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カテゴリ:開業医の勉強( 34 )

中高年開業医におけるヤブ化防止の傾向と対策

「中高年開業医は必ずヤブ蚊ならぬヤブ化(=藪医者化)する」

こんな事を言うと,かなりの反発を招きそうです。たしかにいくつになっても勉強熱心で,臨床経験も医学的知識もきわめて豊富な開業医はたくさんおられますし,全員ヤブ化というのは流石に言いすぎかもしれません。

しかし,開業して数年以上が経ち,体力的な衰えとともに,医学医療の目まぐるしい進歩になかなかついていけない,あるいは若い医師のような知識吸収の意欲も低下したと感じる医師は少なくないように思います。またそうした自覚のないままに,他の医療者から見て疑問を抱かせるような診療をしてしまっているかもしれません。

こうしたヤブ化の傾向と対策については家庭医療学の碩学である藤沼康樹先生のブログに詳説されており,こちらが非常に参考になります。また雑誌「総合診療」9月号の山中克郎先生の企画に具体的な方策も細かくまとめられています。

ここではこれらの視点に敬意を表しながら第10回宮城プライマリ・ケア研究会で話させていただいた内容に基づいて、循環器専門医を経て開業医として診療を行っている私なりの「ヤブ化防止対策」について,自分で心がけている実践を紹介したいと思います。

1)人はなぜヤブ化するか?
米国の哲学者トマス・ネーゲルは著書「コウモリであるとはどのようなことか」の中で,「われわれは,自分があるいくつかの事柄に特に真剣に取り組んでいることを示すような選択をすることなしには,人生を生きていくことが出きない」,つまり人間である以上目の前の人生あるいは生活に真剣であることは当然であり避けがたいことであると言います。一方人間は「ちょうど砂山に四苦八苦しながら登っていくアリを見るときに湧いてくるような第三者的な驚嘆の念を持って,自分自身と自分が従事している人生とを,一歩退いて眺めることができる」と説いています。つまり自らの生に対し疑念を持つことも同時に免れがたく,これさえも人間の持つ一つの能力であるというのです。

私の言葉に直せば,前者は「オタク化」,後者は「アイロニー」と言えるかもしれません。医学的知識や知識のupdateに関ししてオタク化するのはなんの問題もありません。しかし経験を積んできた医師は,意外に自分の臨床経験に絶対の自信を持ち,疑問視する姿勢に欠けます。「これまでこうしてきてなんの問題もなかったから」「このやり方が一番ストレスがないから」,そうした自信が臨床判断の根拠になっている医師は少なくないでしょう。もちろんそうした経験は若手が到達できない一種の暗黙知として医師の実力の大きなウェイトを占めるものです。しかし他者からのフィードバックを受けていない経験には,たくさんの認知バイアスの入り込む余地があります。フィードバック環境がない場合,医師はますます独善化し硬直化しがちです。ここで言う「オタク化」とは自らの経験に対してオタクになってしまい独善化する,ということです。

もう一つの「アイロニー」ですが,「メタ化」と言っても良く,自分の診療行為を一歩引いて客観的に見つめ直す行為です。そうしたアイロニーであればポジティブなものですが,そうではない「アイロニー」を連想する中高年医師も多いでしょう。つまり,自分の診療を一歩引いて「まあこんなもの」と自己納得化してしまい,日々のルーチンワークに対する新鮮さや驚きの感覚が鈍麻していく。そして診療以外の趣味であるとか経営のことを行動の第一選択においてしまう。言ってみれば向上に対する無関心あるいは意欲低下です。

オタク化が独善化硬直化する原因はすぐに察せられます。一言で言えば前述したように他者からのフードバックがないことです。ソロプラクティスの開業医にとって,他者からのネガティブな指摘は,病院医師からも含めてかなり少ない。せいぜいレセプトの査定や患者さんからの苦情のレベルにとどまっています。どんなに豊富な経験を持つ医師であっても,最新の医学的知見は研鑽でしか得られず,また自らの失敗に気づく機会が希薄です。このように「診療への構造化されたフィードバックシステム」が保証されていない藤沼先生のブログより)ことが,最大の原因です。

もう一つのアイロニー化は,日々の診療の反復とルーチン化が主要因と思われます。生物医学的知識偏重の医学教育を受けてきた世代にとって,診療所で出会うケースは日常的でありふれていて表面的には反復的です。そうした傾向は倦怠感や事務的感覚をもたらし,ひいては診療への無関心,あるいは「診療なんてこんなもの」感を引き起こすことになります。

健全にオタク化しアイロニーを持つのであればよいのですが,中高年医師は往々にして,それとは正反対のオタク化,アイロニーへと突き進んでしまう。その背景にフードバックシステムの欠如と,反復する日常診療への倦怠感が挙げられる,というのがヤブ化の本質と思われます。
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2)ヤブ化問題の構造
さて、ヤブ化対策に移る前に、上述のフィードバックの欠如についてもう少し考えてみます。医師は患者さんと向き合う時、様々な人々との関係性を保ちながら診療しています。様々な階層が考えられますが、本ブログでは「患者身体」(患者さんの身体をさしますが、ここでは単に生物学的身体のみならず、心的身体を含む全人的な視点で捉えて「身体」と表現します。「全人的な」という表現はやや嫌ですね。「主体」というような意味です。言い方はあまりこだわりません)、「メディカルスタッフ」「同業医師」「家族・地域」「社会・環境」の5つのレイヤーを想定します。日々の診療では、患者身体に対しては治療、メディカルスタッフに対しては診療上の指示、同業医師に対しは医師会活動などという具合に、医師は様々な働きかけを各レイヤーに対して行っています。他方、医師はもちろん患者からも、診療の経過を通して様々な知識を学び取り、メディカルスタッフからも患者情報を得、同業医師からは各種影響を受け、という具合に各レイヤーとの間の様々な関係性を保ちながら生活しています。

医師の生活をこのような構造から捉えるとき、ヤブ化とは各レイヤーとの「関係性が希薄になっていくこと」、あるいは「各レイヤーからのフィードバックに対し鈍感になること」と定義することもできます。私たち医師は日々、自らの診療行為が患者身体にどのような変化を生じさせたのか、振り返りを繰り返しながら向上していく省察的実践家としての顔を求められます。前述した「オタク化」「アイロニー」とはこうした患者身体からのフィードバックだけででなく、メディカルスタッフや、同業医師、家賊・地域、そして社会環境に至る各レイヤーからのフェイードバックを受けたがらない、あるいは鈍感になってしまうことに他ならないように思われます。
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他業種との関係性やフィードバックが希薄となって、孤立化、独善化する。これも「ヤブ化」の本質と言えます。こうしたヤブ化の構造を踏まえた上で、ヤブ化対策を考えることにします。

3)各レイヤーとの関係性構築を主眼としたヤブ化対策
3−1)患者からのフィードバック(フィードバック①)
対策の主眼は各レイヤーからのフィードバックの強化です。これには様々な方策が考えられます。レベル1,患者身体からのフィードバックとしては、「ナレッジベースの構築」が欠かせません。単純な話、日々の診療で疑問に持ったことをその時その日その週に調べ知識化する作業です。これにはICTが有用です。日々の診療で生じた疑問に対しUpToDateその他の媒体で検索吟味しEvernoteなどにまとめるといった作業はもはや常識的に行われているでしょう。こうした作業はEBMの基本的姿勢であり、普遍的な学習方法と思われます。しかしながら、ICTに親しみの薄い中高年医師は、年々一人で勉強することの億劫さを自覚します。ヤブ化のもう一つの側面として「面倒くさがり」も重要な要素として考えねばなりません。

3−2)メディカルスタッフからのフィードバック(フィードバック②)
当院では,2019年4月から,日本NP教育大学院協議会の診療看護師(NP)資格を取得したNPを採用し,問診や臨床推論,あるいは生活習慣の管理などを行っています。診療所の外来診療に従事するNPは全国的にもあまり例がないと思われますが,NPは非常に優秀で,外来診療の多くを担うことが可能と考えます(処方その他最終チェックはもちろん医師が行います)。このことに関しては別の機会に詳しく報告したいと思います。

もうひとつ後述しますが,月1回,当院スタッフと外部スタッフによるケアカンファランスや,毎朝のミーティングにおいて,その時時の「困ったこと」「良かったこと」を共有する場を設けることにしています。たとえば昨日受診された患者さんの診療中で良かったと思うことを,構成メンバーから挙げてもらい皆で共有する。これをすると,チームで医療をしている一体感がぐっと増します。またメディカルスタッフから,医師がそれまで全く気づかなかった患者さんの情報,側面をたくさん知る機会でもあります。そうした情報に半ば愕然とすることもあり,日々のコミュケーション向上にかなり寄与します。

3−3)同業医師からのフィードバック(フィードバック③)
「ナレッジベースの構築」は最重要ですが、独学には限界があります。「ヤブ化対策の本質はすばり、「一人でやらない、みんなとやる」ことだと考えます。この時同業医師のコミュニティは非常に強い味方です。各種SNSはその点で非常に有効なツールです。今やFacebook、Twitterは臨床上の疑問に回答を与える有力な武器です。

ただし、やはり患者ケースをベースにディスカッションすること(PBL:Problem-based learning)は、様々な視点を私たちに与えてくれます。特に近所の信頼できる医師同士でのカンファランスでのライブ感は単なる情報以上の「生身の知識」が得られる重要な実践の場です。

当院では2017年から(前身は2005年)当院待合室で、顔見知りの開業医,病院勤務医10-15人による「シン寺子屋勉強会」を3ヶ月に1回の割合で行うことを始めました。資金は毎回の茶菓代300円のみです。各自で気になる症例を持ち寄り思い思いにディスカッションをします。症例は特に珍しいものだけではなく、表に示すようなありふれたケースでもOKです。
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中高年医師の多くが病院専門医からの転職が多いという特徴は、このカンファではプラスに働く面があります。各分野のエキスパートが揃っており,たいていの、そして極めてローカルかつ有用な知識がいながらにして得られます。

問題は、いわゆるインクルーシヴな、あるいは包括的な家庭医の視点からのフィードバックがあるかという点です。ありふれたケースを扱うには、「内科ではない」と言った頭から離れることが大切です。一応、私はある家庭医養成セミナーを2年間受講し、なるべく家庭的視点での発言をするように心がけたいと思っています。まだまだマスタークラスとは程遠い事を実感します。

未だに製薬企業主導の勉強会が情報リソースの多くを(見かけ上?)占めていますが、コンプライアンスの問題等からこうした勉強会が衰退していくこは確実であり、この時に備えて、本来は医師会などが主体となって、地域の島宇宙のような10人前後くらいの学習コニュニティーを創生することが望まれるように思います。

3−4)家族・地域からのフィードバック(フィードバック④)
すでに本ブログで紹介しているように,当院では2017年から,毎月第3水曜日の午後に,認知機能低下等で多職種との関わりが必要な方について,一人30〜40分程度のケアカンファランスを行っています。構成員は患者さん本人,ご家族,ケアマネージャー,訪問看護師,デイサービススタッフ,福祉用具業者などです。
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内容は主に,前半で各職種からの問題点紹介を行い,後半でそれに関する解決策を話し合うわけです。開催して2年になりますが,これは本当にやっていてよかったと思います。家族や医療介護スタッフを通して患者さんを取り巻く家庭,地域の全体像が把握できます。患者さんが診察室の外ではこういう事を考え,こういう生活をしているんだということが改めて新鮮な問いかけとして立ち現れます。

2年間開催してみて,痛切に感じることがあります。一つは,このカンファは基本的に患者さん本人参加を原則としているのですが,大勢が集まる場で患者さんは気後れをしてあまり話をしでいただけないでのではと危惧していました。しかしやってみたらそれとは正反対に,日々の日常や家族への思い,あるいは趣味のことなど,非常に生き生きと語る患者さんを目の当たりにします。普段診察室では決してみることのなかった明るい表情や笑顔を多く見ることができます。一人暮らしや老老介護の中で,このような語りの場は患者さんにとっても自分を開架する場になっているのかもしれないと思っています。

もう一つ,カンファの場では,ときにご家族と患者さん本人との間のすれ違いやご家族が非常に苦労していることが浮き彫りになる場面も見られます。このようなときは,改めて本人は参加せずご家族とスタッフとでカンファを開くことがあります。介護が必要なケースというのは実は家族も様々な問題を抱えている,よく知られたことですがこれもカンファを開くことで,たとえば患者さんのこうした言動が家族を悩ませているという具体的状況が共有できます。漠然とした家族の悩みが明瞭になります。

カンファで語られる内容を診療に活かすことが主眼ですが,患者さんご家族にとっても,あるいは医療介護スタッフにとっても。このように「語りの場がある」ということが重要な意味を持つように思われます。オープンダイアローグと言うには程遠いかもしれませんが,今後スタッフのスキルアップを図りながら,より語りやすい環境を形作っていきたいと考えています。

