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胸痛患者への処方や冠動脈検査は適切になされているか、に関する男女比較:European Heart Journalより

European Heart Journalより

Are we using cardiovascular medications and coronary angiography appropriately in men and women with chest pain?

・スウェーデンの登録研究(SCAAR)に登録された初回冠動脈造影患者12,200名が対象

・若年層(59歳以下)では、女性の方が男性より正常冠動脈所見が多く(78.8 vs. 42.3%, P< 0.001)、男性で左主幹部病変や三枝病変が多かった(18.2 vs. 4.2%, P < 0.001)
・心血管イベントは男女を問わず、正常冠動脈患者で少なかった
・検査手技による合併症は女性で有意に多かった
・高リスク層では男性より女性で、造影前にアスピリンが投与されている例は少なかった(83 vs. 86.1%, P = 0.001)

結論:女性、特に若年層では、正常/有意狭窄なしの冠動脈症例が多く、心血管エベントも少なかった。男性は若年層でも、重症冠動脈病変が多かった。高リスクへのアスピリン処方は女性で少なかった。このような性差の認識が、女性における冠動脈検査の評価改善やアスピリンのエビデンスベーストな使用につながる。

###正常冠動脈所見が多いのは、症状が非典型的な人が女性で多いからでしょうか?本論文の前のページに掲載されている論文で、有名なDimond-Forresterスコアが女性では冠動脈検査適応の過大評価につながるとの知見が報告されています。女性でアスピリン処方が少ないのは、昨日とりあげた、女性の冠動脈疾患にはEBMが適応されていない実例かもしれません。陽性検査所見が少ない、高リスク層が少ない。症状が非典型的などさまざまな背景因子がからみ、女性の冠動脈疾患の診断や検査適応は、男性ほど単純ではなくそれだけ気をつける必要があるということを、今回の一連の論文lからのメッセージとして受け止めたいと思います。
by dobashinaika | 2011-06-04 23:27 | 虚血性心疾患 | Comments(0)

女性の急性冠症候群の治療にエビデンスが取り入れられにくいことに関与する因子

European Heart Journalより

Factors influencing underutilization of evidence-based therapies in women

女性の急性冠症候群(ACS)では、治療にエビデンスが取り入れられにくいことに関与する因子の検討

・カナダのACS登録試験患者6558名対象
・女性は男性に比べて
β遮断薬の処方が少ない(75.76 vs. 79.24%; P < 0.01)
脂質低下薬の処方が少ない (56.37 vs. 65.44%; P < 0.0001)
ACE阻害薬の処方が少ない(55.52 vs. 59.99%;P < 0.01)
・女性であることと、カテーテルを行わないことは、脂質低下薬やベータ遮断薬を処方されないことの強力な予測因子
・年齢、Killip2、Killip3,4はβ遮断薬を処方しないことに対する危険因子
・女性では、高齢者ほどKillip2以上の心不全の有病率が多い。
・女性では、カテーテルを施行される可能性が(男性より)少ない(41.9 vs. 49.6 %; P < 0.001)

結論:ACSの女性は男性に比べて、エビデンスベーストな治療を受けられにくく、このことは年齢、合併症(心不全)、医師による患者さんのリスク評価(カテーテル適用)と言った多様な因子と関係していた。いくつかの交絡因子を補正しても脂質低下薬やACE阻害薬が処方されにくいことに変わりはなかった。

###男性ほど確固たるエビデンスがないから、あるいは女性というだけで冠動脈硬化の危険因子ではないという認識、などの理由が考えられますが。ACE阻害薬などが使われにくい理由はわかりません。確かに、カテーテルや濃厚な薬物治療など侵襲性を帯びた治療を女性には施すのははばかられる、という医療者側の心理的障壁はあるかもしれません。エビデンスそのものだけでなく、エビデンスの(現場での)適応にも性差があるとは考えさせられます。
by dobashinaika | 2011-06-03 23:34 | 虚血性心疾患 | Comments(0)

J-RHYTHM Registryにみる、抗血栓療法における日本の循環器専門医の心象風景

日本の循環器専門施設における心房細動患者の登録研究 J-RHYTHM Registryに対するEditorialです。

Atrial Fibrillation and Anticoagulation Therapy
– Different Race, Different Risk, and Different Management? –


要点のみ

・国際的にはINR2.0-3.0が推奨されているが、60%未満の達成率といわれている
・アジア人では、INR維持に必要なワーファリン投与量はより少なくてよいことが明らかになっている
・アジアではINR1.6-2.6がより適切との提案がある

・J-RHYTHM Registryでの興味深い所見
1)低リスク層(50%以上がCHAD2 0か1)が多いにもかかわらず、ワーファリンが87%に投与され、CHADS2 0~1の75%もワーファリンが処方されている・この層でのベネフィット―リスク比は低いかもしれない
2)INRが適切と考えられる患者の割合が低い(INR2-3で35.4%、1.6-2.6で66%)
3)日本のガイドラインで推奨されないにもかかわらず、アスピリンが25%以上に使用されている。冠動脈疾患が10%であることを考えると、抗凝固薬として使われていると思われる。このうちの75%はワーファリン服用の適応に合致する患者である

・このことを踏まえての日本人における抗血栓療法の改善策としては、アスピリンの代替として十分との報告もあるX,Xa阻害薬が考えられる
・ワーファリンの作用には、遺伝子多形が関与しており、その発現率には民族差があるといわれている
・この登録研究は日本の心房細動患者における抗凝固療法の現況を示し、この患者層に対する抗血栓療法の最適化の必要性を強調するものである。

###たしかに、エディターに言われてみると(言われるまでもなく?)この登録研究は、読めば読むほど日本の循環器専門医(私も一応含めた)の心象風景や診療風土が見えてきて、私など非常に面白かったです。なるべく出血を回避する、心房細動を見たらすぐワーファリンを出したくなる、でもアスピリンでお茶を濁している患者さんもまだいる、という空気ですね。専門医といえども、なかなかエビデンス通りには行動できないことが表れています。
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by dobashinaika | 2011-06-01 19:58 | 抗凝固療法:リアルワールドデータ | Comments(1)

”リアルワールド”の心房細動患者における脳梗塞と出血率

Thrombosis and Haemostasis 5月26号より

Ischaemic stroke and bleeding rates in 'real-world' atrial fibrillation patients.

「抗凝固療法クリニック」で最適なモニター下に抗凝固療法を受けている、実際の生活をしている心房細動患者の塞栓/出血のイベント率を通常のクリニックでの抗血小板療法、無治療と比較検討したメタ解析

・1994年~2010年までの「リアルワールド」における抗凝固療法中の心房細動患者のイベント率を研究した論文をPubMedより抽出
・塞栓症を検討した136研究、出血を検討した86研究を選別した

・脳梗塞率(30研究)は無治療例(4.45/100人年,0.25~5.9)あるいは抗血小板療法(4.45/100人年,2.0~10)で、モニター下抗凝固療法(1.72/100人年)あるいは特にモニターをしない例(1.66/100人年,0~4.9)より有意に高かった。
・大出血率は(32研究)、抗血小板療法と抗凝固療法(モニターの有無にかかわらず)とで同様であった


結論:RCTと同様、リアルワールドの診療所での抗血小板療法または無治療下の心房細動患者における脳梗塞率は、抗凝固療法患者より高かった。抗血小板療法の出血率は抗凝固療法と同様だった。実地医家における抗凝固療法の普及が、アウトカムを改善した。

###"real-world" studyというのは観察研究などを指すと思われますが、無治療での脳梗塞率4.45%、抗凝固療法下で1.6〜1.7%という数字は、1980年代後半から出たワーファリンに関するRCTのデータとおおむね一致しています。抗血小板療法はリスクベネフィットで無治療よりも劣ることも示されています。
「心房細動の人は何も飲まない、またはアスピリンだと年間4.5人脳梗塞になり、ワーファリンを飲めばそれが1.5人に減る」(欧米では)と覚えておくと良いでしょう。
それにしてもreal worldという言葉は何となくかっこ良くて、最近よく使われますが、厳密に"real"かどうかは不明です。病院に来ていない人、そもそも観察研究(登録)さえ拒否した、または医療機関など見向きもしない人は含まれていないからです。そこの層こそたくさんいるはずですが。
by dobashinaika | 2011-06-01 00:12 | 抗凝固療法:リアルワールドデータ | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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