人気ブログランキング |

<   2011年 08月 ( 24 )   > この月の画像一覧

アスリートの心臓突然死について勉強しました

ここ数日、多くの人の関心事であり患者さんから聞かれることも多いため、「運動選手の突然死」について勉強してみました。
おもにUpToDateの「Risk of sudden cardiac death in athletes」「Screening to prevent sudden death in athletes」を参考にしています。

罹患率
・10~20年間で50,000人〜300,000人に1人
・19年間にわたる市民マラソンの選手215,413人のデータ1)ではマラソン中あるいは直後の死亡は4名で、50,000人に1人の割合
・この4人は前駆症状なし、内2人はマラソン経験者、3人は剖検で冠動脈疾患あり
・このようにマラソンの突然死は予測困難で、低頻度だが他の運動よりは頻度が多い

原因
<器質的心疾患>
1)35歳未満
・アメリカの1,435人の競技選手の突然死登録研究2)の剖検結果では、肥大型心筋症36%、冠動脈起始異常17%、心筋炎6%、不整脈原性右室心筋症4%、僧帽弁逸脱症4%、大動脈狭窄3%、冠動脈心筋内埋没3%、冠動脈硬化3%、イオンチャネル病2%、動脈瘤破裂2%、他の先天性心疾患2%
・イタリアの49例の突然死例の検討3)では不整脈原性右室心筋症22%、冠動脈硬化18%、冠動脈起始異常12%、僧帽弁逸脱症10%、心筋炎6%、肥大型心筋症2%
・アメリカの17〜35歳の候補兵600万人のデータ4)では126人に突然死を認め、うち86%は運動中。冠動脈起始異常33%、心筋炎20%、冠動脈硬化16%、心筋症13%

2)35歳以上:冠動脈疾患が原因の多数を占める

<非器質的心疾患>
・QT延長症候群、Brugada症候群、カテコラミン感受性多型性心室頻拍。その他に心臓震盪、特発性心室細動

冠動脈起始異常
・若年運動選手の突然死の12~33%を占める。
・最も多いのは、右バルサルバ洞からの左主幹部の起始と左バルサルバ洞から右冠動脈が起始するタイプ
・高リスクの奇形では肺動脈と大動脈の間で冠動脈が急に屈曲するパターンあり。
・冠動脈が、運動することで引き延ばされた大動脈や肺動脈幹を横切るときに屈曲がより強調され、二次的に虚血が起こる
・前駆症状は少なく突然死が初発症状のことが多い
・診察だけではスクリーニングはできず、MRI,MDCTなどに寄らねばならない

スクリーニング:現在アメリカ心臓協会(AHA)と欧州心臓学会(ESC)の2つのガイドラインがある

<AHA>
1)35歳未満5)
・高校や大学でなされるべきガイドラインがある
・トレーニングや競技を始める前に個人および家族のヒストリーを完璧に取るべき
・運動選手は必要な訓練を受け医学スキルのあるヘルスワーカーによりスクリーニングがなされるべき
・高校では包括的な問診と身体診察が2年ごとに繰り返されるべき
・大学では暫定的に問診と血圧測定を3〜4年ことに行うべき
・心電図、心エコー、運動負荷試験は,現実的にも費用便益的に(偽陽性が多いという点からも)も勧められない

2)35歳以上6)
・ヒストリー聴取と身体診察は行うべき
・中〜高度リスク者の運動負荷試験は勧められる

<ESC>
若年者7)
・ヒストリー聴取と身体診察は行うべき
・しかるべき教育を受けた医師が行うべき
・2年ごとに行うべき
・12誘導心電図は施行されるべき
・以上で異常がでれば、心エコーホルター運動負荷、MRIなどが勧められる

### 文献2)が剖検により究明し得た死因の検討としては最大で、それによるとやはり肥大型心筋症,冠動脈起始異常、右室心筋症等が原因として多いようです。
心電図によるスクリーニングはアメリカでは偽陽性の問題から勧められず、欧州では勧められていますが、以前の当ブログで紹介したように評価は一定していないようです。
どちらも優れた医療従事者による問診、診察の大切さを挙げていますね。

文献
1)J Am Coll Cardiol. 1996;28(2):428.
2)Circulation. 2007;115(12):1643
3)J Am Coll Cardiol. 2003;41(6):974
4)Ann Intern Med. 2004;141(11):829
5)Circulation. 2007;115(12):1643
6)Circulation 2001; 103:327
7)Eur Heart J. 2005;26(5):516.
by dobashinaika | 2011-08-05 22:57 | 心臓突然死 | Comments(0)

日本の心房細動患者においてワーファリン処方とINRレベルを規定する因子:J-RHYTHMレジストリーサブ解析

Circulation Journal 7月27日早期公開版より

Determinants of Warfarin Use and International Normalized
Ratio Levels in Atrial Fibrillation Patients in Japan
– Subanalysis of the J-RHYTHM Registry –


日本における心房細動患者のワーファリン利用とINRレベルを規定する因子に関するJ-RHYTHMレジストリーのサブ解析

・6324名のCHADS2スコア1点以上の非弁膜症性心房細動の人におけるワーファリンが使用されるうえでの規定因子につき検討
・6932名のワーファリン服用中患者では、INRの規定因子につき検討(70歳以上は目標INR1.6-2.6、70歳未満は2.0-3.0)

・永続性心房細動、心不全、脳卒中/TIA、CHADS2スコア高得点は、ワーフリン服用者で非服用者より多く認められた
・ワーファリン使用を規定する因子としては60歳以上、持続性または永続性、心不全、糖尿病、脳卒中/TIAであった
・抗血小板薬を使用していることはワーファリン使用の負の規定因子であった(抗血小板薬服用者は非服用者よりワーファリン使用が少ない)
・ワーファリン服用者の53%しか至適INRに達していなかった
・至適INR(対低レベルINR)の規定因子(多く見られる場合)は60歳以上、持続性、高血圧、脳卒中/TIAであった
・抗血小板薬使用は至適INR維持の負の規定因子だった

結論:今の日本では、ガイドラインに沿った抗凝固療法に対するアドヒアランスは限定的である

###CHADS2スコア1点以上の人でも88.8%にワーファリンが投与されているのは、専門医集団対象の登録研究ではあることを勘案してもかなり高投与率と思われます。
ただ細かく表を見ると、ワーファリンが使われていない人に55.5%に未だにアスピリンは使われていたり、CHADS2スコア2点以上でも300人以上の人はワーファリンなし(4点以上の人も52人いる!)だったりします。循環器専門医にあって、この人たちはどういう理由でそうなのか、ぜひ知りたいです。

驚くべきなのは至適INRの表において、ガイドライン推奨レベルよりINRが低人が全体の42%にも及んでいる点です。登録時のみのワンポイントデータではありますが、専門医にしてこの低達成率!原因は70歳以上がINRを1.6〜2.6であることは明らかです。低レベルINRの人の74%は74歳以下です。INRが2.6とか2.8になると、たとえ60歳代でもワーファリンを減らすことは、日常的に循環器専門医の間でも行われていることの反映だと思います。これはぜひアウトカムを知りたいところです。つまり70歳未満でも1.6-2.6のつもりでコントロールしている医療機関(あるいは医師)と、2.0−3.0のつもりでコントロールしているところの塞栓率の比較です。当院では全く根拠はありませんが、やはり2.8くらいだと70歳未満でもワーファリンは減量することが多いと思います。日本人は一律に1.6−2.6でもネットベネフィットは良好のような気もします。

最後に余計な一言。そろそろ研究呼称にJ-をつけるとか、論文名に"in Japan"とつけるのはおしまいにしたいなあ。まあこの論文は日本の低INRレベルの特殊性が言いたいのだからしょうがないですけど
タグ:
by dobashinaika | 2011-08-04 23:35 | 抗凝固療法:リアルワールドデータ | Comments(0)

低ヘルスリテラシーと健康アウトカムに関するシステマティックレビュー:Annals of Internal Medicineより

Annals of Internal Medicine7月19日号より

Low Health Literacy and Health Outcomes: An Updated Systematic Review

低ヘルスリテラシーと健康アウトカムの関係についてのシステマティックレビューです

・ヘルスリテラシーが低いほど、入院増加、救急ケア増加、マンモグラフィー検診受診低下、インフルエンザワクチン接種不良、医薬品適正使用不良、薬品表示や健康アドバイス理解不良を認めた
・高齢者では,低リテラシーは包括的健康状況悪化および死亡率増加と関連
・ある種のアウトカムでは、低リテラシーで人種間のばらつきを説明することができた
・計算力と健康アウトカムの関係は証明できず。

###ヘルスリテラシーと健康アウトカムの相関は確立したものといわれています(こちらの中山和弘先生のサイトが参考になります)。さて、ではリテラシー向上にはどうしたら良いのか?そもそも健康に関心のない層にどうやってリテラシー向上のプロモーションを行うのか?

リテラシー向上の場には家庭(マスコミ)、学校、職場、医療機関、地域、等が考えられます。
その中で今後、特にわれわれ医療機関は地域と一体となってこのプロジェクトを考えて行く必要があると思います。プライマリケア医の患者さんに疾病のメカニズムや薬の効果、副作用を説明する日々の営みは、まさにヘルスプロモーション活動そのものだと思いますが、その特徴はテーラーメイドプロモーションであることです。その人その人の理解度に合わせた説明、メンタルやモチベーションを考えた言葉使い。毎日の診察室でもやり取りは個別化したリテラシー向上活動であるとも言えます。

追記)ただしそれには医療者のコミュニケーション能力が大きく左右すると思われますが、その点の医療者間格差や教育には改善の余地が大いにあると思われます。

今後われわれ地域の医療福祉関係に従事するものとしてできることには、さらにより身近で多職種協同的に健康を語れる場の創成や、ネットを使った取り組みなどがふくまれるかもしれません。自分としては、より興味を引くような健康教室の開催、医療関係の片以外の方が気軽に健康問題について語り合える場作りなどに取り組みたいと思います。
by dobashinaika | 2011-08-02 23:00 | リスク/意思決定 | Comments(0)

ワーファリンは冠動脈石灰化を促進させる:European Heart Journalの観察研究より

European Heart Journal7月20日オンライン版より

Patients using vitamin K antagonists show increased levels of coronary calcification: an observational study in low-risk atrial fibrillation patients


虚血ローリスクの心房細動患者におけるビタミンK阻害薬(VKA)使用の冠動脈石灰化への影響に関する観察研究

P:心血管疾患のない157名の心房細動患者(男108、平均57歳)に冠動脈石灰化のスキャン(CT)を施行

E:VKA使用71名(45%)。6~143(平均46)ヶ月使用

C:VKA非使用

O:冠動脈石灰化スコア

結果:
1)平均の冠動脈石灰化スコアはVKA群で明らかに高い
2)VKAの使用期間が長いほど石灰スコアが高い (no VKA: 53 ± 115, 6–60 months on VKA: 90 ± 167, and >60 months on VKA: 236 ± 278; P < 0.001)
3)年齢とVKAは冠動脈石灰化の明らかな危険因子

結論:VKA使用患者では冠動脈石灰化レベルの増加を認めた。年齢とVKAは冠動脈石灰化に関連があった。

###ワーファリンを代表とするビタミンK阻害薬は石灰化抑制因子の一つであるマトリックスGIa蛋白(MGP)を阻害する作用が報告されています。実際の臨床でそれを気にしてワーファリンを出さないということはないと思われます。
by dobashinaika | 2011-08-02 19:50 | 抗凝固療法:ワーファリン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学・リスク因子
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールドデータ
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
未分類

タグ

(40)
(39)
(35)
(27)
(27)
(27)
(25)
(24)
(21)
(21)
(20)
(19)
(18)
(16)
(15)
(14)
(13)
(13)
(13)
(13)

ブログパーツ

ライフログ

著作

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法


プライマリ・ケア医のための心房細動入門

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)


健康格差社会への処方箋


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書)

最新の記事

2020 年改訂版 不整脈薬..
at 2020-03-14 18:00
DOACの利益に関する低満足..
at 2020-03-05 07:24
日本における心房細動患者の脳..
at 2020-03-03 07:33
日本のNOAC/DOAC登録..
at 2020-03-02 07:21
アジア人のNOAC不適切低用..
at 2020-02-17 07:07
長期ケア施設入所者における抗..
at 2020-02-06 06:58
2019年心房細動関連論文ベ..
at 2020-01-20 08:18
2019年心房細動関連論文ベ..
at 2020-01-11 18:52
アルコール常用者の禁酒は心房..
at 2020-01-10 07:28
心房細動な日々 dobas..
at 2020-01-09 08:49

検索

記事ランキング

最新のコメント

いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
取り上げていただきありが..
by 大塚俊哉 at 09:53
> 11さん ありがと..
by dobashinaika at 03:12
「とつぜんし」が・・・・..
by 11 at 07:29
> 山川玲子さん 山川..
by dobashinaika at 23:14
運慶展を観た方にWEB小..
by omachi at 19:45
> terryさん ご..
by dobashinaika at 08:38
簡潔なまとめ、有り難うご..
by 櫻井啓一郎 at 23:16
いつも大変勉強になります..
by n kagiyama at 14:39

以前の記事

2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン