人気ブログランキング |

<   2011年 11月 ( 23 )   > この月の画像一覧

電子カルテ時代のEBM: NEJMの"Perspective"より

NEJM 11月2日オンライン版より

Evidence-Based Medicine in the EMR Era

電子カルテ時代のEBM

・RCTの重要性が強調されるが、その選択および除外基準の厳しさ故に実臨床に適応しにくい場合が多い
・このような時はエビデンズレベルIII~Vの専門家の意見や確かな情報に頼りがち

・例えば13歳女性のSLE/ネフローゼレベルの尿タンパク、抗リン脂質抗体、膵炎あり。このような複雑な症例に対する抗凝固療法のスタディを見つけることはできない

・そこで筆者らは、スタンフォード大学病院の電子カルテ情報を革新的リサーチデータベースとして用いる新しいアプローチを行った
・Stanford Translational Research Integrated Database Environment (STRIDE)と呼ばれるプラットフォームは、同大学のすべての患者の電子カルテ情報を含み、迅速なテキスト検索能力を提供している・筆者らはそのデータベースで、2004年から2009年まで同施設の臨床医によってケアされたSLEコホートのデータを素早く検索することができた
・この小児SLEコホート98人のうち10人が血栓症を発症したことが電子カルテ上に記載されていた。この有病率は蛋白尿を膵炎を持つ患者でより高かった。
・同コホートの血栓症率はネフローゼ合併例で14.7%、膵炎合併例で11.8%だった
・こうしたコホートの検索は4時間で終了し、入院24時間以内に抗凝固療法の意思決定ができた

・こうした新しいプロセスは、より標準化、洗練化されるだろう
・既にいくつかの取り組みも報告されている

###RCTの外的妥当性が乏しくて、実臨床に使えない。この大問題を解くための試みがいわゆるtranslational researchと言われるもので、その中でもRCT→リアルワールドへの橋渡しとなる研究はT2リサーチと呼ばれているそうです。
ここに紹介されたような大きな医療施設での電子カルテデータベースの中からコホートを作成して、これまでのリアルワールドでの実績をエビデンスとして利用するというのはある意味新しい方法ですが、まず症例数に関して、この大学病院のように相当数のnが必要であると思われます。日本では大学病院や大きな総合病院などでは可能と思われますが、中規模市中病院あるいは診療所レベルとなると電子カルテソフトは様々ですし、データの共有化は全くなされていません。
今後こうしたリアルワールドのEBMの蓄積を視野に入れた情報管理、情報共有の必要性を痛感させられます。

もう1点、こうしたデータベースでの治療内容の妥当性をどのように担保するのかが問題かと思います。リアルワールドの治療がどの程度エビデンスに則していたのか、ガイドラインから逸脱していなかったか、そういった検証の更新を継続的にして行くことが要求されるかもしれません。

日本では、私の知る限り、名郷直樹先生の施設ですでに同じような取り組みが始まっています。より多くの施設による情報の蓄積が期待されると思います。
by dobashinaika | 2011-11-03 23:22 | EBM | Comments(0)

心房筋の機械的ストレッチが心房細動を持続させるメカニズム;JACCより

Journal of American College of Cardiolofy 11月8日号より

Mechanical Stretch of Atrial Myocyte Monolayer Decreases Sarcoplasmic Reticulum Calcium Adenosine Triphosphatase Expression and Increases Susceptibility to Repolarization Alternans
J Am Coll Cardiol, 2011; 58:2106-2115


方法:
・HL-1心房筋細胞の単一層を、機械的ストレッチがかかるようなシリコン膜上で培養
・高頻度刺激により活動電位持続時間の交互現象を誘発させる
・高解像度optical mappingで心房筋の活動電位とカルシウム電流を記録する

結果:
1)高頻度刺激で活動電位持続時間とカルシウム電流の交互現象が誘発された
2)筋小胞体ATPアーゼ2の過剰発現により交互現象の持続におけるストレッチの影響は減じられた
3)正常心房筋でも機械的ストレッチが不均一な交互現象を助長した

結論:機械的ストレッチが、心房筋細胞の交互現象持続を増強させた。この現象は弁膜症、心不全、高血圧といった心房のストレッチを引き起こす病態において、心房細動が持続しやすいことの説明となる。

###心室細動の予測因子として、心電図状のT波が1拍ごとに振幅や方向を変える減少=T wave alternance、T波交互脈が知られています。これは心室筋細胞のの筋小胞体からのカルシウム放出の変動が活動電位持続時間ひいては不応期の交代減少を引き起こすことによると解されています。
心房細動の心房筋でも同じようなことが起きているとの仮説を元に、さらにそれに心房筋細胞に機械的ストレッチが関与していいることを示した台湾のグループからの論文です。

高血圧や心不全でなぜ心房細動が多いのか、心房筋に過剰な圧力がかかり心房筋がストレッチされているのが悪いとする考えは以前からありましたが、これを心房筋の活動電位とカルシウム電流のalternanceに結びつけて実験的に証明した点で大変きれいなデータだと思われます。

こういうデータを見ますと、レニンアンギオテンシン系に固執せず、とにかく血圧を下げ心房筋のストレッチを除くことが優先だろうと思わせられます。
by dobashinaika | 2011-11-02 22:49 | 心房細動:疫学・リスク因子 | Comments(0)

心房細動の疫学と遺伝学における最近の知見の総説です

Circulation 11月1日号(今週号)より

Atrial Fibrillation : Current Knowledge and Future Directions in Epidemiology and Genomics

ボストン大学のMagnani先生による「心房細動の疫学とゲノム学に関する最近の知見」の総説です。

非常に勉強になりますが、量が多いので、とりあえず疫学編で参考になると思われる箇所をまとめてみます。

疫学(最近の知見)

心房細動:増加する負担と急上昇するコスト

・米国では、現在270万〜610万人と言われる心房細動有病率が2050年には560万〜1210万人になると推測されている。
・米国と欧州では、80歳までの一生涯で心房細動に罹患するリスクは男22~26%、女22~23%
・心房細動リスクは年齢10歳ごとに倍になる。50台は人口の1%未満だが、80〜85歳は10%未満、85歳以上は11~18%

・1985年から1999年までで心房細動による入院は3倍増
・心房細動患者の医療費は対照群に比べ73%増
・心房細動患者患者一人当たり$8075のコスト増

・心房細動患者の心不全は1000人年あたり33から44に増加
・心不全のある心房細動患者は心不全なしに比べ3倍の死亡率。メタ解析では1.14倍

・非弁膜症制心房細動の脳梗塞は、ない患者の5倍弱
・心原性脳塞栓は、その他の脳梗塞に比べ30日死亡率がは1.84倍
・心房細動患者の無症候性脳梗塞は、ない患者の2.16倍
・抗凝固療法を受けない人の脳梗塞は、受けた人の5倍

・心房細動患者の認知症オッズ比は1.7倍で、抗凝固療法で補正しても2.3倍
・5年間追跡で心房細動患者の認知症累積発症は10%を超え、その死亡率は3倍

・心房細動はQOLを損ねるが、QOL研究は、未だに限られたもの

心房細動疫学:未来の方向性

・東欧、アフリカ、南米の疫学データは不足している
・中国と日本の有病率は欧米より少ない
・少数人種、民族でのモニタリングや分類は困難

・心房細動の発症、再発、進行に関する長期評価についてはまだ検討の余地あり
・発作性、持続性、永続性という分類も、個々人ではレトロスペクティブに明らかにされるものであるという点で限界がある
・心房細動の発症初期において、心不全や精神的トラウマがどうその後のリスクに関わるかは不明
・孤立性心房細動は環境因子、トリガーなどの研究がさらに必要

・QOL研究は標準化されておらず、今後とも各視点からの研究が必要

###論文ではこのあと、家族性心房細動の遺伝学的知見、ゲノムワイド関連研究で明らかにされた心房細動に寄与する3つの遺伝子座、ゲノミクスやプロテオミクスなどいわゆるomics"の心房細動研究への適応、それら遺伝学と疫学を統合する形でのシステムバイオロジーという研究形態への展望が述べられています。
心房細動に限らずこのような疫学と遺伝学を統一的に見る視座やその橋渡し的研究は、どの医学研究の分野でも注目されていますね。
by dobashinaika | 2011-11-01 23:41 | 心房細動:疫学・リスク因子 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学・リスク因子
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールドデータ
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
未分類

タグ

(40)
(39)
(35)
(27)
(27)
(27)
(25)
(24)
(21)
(21)
(20)
(19)
(18)
(16)
(15)
(14)
(13)
(13)
(13)
(13)

ブログパーツ

ライフログ

著作

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法


プライマリ・ケア医のための心房細動入門

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)


健康格差社会への処方箋


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書)

最新の記事

2020 年改訂版 不整脈薬..
at 2020-03-14 18:00
DOACの利益に関する低満足..
at 2020-03-05 07:24
日本における心房細動患者の脳..
at 2020-03-03 07:33
日本のNOAC/DOAC登録..
at 2020-03-02 07:21
アジア人のNOAC不適切低用..
at 2020-02-17 07:07
長期ケア施設入所者における抗..
at 2020-02-06 06:58
2019年心房細動関連論文ベ..
at 2020-01-20 08:18
2019年心房細動関連論文ベ..
at 2020-01-11 18:52
アルコール常用者の禁酒は心房..
at 2020-01-10 07:28
心房細動な日々 dobas..
at 2020-01-09 08:49

検索

記事ランキング

最新のコメント

いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
取り上げていただきありが..
by 大塚俊哉 at 09:53
> 11さん ありがと..
by dobashinaika at 03:12
「とつぜんし」が・・・・..
by 11 at 07:29
> 山川玲子さん 山川..
by dobashinaika at 23:14
運慶展を観た方にWEB小..
by omachi at 19:45
> terryさん ご..
by dobashinaika at 08:38
簡潔なまとめ、有り難うご..
by 櫻井啓一郎 at 23:16
いつも大変勉強になります..
by n kagiyama at 14:39

以前の記事

2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン