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カテゴリ:リスク/意思決定( 17 )

医療リスクについての「理解」と「納得」

突然ですが、医療とは何か、臨床とは何か、この大上段な問いに対して暫定的かつ業界的にも世界潮流的にも妥当な答えは「医療はコミュニケーションである」ということだと思われます。
では、コミュニケーションとは何か、これもかなり大上段なテーマですが、暫定的に、「様々なものを共有または共感すること」としておきます。また行為の文脈からは「合意形成」であるということもできます。
この「様々なもの」は、一言で言えば「情報」と言っても良いですが、その中には、知識、価値、感情といったカテゴリーが含まれるはずです。

ダン・ガードナーの「リスクにあなたは騙される」(早川書房)はリスク認知を理解する上での名著ですが、そこで人間の思考システムには「頭」と「腹」の2つがあることが強調されています。言うまでもなくそれは「理性」と「感情」に相当するのですが、原発事故以来、こうしたリスク認知を巡る二項対立がよりクローズアップされてきているように思われます。
たとえば「安全」と「安心」、「客観確率」と「主観確率」、「アルゴリズム」と「ヒューリステクス」。どれも言葉は違いますが「頭」と「腹」の2システムを想定した概念です。

はじめに述べた「様々なもの」は、医療コミュニケーションにおいては「医学的知識」と「それに対する感情や価値観」という二項対立の形で現れてくるように思われます。例えばワーファリンを飲む場合の副作用は約1%ですが、それより飲むことの利益の方が大きいことを説明した場合、患者さんの反応はおおむね次の4パターンあることを私はずっと感じていました。

まず、1%というリスクの意味とベネフィットとの差を理解して、服用することに納得される人。この人たちを「理解納得型」と呼ぶことにします。

次に、リスクとベネフィットの意味は理解するけれども、それでも副作用で脳出血になったらこわいので飲みたくないという人。この人たちを「理解不納得型」と呼ぶことにします。

第3に、リスクやベネフィットの意味はわからないけれども、先生の言うことだから信用しますという人。この人たちを「不理解納得型」と呼ぶことします。

最後に、やはりリスク、ベネフィットの意味はわからないが、副作用が不安なので服用しないという人。この人たちを「不理解不納得型」と呼ぶことにします。

このうち第3の「不理解納得型」は主に高齢者に多いのですが、これまでブログでも何度か言及した社会心理学で言う精緻化可能性モデルの周辺ルートに相当します。リテラシーや動機が不十分な場合、情報の送り手すなわち医師への信頼性や魅力の高さを根拠に納得する思考法です。

私が常日頃考えるのは、上記2番めと4番め、すなわちどちらも「不納得型」ですが、この人たちに納得していただく、つまり「腹」でわかっていただくにはどうしたら良いかということです。いわゆるリスクリテラシーを高めれば、果たして「腹」レベルまで納得してもらえるのでしょうか。この問いに対しては、「腹」の手強さを考えると、いささか絶望的な気配が漂います。

「腹」とは、感情を主に指しますが、またその人個人の信念あるいは価値観を含む概念でもあります。言うまでもなく個人の感情や価値観は非常に強固です。特に医療のリスクに関する「腹」は、絶望的に手強い。なぜならまず副作用は自分自身のからだそのもののことだからです。計画停電のリスク、増税のリスク、他人がワーファリンを飲んで脳出血になる1%のリスク,こうしたリスクと、自分が脳出血になってしまう現象とは「その人」にとって根本的に違います。

さらにリスクは、基本的に「未来のこと」の確率ですのでリスク1%といっても、出血が起きてしまえばその人にとっては100%の「過去のこと」になってしまします。経済学者小島寛之が村上春樹の「パン屋再襲撃」の一節「世の中には正しい結果をもたらす正しくない選択もあるし、正しくない結果をもたらす正しい選択もあるということ」の中に見いだした不条理性です。「ことが起きる前の正しさ」と「ことが起きたあとで振り返ったときの正しさ」という決定的な断絶です。

こうした「腹」の前ではわれわれ医療者はなす術がないかもしれません。しかしながら、まずこういうことはできると思うのです。たとえば2番めの「理解不納得型」の人は、実は「理解不十分あるいは誤解不納得」なのかもしれない可能性があります。コストやスキルアップで「誤解」を解くことで「納得」に導けるかもしれません。

それでも「納得」が得られない場合はどうするか。私は「それはそれで良い」と思います。はじめに述べたように、コミュニケーションは「感情への共感」「価値観の共有」がその本分であり。早急に結論を出したり問題解決をいそいだりすることが本質ではありません(時間的緊急性のある問題は別に考えます)。了解し合うことやプロセス自体に意義があると考えるからです。ハーバーマスはこのような了解志向型の営みを「コミュニケーション行為」と呼び、「成果志向型」よりも本質的であると指摘しました。情報の共有の努力を尽くした上で、「不納得」について共感するーとりあえずこのスタンスを大事にしたいと思います。

なお、就活でも何でもコミュニケーション能力が最重要などとよく言われるようになりましたが、コミュニケーション行為は「能力」の尺度で捉えられるものか、いつも疑問に思います。「情報」の共有であれば、それなり能力やスキルは必要です。これに対し価値観や信念、感情と言った思考活動について「共有、共感」するのも「能力」なのでしょうか?「経験」や「想像力」の介在する余地は?また後日考えたいテーマです。
by dobashinaika | 2011-06-26 11:20 | リスク/意思決定 | Comments(0)

リスク/意思決定に関する最近のツイート(私ので僭越ですが。。)

ちょっとした原稿依頼があったので、ここ1か月くらい、ツイッターでぶつぶつ言った患者—医療者関係やリスクコミュニケーション関係の戯れ言をまとめてみました。
ツイッターをやっていると、こういうときパッチワーク作業ができて重宝です。
こうして見るとほんとに大したこと言ってないですね(笑)。何でこんなこと言ったんだろうっていうのもままあります。ご批判いただければ幸いです。

####################################################################
「語りえぬことには沈黙しなければならない」この人類史上最も有名な一文も、われわれ医者にとってはツラい一言ことだなあ。語りえぬことばかりでも語れねばならない毎日だから。

どこまでが語りえることなのか、それを明らかにすることから始まることがありますよね。難しい命題ですが。

BMJに「インフォームドチョイス」を知識と態度から定義づけた論文が載っていたが、その知識の元になる情報の質と伝達方法にすでにバイアスが入る可能性がある。

恐怖心を定量化する試みって、何かあるのだろうか?定量化できたとして知識によってどのくらい影響されるか知りたいところ

月1回l健康教室をやっていますが、はじめは患者さんの「リテラシー」向上を目的にしていましたが、途中から自分の「患者さんに対するリテラシー」向上も必要であることに気づかされました。患者さんは疾患を、そしてわれわれ医療者をどう考えているのかをまず読み取らねば。

時々さる外科系医療機関から「手術には支障がない」「手術は見あわせた方が良い」のどちらかに丸をつけるような返信用紹介状が同封された患者照会があって、正直困る。リスクの寡多だけ答えるようにしてるけど。

あまり良くなっていないのに、「少しはいいんですが、まだ。。。」という患者さんの心理は、自分が病気になった時よくわかる。治りたいという願望と医者への気遣いと。

EBMを日常診療に生かす方法について、開業医の先生向けに話していたら、いつの間にかリスクコミュニケーションの話しになっていた。

地震があっても自分の頭の上だけには屋根が落ちてこないと考えるのが「楽観バイアス」今回そんなバイアスが自分にもかかっていたことを改めて自覚。バイアスを自覚することこそまず大切なんですね。

例えばコレステロールの高い患者さんにいくら心筋梗塞のリスクを説明しても、心のどこかで「自分そうはならない」と思いこんでいる。その思考が心に占める割合がものすごく大きい人と小さい人がいて、その差はどこから来るのかが、前々から知りたいことなのです。

RT xxxxxx: こういう記事でリスク心理学の知見が語られるようになったのはいいことだ。 http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=41412&from=tb

リスク認知について「未知性」「恐ろしさ」の2因子が言われているが、知識でいくら未知性を補っても、後者が根強い場合、安心を得ることは難しい。そこの転換点は個人差が大きいと思う。

放射線被ばくに関して、医学的、疫学的にあまりにもありえない言説を目にすると、無力感に襲われる。患者さんがあやしい健康食品をよく効くと言うのを聞いたのと同じ感覚。何とか医学的な説得を試みても難しいことが多い。

患者満足度 × 医療者満足度を最大にすることが医療の目標かも。足し算でなく、かけ算なのがミソ

@xxxxxxx ありがとうございます。足し算だと一方かがかなり小さくでも、他方が十分大きければ見かけ上大きく見えますので。それだとかけ算では小さくなりますから、そこがミソのつもりです。言葉の遊びですけど。

用語が表している範囲って専門家と受け手とではかなり違う。「動脈硬化」と一口に言っても医者は幅広い意味で使うが、患者さんは狭い危機的イメージでとらえる。その幅や質の違いをおさえないとなあ。原発問題で出てきたキーワードの取り扱いも一緒のような気が。

原発にまつわるリスクコミュニケーションの混乱は、医療現場での日々のコミュニケーションミスマッチにそのままあてはまるので、身につまされる。「可能性はゼロではない」言い方なんてその典型。医者は当たり前だと思って軽く言うけど、患者さんはそれを100%と捉える。

同意です。リスク定量自体が明らかでない(または明らかにしない?)場合、もっと混乱しますね、RT @xxxxxx はじめまして。仰る通りだと思います。でも最近は訴訟が多い関係で少しでもリスクがあれば医師はしっかり強調しますが、原発の場合はそこがあやふやすぎると思います

夜間、床につくと、自分の心臓の鼓動を地震と思ってしまい眠れない不整脈の患者さん来院。まだまだ余震の影響は続く。

『正しく怖がる」という場合の「正しく」は「理性的に」とか「科学的に」という意味で使われるるように思うけど、だとしたらそれ原理的に不可能ではないだろうか。

厳密には、「不可能と知りつつも、正しく怖がるように努力する」というのが「正しい」態度なのでは。

患者さんが自分の考えで服薬をやめることって、医者が考えているよりもはるかに多いと思う。患者さんのその考えをまず尊重したい。そこからコミュニケーションの開始。

「モニター」と「モンスター」の語源は同じだそうです。こわいもの、わけのわからないもの→だから監視する。なるほどね。

手術や服薬を拒否する患者さんは多いが、非常に低い確率でも、きわめて重大な結果をきたす事柄への態度決定は、科学では答えが出ない。問うことはできるけど。原発についても同じ。

リスク客観主義とリスク構成主義とがある。どちらの立場に偏りすぎてもだめ。でもそのバランスとるのは超難題ですね。
by dobashinaika | 2011-06-12 23:38 | リスク/意思決定 | Comments(0)

大腸がん検診のエビデンスに基づくリスク情報伝達がインフォームドチョイスに及ぼす効果:BMJより

BMJ 6月2日号より

Effect of evidence based risk information on “informed choice” in colorectal cancer screening: randomised controlled trial

大腸がん検診においてインフォームドチョイスをする上でエビデンスに基づくリスク情報の伝達と、従来からの標準的な情報伝達とを比較検討

P:50〜75歳の大腸がんの既往のない1577名。ドイツの公的保険内での取り組み

E:大腸がんに関するエビデンスに基づくリスクを記載したパンフレットと、オプションとしてリスクと診断に関する2つの双方向性インターネットモデュールを使った情報伝達

*伝達法はUK Medical Research Councilのフレームワークを用いた。例えばスクリーニングを受けることによる相対危険率の変化よりは、自然頻度の変化を提示した。このフォーマットはパイロットスタディを経て2008年に改訂された

C:ドイツの公的なパンフレット:2003年発行。便潜血検査と大腸スコピーーについての概説のみで数的なリスクベネフィットの情報はなし

O:一次エンドポイント:「知識」「態度」の概念を含んだ「インフォームドチョイス」*。現実的で計画的な受診の組み合わせ
二次エンドポイント:「知識」。現実的で計画的な受診の組み合わせ
知識と態度はスクリーニング6週後に評価された。現実的で計画的な受診の組み合わせ、は6ヶ月後に評価された

*Marteauらの方法による。「知識」については大腸がん検診に関する8つの質問を行い4つ以上正答の時「good knowledge」とした。「態度」については健診に対して前向きかどうかの4つの質問を行い2.5未満を「positive attitude」とした。good knowledgeかつpositive attitudeで健診を受けた時、およびgood knowledge、negative attitudeで健診を受けなかったとき「インフォームドチョイス」と定義した。「現実的で計画的な受診の組み合わせ」はドイツの長いスパンにわたるスクリーニングの時間枠(10年ごとの大腸スコピーと1,2年ごとの便検査)」に沿った検診を受診したかどうかで判断した

結果:
1)アンケート回収率:92.4%
2)「インフォームドチョイス」は介入群で44.0%(345/785)、対照群で12.8%(1014/792)だった。(difference 31.2%, 99% CI 25.7% to 36.7%; P<0.001)
3)good knowledgeは介入群59.6%、対照群16.2%(difference 43.5%, 37.8% to 49.1%; P<0.001)
4)positive attitudeは両群とも多かったが、介入群でより少なかった(93.4% (733) v 96.5% (764); difference −3.1%, −5.9% to −0.3%; P<0.01)
5)「現実的で計画的な受診の組み合わせ」については差なし(72.4% (568) v 72.9% (577); P=0.87)

結論:大腸がん検診においてエビデンスに基づくリスク情報の伝達は、「インフォームドチョイス」を増加させ「知識」を改善させたが、「態度」についてはあまり改善しなかった。現実的で計画的な受診については介入効果はなかった。

###Table 3を見ると、大腸がん検診の疫学的な質問が並んでいますので、EBM的情報を提供されている介入群で知識スコアが高いのは当然です。態度については、相対危険でなく絶対危険(自然頻度)で数字を示されていると、以前のブログで紹介した研究の通りnegativeな意思決定になりやすいことは既に指摘されています。エビデンスの伝達が検診のインセンティブに寄与しなかったのは、今回のpolulationが元々受診率が高いことも上げられますが、やはり、一般市民が思った以上にがん検診の効果が少ない(と感じられる)ことが原因ではないかと推察されます。
Table3の質問を見れば、一般市民にとっては検診のEBMは「少ない効果」「重篤な副作用(大腸スコピー)」を想起させるに十分と思われます。検診は「pupulation strategy」なのでNNTが低くても意義があることまで一般市民に理解させることは難しいのではないでしょうか?診療所や病院に通院する動脈硬化ハイリスクな人にスタチンの効果をエビデンスーベーストで伝えるのとはまた違った伝え方が必要かもしれません。
なお同じ大腸がん検診のインフォームドチョイスを扱った論文はこちら
by dobashinaika | 2011-06-06 21:59 | リスク/意思決定 | Comments(0)

心不全患者ではヘルスリテラシーが低いと、死亡率が高い:JAMAより

JAMA4月27日号より

Health Literacy and Outcomes Among Patients With Heart Failure
JAMA. 2011;305(16):1695-1701


目的:外来心不全患者において、低いヘルスリテラシーと死亡率や入院との関係を検討

方法:・2001年から2008年までの外来心不全患者を1.2年追跡
・ヘルスリテラシーは3つの既定の質問により評価し、適正、低下に二分した
・少なくとも1つの質問を答えなかった場合、登録日から1年以上たっている場合は除外した

結果:
1)2156人を調査し、1547人(72%)から回答を得た。1494人の対象のうち262人(17.5%)が低リテラシーとみなされた
2)低ヘルスリテラシーは、高齢で、比較的社会的経済的地位が低く、高等教育を受けていない傾向があり、他の疾患合併率が高かった
3)多変量解析により、低ヘルスリテラシーは高死亡率に関連していた(unadjusted rate, 17.6% vs 6.3%; adjusted hazard ratio, 1.97 [95%CI 1.3-2.97]; P = .001)
4)入院率とは関連がなかった(unadjusted rate, 30.5% vs 23.2%; adjusted hazard ratio, 1.05 [95%CI, 0.8-1.37]; P = .73).

結論:外来心不全患者においては、低ヘルスリテラシーと高死亡率とは明らかな関連がある

###心房細動の抗凝固療法では、患者の疾患理解度とINRコントロールとは関連がないとするペーパーが最近ありました。今回は「ヘルスリテラシー」全般の評価であり、一概に比較はできませんが、ワーファリン服薬に比べ、心不全の自己管理のほうが、減塩、食事、運動、感染予防、アルコール、喫煙その他、さまざまな因子が絡みますので、やはりそれなりに適正なリテラシーが要求される、つまり自己管理依存度が高い疾患だということかもしれません。
患者のリテラシーを各々評価するのは難しいですが、それを勘案するのも医師の仕事ということです。
by dobashinaika | 2011-04-27 17:45 | リスク/意思決定 | Comments(0)

心血管系の薬を飲むかどうかの意思決定は、データの提示方法に依存する:Annals of Family Medicineより

今日は、心血管系薬剤服用における意思決定に関する論文です。
Annals of Family Medicine 3・4月号から

Patients’ Preferences for Ways to Communicate Benefits of Cardiovascular Medication

Annals of Family Medicine 9:121-127 (2011)

目的:患者が心血管系予防薬を服用する際の意思決定において、5年リスクスコアの伝え方がどう影響するかに関しての研究

方法:
・ニュージーランド、オークランドの家庭医を受診した連続934症例対象(フラミンガム冠動脈リスクスコア5〜30%)
・ 今後5年間の心血管イベントリスクを、相対危険、絶対危険、オッズ、治療必要数(NNT)、自然発生頻度の5種類の数値を提示し、「毎日服用するように動機付けられたランキング」と「あなたの意思決定に役立ったランキング」をつけてもらった
・ 提示方法(図か数字か)、医師の意見の寄与等についても尋ねた。

結果:
1)「動機付けランキング」「意思決定ランキング」ともに1位相対危険、2位絶対危険でNNTが最下位
2)年齢、性別、人種、計算能力、心血管リスク、心臓発作に対する考えに影響されず
3)図(棒グラフまたは100人表)の方が数値のみ提示よりも好まれた(55.2%)
4)61.8%の人が図や数字よりも医師の意見を選んだ
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結論:患者が心血管系薬剤を服用する場合の選好は、リスクの大小やイベントに対する考え方よりも、効果の提示方法に依存した。各患者が、どの提示方法を好むのかは予測できないので、1種類以上の提示方法が役立つと思われる。

###同じ研究者らによる以前の研究では、やはりRRを図で提示する場合が、患者の意思決定に最も影響を与えることが示されており、今回患者のリスク別に検討しましたが、リスクに関係なくやはり同等の結果とのことです。RRは当然のことながら、数字が大きく出るので、意思決定に影響を与えてしまうと説明できると思います。
しかし、それよりも、やはり医師の意見が最も大きな要素であるという結果が興味深いです。社会心理学の「二重過程理論」ではクライアントの情報処理に対する動機付けと能力の両者ともが高い場合は、自己決定の度合いが多く(中心ルート)、そうでない場合は、情報発信者がどの程度信頼できるか、魅力的か(周辺ルート)と言ったファクターが意思決定に影響するとされていますが、医療上の意思決定は、やはり依然として周辺ルートによる場合が多いのかも知れません。ヘルスリテラシーをどのように向上させるか、震災後、最近こればかり考えています。
by dobashinaika | 2011-03-27 19:55 | リスク/意思決定 | Comments(0)

患者と医師はどのように合意形成をすれば良いのか?〜山形での講演で考えたこと

本日、山形市で「心房細動診療における意思決定—心房細動の“旅”モデル」と題して講演させていただきました(スポンサーありです)。心房細動の“旅”モデルとは、もちろん飯島克己先生の「人生の旅モデル」を心房細動という病いに適用させていただいたコンセプトです。

心房細動の平均的タイムコースとして、50代後半で発症し、20年のうちに徐々に発作を繰り返しながら持続性→長期持続性→永続性に至る経過が想定されます。この人生後半の道行きの間に「発作を止める」「抗凝固薬を飲む」「カテーテルアブレーションを受ける」「抗不整脈薬を見限る」と言った大きな分岐点を経験します。

この経験は、患者さんだけの経験でなく、医師との共通体験としてとらえられます。意思決定場面において、医師は良き助言者であり、良き共同リスクマネージャーとなります。

医師はエビデンスと、長年の経験に基づき、プロフェッショナルとして、客観的な助言を患者さんに与えます。

患者さんはその情報を元にしながら、ご自分の好みや家族生活、社会生活上の影響や制約を考慮しながら、自分にとってベストな選択肢を考えます。

上記医師の意向と、患者の意向は当然はじめのうちは一致しません。双方を一致させ、合意に至る作業、それこそが「臨床」です。

もちろんそこにはいくつかの障壁があります。そもそも患者の意向とは何か、医学医療情報は元来一方向性であり、患者はそもそも根源的に「主体的に決断できない」存在ではないのか?

患者さんはゼロリスクを求める傾向があり、医師に対しては全能を要求する傾向があります。反対に医師は、ゼロリスクの不可能性を認識はしますが、患者さんには十全な生活習慣と薬剤アドヒアランス,つまり全能を要求します。

そこをどう折り合いをつけるか、どう合意に至らせるか?
これが今後の医療の一つの課題だと思われます。

山形ではそうしたことを考えながら講演させていただきました。ご静聴いただきました先生方、本当にありがとうございました。
by dobashinaika | 2011-03-10 23:37 | リスク/意思決定 | Comments(0)

高齢者は服薬意思決定の際、効果には鈍感で副作用には敏感

心房細動と並んで、もう一つの関心事であるところの「臨床上の意思決定」に関する論文も今後ご紹介していけたらと思います。
その意味で大変興味深い論文が最近報告されました。

Archives of internal medicine2月18日オンライン版からです。

Effects of Benefits and Harms on Older Persons' Willingness to Take Medication for Primary Cardiovascular Prevention
Arch Intern Med. Published online February 28, 2011. doi:10.1001/archinternmed.2011.32

背景:高齢者が心血管疾患の一次予防薬を利益と害とに基づいて服用する際、その意思について検討する

方法:
・ 対象:アメリカの3つの老人センターでリクルートされた356名(平均年齢76歳)
・ はじめに、服薬による心筋梗塞一次予防の利益につき5年間のリスク減少を提示し、その後有害事象の種類や重症度に関する情報を提示した

結果:
1)100人の心筋梗塞を6人減らすことができるという絶対リスク減少(現時点で利用可能な薬剤のデータに近い)を示したところ(有害事象はないと仮定して)、88%の人が服薬すると答えた

2)服薬しないと答えた人のうち17%は、10人減らすことができるとした場合は飲むと答えた

3)服薬すると答えた人のうち82%は、絶対リスク減少が3人に減っても飲むと答えた

4)利益は平均的だが、疲労感、吐き気、頭のもうろう感のある薬だった場合は、48−69%(注)の人が飲まないと答えた

5)日常生活に支障あるほどの害があっても飲むと答えた人は3%にすぎなかった

(注)日常生活上の支障の程度により違いあり

結論:高齢者のくすりを服薬しようという気持ちはその薬の利益には比較的反応が鈍く、有害事象には敏感である。このことはガイドラインや服薬意思決定では利益と害の両者を強調する必要があることを示唆している。


###非常に興味深い結果ですが、言われてみればそんなとこだろうなあと納得のいく結果でもあります。筆者も述べていますが、どのくらい効果があるかは患者さんにとってはあまり重要ではないけれども、副作用は少しでも気になるということです。

副作用は近視的な問題で、心筋梗塞予防は先々の問題です。前にツイッタ—でも述べましたが、遠い確率を低く見積もるというのは行動経済学では「双曲型割引」と説明され、社会学者の大澤真幸氏は「快」の階層性で説明しようとしています。

その上副作用は直接目の前の「痛み」ですが、「心筋梗塞にならないこと」は目に見えません。本来なら心筋梗塞の「痛み」と副作用の「痛み」を比較すべきですが、われわれの認知機能はそこまで十全ではないのだろうと思います。

ただし、筆者も述べているように心筋梗塞のときどんなことになるのか、そのリスクの中身はもっと情報提供されないとフェアでないかもしれません

もし有害事象を先に言ってそのあと効果を示したらどうなったかも知りたいところです。また他の年齢層や男女別比較も知りたいですね

患者—医師のあいだの意思決定の旅はまだまだ続きます。
by dobashinaika | 2011-03-02 22:23 | リスク/意思決定 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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