにこうしたケースへの対話やアプローチは現状で診療報酬に反映されません。一人診療で,一人数分の診療で,1日数十人の患者を「こなす」。そうしたセッティングを変えることも必要かもしれません。

 その解決策はまた別の場で考えるとして,冒頭に紹介した対話するために訪れる高齢男性,最近受診回数が減りスタッフが心配するまでになりましたが理由はわかりません。近くにいい鍼灸の先生でもできたのでしょうか。でもまた受診していただくようになりました。今度なぜ来なくなっていたのか,でもまた来るようになったのか,その理由を聞いてみようと思っています。そんな毎日です。

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# by dobashinaika | 2018-08-15 22:37 | 開業医生活 | Comments(0)

日経メディカルオンライン:今回は「「CHADS2スコア0点1点問題」を真剣に」考えます

日経メディカルオンライン,今回は「「CHADS2スコア0点1点問題」を真剣に考える」です。

これ,実は0点1点に限らず,CHADS2スコア全部が今やあまり信頼性妥当性にかけるという話です。
伏見AFやJ-RISK AF研究をもとにしますと,脳卒中の既往,75歳以上,高血圧までしか残らず,かわりに持続性,BMIあたりが入ってくるようです。

医学の常識として考えられたことも年単位で大幅な裁縫,再構築が迫られる,私たちはこうした光景をこれまで散々見てきましたが,抗凝固薬の分野でも例外ではありません。

新ガイドラインには反映されるでしょうか?

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# by dobashinaika | 2018-08-08 07:34 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)

アピキサバンはワルファリンに比べ心房細動合併透析患者の大出血リスクを少なくする:Circ誌


疑問:アピキサバンは透析を伴う末期腎臓病(ESKD)合併心房細動にも有効か?

方法:
・ United States Renal Data Systemにおけるメディケア登録者対象のレトロスペクティブコホート
・心房細動合併の透析を行うESKD患者で,新規に抗凝固薬を開始した人
・アピキサバン群vs. ワルファリン群,prognostic scoreでマッチング
・脳卒中/全身性塞栓症,大出血,消化管出血,頭蓋内出血,全死亡を比較

結果:
1)25,526例,女性45.7%,平均68.2歳,アピキサバン2351例,ワルファリン23712例

2)アピキサバンは2012年末から認可され2015年では新規処方例の26.6%

3)脳卒中/全身性塞栓症:有意差なし(HR 0.88, 95% CI 0.69-1.12; P=0.29)

4)大出血:アピキサバンで有意に少ない(HR 0.72, 95% CI 0.59-0.87; P<0.001)

5)用量別:アピキサバン5mgx2は2.5mgx2およびワルファリンより脳卒中/全身性塞栓症,死亡が有意に少ない

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結論:透析中の心房細動合併ESKD患者では,アピキサバンはワルファリンより大出血が少なく,標準用量では,塞栓症や死亡も少なかった。

Disclosures:なし

### アピキサバンは腎排泄が27%程度と他のNOACより低く,低腎機能例に用いられていましたが,透析患者でのデータはこれまでありませんでした。禁忌はCCr15未満ですが,実臨床は透析患者にも使われている場合もあり,それを集計したものです。

アピキサバンのほうが大出血が少ないとのことですが,絶対危険をみてみると,ワルファリンが年間22.9%なのに対し,アピキサバンは19.7%で3%少ないようです。多くは消化管出血ですが両群とも23%前後,頭蓋内出血も有意差なく,どちらも3.4%前後でした。一方脳卒中/全身性塞栓症は両者とも12%前後でした。

大出血は差があるが,消化管出血と頭蓋内出血別に見ると差がないので,その他の出血で差があったのかもしれません(そこまで読めませんでした)。アピキサバンはワルファリンに比べれば,出血リスクは少なそうではあります。

ただし,それぞれのネットクリニカルベネフィットすなわち「抗凝固薬を投与したことによる塞栓症リスク減少分利益-出血リスク増大分」がわかっていませんので,この論文を持ってアピキサバンgoではないと思われます。

そもそも出血自体20%/年以上(死亡も24.7%)と相当多いので,やはり投与の是非は相当慎重に行く必要があると思われます。

RCTやXa活性測定などを考慮した追加試験が必要ですが,出てくるでしょうか。

$$$ 玄関先に来たかえるさん,ふみそうになって焦りました。
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# by dobashinaika | 2018-08-02 07:34 | 抗凝固療法:アピキサバン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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