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脳梗塞発症後の心房細動患者に対するDOAC投与は早い方が良い?:ELAN試験:ACCのTop Clinical Trials2023より

あけましておめでとうございます。
今年は少し更新の回数を増やしていきたいと思います。

さて,
ACC の“Latest In Cardiologyから,2023年に紹介された論文と臨床試験 (初発と続報)からアクセストップ10が発表されており,昨年からの心臓病学のトレンドを知ることができます。

心房細動関係では「Top Journal Scans」の中に,FRAIL-AF Trial(フレイル患者でのVKAからNAOCへの変更リスクを指摘)が紹介されています。

「Top Clinical Trials」ではELAN(脳卒中後の早期DOAC再開について),NOAH-AFNET6(心房高頻度エピソード:AHRAに対するNOAC),ATRESIA(潜在性AFに対するDOAC)の3論文が挙げられています。

昨年あまり更新していなかったので,まず昨年の主要論文のレビューとして上記のそれぞれの論文を紹介していきます。
まず昨年5月の紹介されたELAN試験から(FRAIL-AF Trialはすでに紹介済み)。なお本研究はAHAのcardiovascular disease research for 2023にも選ばれています。


目的:
抗凝固療法を受けていない非弁膜症性心房細動(AF)を有する急性虚血性脳卒中患者において、直接経口抗凝固薬(DOAC)治療の早期開始と後期開始の治療効果および安全性プロファイルを比較する。

方法:
1)対象:抗凝固療法を受けていない非弁膜症性心房細動(AF)を有する急性虚血性脳卒中患者。18歳以上,CTまたはMRIで異常所見あり。

2)
・早期開始群:軽症/中等症脳梗塞は48時間以内、重症脳梗塞は7日以内、n=1,006
・後期開始群:軽症脳梗塞は4日以内、中等症脳梗塞は7日以内、重症脳梗塞は14日以内、n=1,007

3)登録者総数:2,013人。追跡期間:90日。年齢中央値:77歳。。CHA2DS2-VAScスコア中央値:5

4)RCT,オープンラベル,治療法の選択は,臨床医の裁量

5)Strokeの治療:(38.9%)、血管内再灌流療法(22.2%)

6)脳卒中の大きさと分布:軽症,1.5cm以下: 37.4%
中等度、前・中・後大脳動脈皮質表在枝:39.5%。
1.5cm以上の大脳動脈梗塞または脳幹・小脳梗塞:23.1%。

7)一次評価項目:無作為化後30日以内の虚血性脳卒中再発、全身性塞栓症、頭蓋外大出血、症候性頭蓋内出血、血管死

結果:
1)一次評価項目:早期群 2.9% vs. 4.1% (odds ratio 0.70, 95 CI0.44-1.14).

2)二次評価項目;
・30日後の虚血性脳卒中再発: 1.4%対2.5%(OR 0.57、95%CI 0.29-1.07)
・30日後の全身性塞栓症 0.4%対0.9%(OR 0.48、95%CI 0.14-1.42)
・30日後の頭蓋外大出血 0.3%対0.5%(OR 0.63、95%CI 0.15-2.38)
・30日後の症候性頭蓋内出血: 0.2%対0.2%(OR 1.02、95%CI 0.16-6.59)
・30日後のModified Rankin scaleスコア≦2: 62.6%対62.6%(OR 0.93、95%CI 0.79-1.09)
・90日後の主要転帰 3.7%対5.6%(OR 0.65、95%CI 0.42-0.99)

要約:
非弁膜症性心房細動を持つ急性虚血性脳卒中の患者において、DOACの早期投与と後期投与で安全性と有効性が同等であることが示された。

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### これまでESCガイドラインでは,脳梗塞後の抗凝固薬開始は軽症脳卒中では3日後、中等症では6日後、重症12日後とされ米国心臓協会/米国脳卒中協会のガイドラインでは、一部の高リスク患者では2週間以上待つこととされています。今回の報告では,軽症/中等症で2日以内,重症でも7日以内の投与で出血等に差がないことが示されました。脳梗塞の重症度をCT,MRI上の測定値で評価するなど新手法が取られていますが,

TIMING試験などとも同様の結果であり,今後早期投与の流れが加速するものと思われます。
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# by dobashinaika | 2024-01-01 18:41 | 脳卒中後 | Comments(0)

ACC/AHAなどから2023年版心房細動の診断と管理ガイドラインが出ました。新しい心房細動のステージ分類,リスク因子管理,早期リズムコントロール,左心耳閉鎖術の重要性強調などが特徴

ACC/AHA/ACCP/HRSから2023年版の新しい心房細動ガイドラインが出ています。

ACCのメールマガジンによるまとめです。
J Am Coll Cardiol. Nov 30, 2023. Epublished DOI: 10.1016/j.jacc.2023.08.017

1. ・今回のガイドラインにおける心房細動の分類は、発見前を含む病期に焦点を当てている。
ステージ1: 心房細動のリスクがある状態 修飾可能および不可能な危険因子がある状態、
ステージ2: 心房細動の前段階(心房細動になりやすい構造的、 電気的所見がある状態)、
ステージ3A: 発作性心房細動(間欠的で7日以内持続)、
ステージ3B: 持続性心房細動(7日以上持続し、介入が必要)、
ステージ3C:長期持続性心房細動(12ヵ月以上持続)、
ステージ3D:心房細動アブレーション成功(アブレーションまたは外科的介入後、心房細動がない)、
ステージ4:永続性心房細動(それ以上リズムコントロールが試みられない)。
・早期のリズムコントロールは、長期的に洞調律を維持する可能性が高く、心房細動の負担を最小限に抑え、疾患の進行を抑制する。
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2. ・生活習慣と危険因子の修正は、心房細動の発症、進行、有害事象を予防するための管理の柱である。心房細動患者に対して、ガイドラインは以下のことを推奨している:
1)肥満度が27kg/m2を超える患者の減量、
2)週210分を目標にした中等度から強度の運動トレーニング、
3)禁煙、
4)飲酒の最小化または排除、
5)最適な血圧コントロール、
6)睡眠呼吸障害のスクリーニング

3. 本ガイドラインでは、CHA2DS2-VASc、ATRIA、GARFIELD-AF などの有効な臨床的リスクスコアの使用を推奨している。
・血栓塞栓イベントの年間リスクが中程度(2%未満)の心房細動患者は、脳卒中リスクを修正する可能性のある以下の追加因子を考慮することが有益であろう:
高い心房細動負荷、持続性または永続性心房細動(発作性心房細動と比較して)、肥満、肥大型心筋症、コントロール不良の高血圧、eGFR(45mL/h未満0、蛋白尿(150mg/24時間以上)、左房容積(73mL以上)または左房径(4.7cm以上)拡大
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4.・出血リスクスコアは、経口抗凝固療法(OAC)の適応を決定するためにそれ自体単独ではなく、出血リスク因子を同定・修正し、医療上の意思決定に役立てるために使用されるべきである。
・脳卒中または血栓塞栓イベントの推定年間リスクが2%以上の心房細動と診断された患者では、脳卒中のリスクを低減は、心房細動のパターンが発作性、持続性、長期持続性、永続性のいずれであっても、血栓塞栓症のリスクに基づいて行われるべきである。
・僧帽弁狭窄症や機械弁を有する患者を除いては、ワルファリンよりも直接経口抗凝固薬が望ましい。
・抗凝固療法の適応があり、抗血小板療法の適応がない心房細動患者において、抗凝固療法の代替としてアスピリンを単独またはクロピドグレルと併用することは、脳卒中リスク軽減のために推奨されない。
・心房細動とステント血栓症の既往のない慢性冠動脈疾患(血行再建術後1年を超えている、または冠動脈血行再建術を必要としない冠動脈疾患)を有する患者では、大出血のリスクを低下させるために、OACと抗血小板薬(アスピリンまたはP2Y12阻害薬)単剤の併用療法よりもOAC単剤療法が推奨される。

5. ・抗不整脈薬が無効、 禁忌、 忍容性がない、 あるいは好ましくない症候性心房細動患者において、 カテーテルアブレーションは症状の改善に有用である。
・症候性発作性心房細動を有する特定の患者(一般に若年で合併症が少ない)では、カテーテルアブレーションは、症状を改善し持続性心房細動への進行を抑制するための第一選択治療として有用である。
・症候性発作性心房細動または持続性心房細動を有し、 リズムコントロール戦略で管理されている患者(併存疾患の少ない若年者以外)では、 第一選択療法としてのカテーテルアブレーションは症状の改善に有用である。
・駆出率が低下した心不全を有する適切な心房細動患者には、カテーテルアブレーションが推奨される。

6. 最近の研究の見地から、デバイス検出心房細動(植込み型デバイスおよびウェアラブルデバイス)患者に対して、より明確な推奨がなされている。
・デバイスにより検出された心房細動が24時間以上持続し、CHA2DS2-VAScスコアが2または同等の脳卒中リスクを有する患者に対しては、エピソードの持続時間と個々の患者のリスクを考慮した共同意思決定(SDM)の枠組みの中でOACを開始することが妥当である。
・5分以上24時間未満持続するデバイスで検出されたAHREで、CHA2DS2-VAScスコア3以上または同等の脳卒中リスクを有する患者に対しては、エピソード持続時間と個々の患者リスクを考慮した共同意思決定の枠内で抗凝固療法を開始することが妥当であろう。
・AHREの持続時間が5分未満で、OACの他の適応がない患者には、OACを投与すべきではない。

7. ・今回のガイドラインでは、左房耳閉鎖術(LAAO)に対して、より高い推奨度が与えられている。
・CHA2DS2-VAScスコア2以上で長期OAC禁忌の患者では、経皮的LAAO(pLAAO)は妥当である(クラス2a)。
・中等度から高度の脳卒中リスクを有し、OACによる大出血リスクが高い患者では、pLAAOはOACの妥当な代替となりうる(Class 2b)。

8. ・急性内科疾患や手術中に心房細動が確認された患者では、 心房細動の再発リスクが高いことを考慮すると、 外来でのフォローアップによる血栓塞栓リスクの層別化や OAC の決定、 心房細動のサーベイランスが有益である。
・敗血症による重症の心房細動患者では、脳卒中予防のための重症時の抗凝固療法の有益性は不明である。

### 今回の大きな改訂ポイントはなんといっても心房細動のステージ分類です。
特にステージ3Dは,「心房細動アブレーション成功後」という新しい概念の他,リスクがある段階(ステージ1),前段階(ステージ2)という予防を重視した概念が登場し,心不全分類のステージA,Bを彷彿とさせます。

またリスク管理の重視,早期リズムコントロールや左心耳閉鎖術の強調などが特徴と思われます。
ACC/AHAなどから2023年版心房細動の診断と管理ガイドラインが出ました。新しい心房細動のステージ分類,リスク因子管理,早期リズムコントロール,左心耳閉鎖術の重要性強調などが特徴_a0119856_23025206.jpg

最新のエビデンスがふんだんに引用され,図表も見やすく,ESCガイドラインをだいぶ意識しているようにも感じました。これから少しずつ紹介してきます。

$$$
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# by dobashinaika | 2023-12-10 23:12 | 抗凝固療法:ガイドライン | Comments(0)

ライフスタイルを重視した新しいHARMS2-AFスコアは心房細動発症予測に有用


Study Questions:
心房細動(AF)ライフスタイルリスクスコアは、一般住民における心房細動リスクのある人を同定すのに有用か?

Methods:
対象:UK Biobank(UKB)とFramingham Heart Study(FHS)に登録され、心房細動の既往のない患者

解析方法:臨床情報を回帰分析を用いることにより,独立した心房細動予測因子を同定UKBでは重み付けされたスコアが作成され、FHSのデータベースではその結果が検証された。

Results:
1)314,280人のUKB参加者のうち、心房細動発症率は5.7%,心房細動までの期間の中央値は7.6年

2)高血圧、年齢、肥満度、男性、睡眠時無呼吸、喫煙、アルコールが心房細動の発生を予測

3)運動動不足と糖尿病は有意ではなかった

4)HARMS2-AFスコアは、UKBにおける重み付けなしモデル(AUC、0.802)と同程度の予測能(曲線下面積AUC、0.782)を示した。FHSにおける外部検証では、AUCは0.757であった。

5)HARMS2-AFスコアが高い(5点以上)ほど心房細動リスクが高い(スコア5-9:ハザード比、12.79;スコア10-14:HR、38.70)

6)HARMS2-AFリスクモデルはFramingham-AFリスクモデル(AUC,0.568)およびARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)リスクモデル(AUC,0.713)を上回り,CHARGE-AFリスクスコア(AUC,0.754)と同等であった。
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Conclusions:
HARMS2-AFスコアは、一般住民における心房細動リスクのある人を同定し、集団スクリーニングに役立つ新しいライフスタイルリスクスコアである。一般住民における心房細動発症リスクスコアとしは,ここに挙げられたようにFHSスコア,ARICスコア,CHARGE-AFスコアなどがありますが,いずれも心電図,心エコー,既往歴,生化学検査など生活スタイル以外の因子が含まれていました(拙ブログ参照)

### 以前から気になっていた論文ですので,多少以前のですが取り上げます。
今回開発されたHARMS2-AFスコアは:
高血圧(4点)、年齢60-64歳(1点)、年齢65歳以上(2点)、肥満度30kg/m2以上(1点)、男性(2点)、睡眠時無呼吸(2点)、喫煙(1点)、アルコール7-14合/週(1点)、アルコール15合/週(2点)
であり,はほとんど修正可能な危険因子で構成されていて,心房細動を発症しやすい患者を同定するだけでなく,危険因子の修正目標も提供している優れものです。

ただ,5−9点でも12年後の発症率は10%弱です。さすがに10点以上だと20%以上が発症するとのことです。

高血圧,肥満,睡眠時無呼吸,アルコール。これを修正するだけでかなり予防できそうですね。AIによるブラックボックス的なリスクスコアが出るまでは笑。
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# by dobashinaika | 2023-11-06 21:31 | 心房細動:疫学・リスク因子 | Comments(0)

入院中に心房細動が初めて記録された患者の3人に1人は,1年以内に再発する。

入院中の初発心房細動に関する再発率をみた論文です。


Study Questions:
非心臓手術(NCS)または内科的疾患による入院中に心房細動が初めて記録された患者において、退院後12ヵ月以内に心房細動(AF)が再発する割合はどのくらいか?

Methods:
対象:オンタリオ州ハミルトンの3つの大学病院において、内科的疾患またはNCSによる入院中に心房細動の初回エピソードが記録され、心房細動の既往がなく、退院時に洞調律に戻った患者。対照として、年齢と性別をマッチさせた同じ病棟の心房細動歴のない患者
追跡;被験者は1年間追跡され、1ヵ月後と6ヵ月後にウェアラブルパッチによる14日間のリズムモニタリング、退院後1ヵ月後、6ヵ月後、1年後に電話による追跡が行われた。

主要アウトカム:ウェアラブルモニターまたは臨床治療中に検出された、30秒以上持続する心房細動エピソード

副次的アウトカム:退院から心房細動再発までの期間、総心房細動負荷、総心房細動持続時間、最長心房細動エピソード、有害事象(死亡、心不全、脳卒中、出血、心筋梗塞または心不全による入院)、登録後12ヵ月以内の抗凝固療法の使用など

感度分析:指標となる入院の適応(内科的疾患対NCS)、電気的または化学的除細動を行った症例と心房細動が自然に停止した症例との比較、および退院後の心房細動診断が臨床的診察に基づくものと装着型パッチに基づくものとの比較

Results:
1)139例の症例と139例のマッチさせた対照

2)主要アウトカム(退院後1年以内の心房細動再発):12ヵ月の追跡期間終了時までに、症例の33.1%(95%信頼区間[CI]、25.3-40.9)に対して対照群では5.0%(95%CI、1.4-8.7)。調整相対リスクは6.6(95%CI、3.2-13.7)

3)追跡期間中の心房細動の検出方法は:ウェアラブルパッチによるものが70%、臨床治療によるものが13%、併用によるものが17%

4)最長1回の心房細動エピソードと総心房細動持続時間は、症例と対照で同程度であった(中央値7.9 vs. 9.8時間、8.9 vs. 9.8時間)

5)追跡期間中、以下の事象の総発生率が症例と対照群で観察された:
救急外来受診(11対5)
再入院(12 vs. 6)
心房細動管理のための専門医によるフォローアップ(55 vs 10)
脳卒中(1 vs. 1)
血栓塞栓症(2 vs. 0)
心筋梗塞(3 vs. 0)
心不全(3 vs. 1)
出血(6 vs 4)
死亡(11 vs. 7)
抗凝固療法の使用(73% vs 39)

Conclusions:
NCSまたは内科的疾患による入院中に初めて心房細動と診断され、洞調律で退院した患者は、入院前または入院中に心房細動のエピソードがなかった患者に比べて、退院後1年以内に心房細動が再発するリスクが7倍近く高かった。この相対リスクの上昇はサブグループ間で一貫していた。

Perspective:
本研究では、入院中に初めて心房細動と診断され、かなりの生理的ストレスがかかっている可能性がある場合の長期的な影響について検討した。その結果、罹患患者のおよそ3人に1人が退院後12ヵ月以内に将来心房細動を発症することが示され、このような患者にはリスク軽減戦略について専門的なアドバイスを提供できる専門医を紹介することが有益であることが示唆された。

### 非心臓手術(NCS)または内科的疾患による入院中に心房細動が初めて記録された患者の,1年以内の再発率は約30%でした。多いように見えますが,実はだいぶ以前の研究ですが,入院中ではない初発心房細動を対象としたコホートを対象にした研究でも,1年後の再発率は30〜50%であることが示されています(ウエアラブル端末なしのフォローでもです)。

多分,こうした初発心房細動の中には迷走神経性のものやカテコラミンの関与した,まさにtransientの物も多いと思われます。一方,おそらくCHADS2スコアの高い,高年齢や基礎疾患のある例ほど,フォローが必要と思います。

# by dobashinaika | 2023-11-05 11:14 | 心房細動:診断 | Comments(0)

フレイル高齢心房細動患者では,ビタミンK拮抗薬をDOACに切り替えると出血事象が69%増加。FRAIL-AF試験


8月25日,アムステルダムで行われた欧州心臓病学会(ESC)学術集会で,ユトレヒト大学(オランダ)から大変注目すべき報告がありました。なおDOACについては,原文を尊重しNOACと表記します。

背景 :
フレイル合併心房細動患者においてビタミンK拮抗薬(VKA)内服をNOACに切り替えるべきかどうかは明確な答えがない。

方法:
・フレイル(年齢75歳以上+GFI(Groningen Frailty Indicator)スコア3以上)を有する外来管理の高齢AF患者
・INRガイド下VKA治療からNOAC治療に切り替える群 (NOAC切り替え群)と,VKA治療を継続する群 (VKA継続群:アセノクマロール、フェンプロクモン)に無作為に割り付け
・VKA中止後「INR<2.0」ならDOAC開始。出血多発のためのちに「INR<1.3」に変更
・GFRが30mL/min/1.73m2未満の患者や弁膜症患者は除外。追跡期間は12ヵ月。
・主要アウトカム:大出血または臨床的に対応を要する非大出血合併症
・副次的アウトカムには血栓塞栓イベント,総死亡などが含まれた。
・死亡を競合リスクとして考慮、。intention-to-treat解析

結果:
1) 1,330例(平均年齢83歳、GFI中央値4)。NOAC切り替え群662例、VKA継続群661例。

2)163例の主要転帰イベント(切り替え群101例、継続群62例)の後、試験は事前設定された無益性のため中止

3)主要アウトカム:NOAC切り替え群(15.3%)でVKA継続群(9.4%)に比べ有意に高い(P=0.00112), HR=1.69(95%CI 1.23-2.32)。

4)血栓塞栓イベント:有意差なし。HR=1.26(95%CI 0.60~2.61)
フレイル高齢心房細動患者では,ビタミンK拮抗薬をDOACに切り替えると出血事象が69%増加。FRAIL-AF試験_a0119856_22364719.png

結論 :フレイルのある高齢心房細動患者において、INRガイド下VKA治療をNOACに切り替えることは、VKA治療を継続することと比較して出血性合併症の増加と関連したが、血栓塞栓性合併症の減少は関連しなかった。

COI:オランダ政府ならびにDOAC製造企業4社から資金提供

### 本研究の要旨は,「フレイル高齢心房細動患者を対象としたRCTにおいて、INRガイド下VKA管理をNOACベースの治療戦略に切り替えると、大出血および/またはCRNM出血合併症が69%増加した」という驚くべきものです

まずいくつかの知りたいポイントの確認です。
1)フレイルの程度:今回採用の指標であるGroningen Frailty Indicatorは,日常活動(買い物、外出、更衣、トイレ移動)、健康問題(身体的健康、視力、聴力、体重減少、4剤以上の服薬、記憶)、心理機能(空虚感、孤独、見捨てられ感、落胆、不安)といった3ドメイン、15項目を検討し、4項目以上問題を抱える場合、フレイルと判定するものです。
実際には,「常時4種以上の薬剤を服用が80%以上」「視覚や聴覚異常が半数」「記憶力低下の訴えが40%弱」「家の周りの歩行不可が17%」といったかなり虚弱な患者層が浮かび上がります

2)NOACの種類:ダビガトラン57例(8.6%)、リバーロキサバン332例(50.2%)、アピキサバン115例(17.4%)、エドキサバン109例(16.5%)。情報欠落3例(0.5%)。切り替え群にも関わらず切り替えられなかった例22例(3.3%)

3)出血部位消化管出血: 切り替え群17例(2.6%)vs. 継続群4例(0.6%)、泌尿生殖器出血20例(3.0%) vs. 11例(1.7%)。出血性脳卒中:切り替え群7例(1.1%)vs. 継続群6例(0.9%)。皮下出血:切り替え群23例(2.6%)vs. 継続群4例(0.6%)

4)継続群のINR管理状況: 個々の患者のTTR(目標INR到達時間)は記録されていないが,INR測定のために自宅を訪問する高齢者(したがって最も虚弱な患者)のオランダ臨床におけるTTR値の範囲は65.3%~74.0%であり(年次品質報告書の一部として測定),またオランダはTTR管理のインフラ整備が進んだことで知られている。本文中にあるように,ARISTOTLE試験集団で検討した結果、オランダから登録された患者のTTRは試験平均値中央値付近の66.4%とかなり良好。それを考えると4RCTとほぼ同等と見て良い。

5)NOAC間のアウトカムの差異:リバーロキサバンとアピキサバンでは同様(HR 1.95、95%CI 1.36〜2.79、HR 2.17、95%CI 1.28〜3.68)、エドキサバンでは顕著に低い(HR 1.10、95%CI 0.57〜2.13)。ただしこれらの解析はポストホックで無作為化されていないため、慎重に解釈されるべきである(本文中の記載から)。

さて,NOACのRCTのサブ解析を見ても,フレイル症例でも一貫してNOACの安全性,有効性が示されており,本年のESCのコンセンサスステートメントではなんと「NOACの恩恵はフレイル例でより大きい」 とまで記されています。
それなのにこの結果,どう解釈したらいいのでしょう。

1)対象の違い:まず患者対象がかなり違います。本研究は平均年齢83歳に対し,4RCTはいずれも70代前半。しかもフレイルの程度が上記のように,半端ではない(4RCTで弾かれた例がかなり含まれていると思われる)。

2)VKA継続例はずっと(期間は不明だが心房細動罹患期間は平均12−13年)VKAを服用していた例なのに対し,4RCTはVKAナイーブ例も多く含む。ということはVKAで長期間うまく行っている症例が多く含まれていた可能性は大きい。

3)NOACの種類に偏りあり。比較的皮下出血の多いとされるリバーロキサバン服薬例が50%を占める

とはいえ次の点にも注意です。
1)TTRは良好だった(らしい)。(特に日本に見られるように)VKAの管理がどうしても甘くなりがちなケースは少ない。つまり若干低めのなんちゃってワーファリン例は少ない模様

2)KM曲線が乖離し始めるのは開始後100日よりやや前。ということは切り替えることそのものにより出血リスクが増加した可能性は低い

3)RCTのサブ解析はあくまでサブ解析。これだけのフレイル例を無作為割付した試験は他に類を見ない。

以上を踏まえての私見と,行動変容につき述べてみましょう。
まず,以前からワルファリン服薬例をNOACに変更した場合,皮下出血や消化管出血は多くなる印象は確実にありました。そういった印象を持っている臨床家はかなり多いものと思われます。またNOACの前向きあるいは登録研究のいくつかで,やはり皮下出血,消化管出血がワルファリン服薬例に比べて多いという報告はありました。今回はそのことを,とくにフレイル(しかもRCTに組み入れられないようなかなりの)に対象を絞り,きっかりRCTを行ったことがこうしたある意味驚くべき結果を引き出し,「やられた」感を醸し出したものと思われます。

一方,とはいえ,TTRがきっちり管理されている比較的優良な継続群あっての結果ということもできます。論文では認知症の程度や,独居かどうか,服薬アドヒアランスについては触れられていませんでした。実臨床で,これまで遭遇したワルファリン服用中の高齢者出血症例。それはとりも直さずINRが安定しない患者さんです。そしてそのもとをたどるとアドヒアランス不良かまたは食生活の不安定な方といった像浮かび上がります。INRを上げる因子は飲み過ぎ,あるいはビタミンK不足,さらに遺伝的な理由でビタミンKサイクルが不安定なケースと思われます。
そうしたケースが,比較的少ない集団だった可能性が考えられます。

一方,今回脳出血や死亡は有意差がなく,消化管出血と皮下出血が両群の差を牽引した形になっており,脳出血ほど重大ではないといった印象を与えるかもしれません。しかしながら今回対象の高齢者フレイル症例では,消化管出血あるいは皮下出血はそれだけで全身状態の悪化につながることをよく経験します。決して侮るべき事象ではありません。

「従来からINR管理良好なVKAを飲んでいるフレイル高齢者は,あえてNOACに変更しなくても良い(無理してしないが良い)」というのが今回のmy take home messageです。それにしても久々にインパクトのある研究でしたね。

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フレイル高齢心房細動患者では,ビタミンK拮抗薬をDOACに切り替えると出血事象が69%増加。FRAIL-AF試験_a0119856_22570997.jpeg



# by dobashinaika | 2023-08-30 22:39 | 抗凝固療法:ワーファリン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

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