3−5)社会・環境からのフィードバック(フィードバック⑤)
最後に社会・環境からのフィードバックです。これも本ブログで紹介してきておりますが,3ー4ヶ月に1回,一般市民を対象として「どばし健康カフェ」という集まりを融資スタッフが主体となって開催しています。東京大学の孫大輔先生が立ち上げている「みんくるカフェ」の仙台支店として2013年から開始しました,一般市民と医療福祉介護者が健康の諸問題についてカフェ形式で語り合います。
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テーマは下の表ようにごく身近な健康の話題から,やや深い内容までさまざまです。本カフェは同業者同士のカンファやケアカンファとは,また全く異なる雰囲気で進みます。テーマはあくまで「健康食品やサプリはからだにいい?」といった当事者意識を必要としない自分の外側の問題です。そのため参加者の語りは非常にフランクで,多岐にわたり,自由な空気が支配します。ケアカンファも自由な雰囲気ですが,カフェになると参加者が自分の「役割」を気にしなくていいということが最大の特徴です。その中での語りは,やはり医療者,介護者にとって意外性や新たな発見に満ちます。
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たとえば「AIについて」がテーマのときは,意外にも「AIに診てもらいたい」と考える方が多く,医師のあり方を改めて考えさせられました。「健康情報」がテーマのときは,「医師が十分説明をしてくれないからマスコミ情報に頼る」という理由が多いことも驚きの一つでした。

こうした患者ではない一般市民の思いを聴くことは,診察室の中ではなかなかできません。SNSなどから市民の健康観を得られる場合もありますが,SNS情報はこうした領域では偏りがちかと思われます。市民の語りを直接聴くことで,医療者ではない人々が医療や医療者,健康や病気について何を思い行動しているのか,これを知ることで広い知見が得られ,独善的にならない方向に導いてくれる気がしています。

まとめ
中高年医師がヤブ化に陥りやすい要因を探り,その対策につき長々書きました。
まとめると以下になります。

・中高年医師のヤブ化の背景には「オタク化」と「アイロニー」がある

・そのまた背景には知力体力の衰えによる「面倒臭さ」の前面化と各レイヤーからのフードバックの欠如が考えられる

・当院でのヤブ化防止対策の主眼は,「フィードバックの場を積極的に設ける」,そのためには「ひとりでやらない,みんなとやる」ことである

・患者身体,メディカルスタッフ,同業医師,家族・地域,社会・環境のそれぞれのレイヤーからフィードバックされる場を設定し実践している(つもり)


そうは言ってもそういう場を設定すること自体面倒だ,それができないから問題なのだ,という声も当然あると思います。また当院での対策が普遍的で取り組みやすいかというとむしろ立ち上げには幾ばくかの障壁があることも事実です。

でも,「ヤブ化の徴候」はたとえどんなに鈍感な医師でも,日常診療のちょっとした場面で自覚しているのではないでしょうか。あるいは「ヤブ化」というネガティヴな感触でなくても,独善的になったり(オタク化)で医療情報に以前ほど関心がなくなった(アイロニー)と感じることは多少なりともあると思います。

そうした徴候が現れたときに,若干でも助けになればと考え,書いてみました。
ご参照いただければ幸いです。

$$$ 先日の台風一過の仙台
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by dobashinaika | 2019-10-18 07:27 | 開業医の勉強 | Comments(0)

ケースカンファが待ち遠しい:総合診療スキルアップセミナー

本日は,4月から毎月1回通っている「総合診療スキルアップセミナー」。
ケースカンファレンス形式で,朝9時から夕方5時まで勉強漬けでした。
当初は大変かなあと思っていましたが,最近はこの日が来るのが非常に待ち遠しくなっています。

一流の講師陣,全国からの志の高い実地医家の先生によるケースカンファレンスですが,数々のクリニカルパールを修得するのも目的ですが,その上で臨床推論の手順,Problem Based Learingの実際など,私たち世代が医学教育で学ばなかったそれこそメタ的な「スキル」が味わえるのが魅力ですね。

本日は頭痛に関するケースカンファ,と糖尿病,外科分野のセミナー。
毎回,計8時間みっちりですが,心地よい疲れが残ります。
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by dobashinaika | 2015-09-27 21:38 | 開業医の勉強 | Comments(0)

ものごとを形にする=ひき算→かけ算

24日から始まる日本循環器学会に向けてスライド作りをしています(ようやく何とか終わりました)。

毎度思うことですが、なにか物事を一つのものにまとめ上げる作業は、決して足し算ではないのですね。

混沌世界から問題を抽出し、情報収集し、吟味してひとつ形にする。

これ一見足し算のように見えますが、情報収集の段階で、実は、余計な雑多物まで集めてしまいがちです。
というか、結論が見えるまでは何が雑多で何がダイヤモンドかわからないのです。

あれこれ試行錯誤して、統計学を含む各種作業を経てようやく結論が見えてきた時、ではこれまで塗布してきた情報の山をどのように解きほぐし、いらないものを捨てていくか。
物事をまとめあげるというのは、最後はこの引き算から残った物同士の掛け算ということになります。

この時、引いて残ったもの同士がうまく掛け算できるように、うまく化学反応が起きるように引かなければなりません。

思いがけなく意図せずに掛け算が奏功することもあれば、混沌をさらに深める事もあります。
泣く泣く捨てたものの中にも、後々とても役立つことは多々あるのでそれを信じて、捨てたもものも別の箱に入れていつでも引き出せるようにしておきたいものです。

混沌から秩序を紡ぐ際に必ずこぼれおちるもの、ここに真実があるかもしれません。捨てられずに拾われたもので秩序が形作られると、反対に秩序だけがひとり歩きして、効率性のみが追求されることもままあります。科学は、モデル化抽出化が進むほど、効率化功利化への危険性が高まることに、常に気をつけなければならないかもしれません。

と言葉遊びをしたところで、私の発表は科学とはなんの関係ありませんが、明日からはいつものブログは一休みで、学会の見聞記など書くことにします。

今回の発表で今後の臨床研究のヒントになるようなものが少し見えましたので、今年は頑張って何とか論文にしたいと思います。発表でなくて論文ですね^^

$$$ だいぶ暖かくなってきたので、これまでの厚手のコートから薄手のジャケットとズボンで散歩しています。まだちょっと寒い時もありますね。
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by dobashinaika | 2015-04-23 00:11 | 開業医の勉強 | Comments(0)

オセルタミビル(タミフル)に関するランダム化比較試験のメタ解析:Lancet誌

Oseltamivir treatment for influenza in adults: a meta-analysis of randomised controlled trials
Joanna Dobson et al
The Lancet Published online: January 29, 2015


疑問:オセルタミビル(タミフル)のインフルエンザにおける効果と安全性は?

方法:
・Roche社が提供するRCT、二重盲検(75mgオセルタミビル1日2回vs. プラセボ)、成人対象
・Medline, PubMed, Embase, the Cochrane Central Register of Controlled Trials, and the ClinicalTrials.gov trials register
・2014年1月までの文献
・ITT infected, ITT, On treatment解析
・一次アウトカム;全症状緩和までの期間
・他のアウトカム:合併症、入院、安全性:リスク比とMantel-Haenszel使用

結果:
1)9試験、4328患者

2)オセルタミビルによる症状緩和までの時間 (ITT infected):プラセボにくらべ21%短縮:time ratio 0·79, 95% CI 0·74–0·85; p<0·0001

3)症状緩和までの時間(中間値):オセルタミビル 97.5時間 vs. プラセボ 122.7時間:差25.2時間 (95% CI -36.2~-16.0)

4)ITT解析対象患者での治療効果:time ratio 0.85:差17.8時間

5)48時間以上抗菌薬を必要とした下気道合併症(ITT infected):オセルタミビル4.9% vs. プラセボ 8.7%:RR 0·56, 95% CI 0·42–0·75; p=0·0001

6)入院:オセルタミビル0.6% vs. プラセボ 1.7%:RR 0.37, 95% CI 0·17–0·81; p=0·013

7)嘔気:オセルタミビル9.9% vs. プラセボ 6.2%:RR 1.60, 95% CI 1·29–1·99; p<0·0001

8)嘔吐;オセルタミビル8.0% vs. プラセボ 3.0%:RR 2.43, 95% CI 1·83–3·23; p<0·0001

解釈;今回の結果では成人のインフルエンザにおいてオセルタミビルは症状緩和までの期間を短縮させ、下気道合併症と入院を減少させた。しかし嘔気、嘔吐は増加した。

### Lancetのタミフルに関するメタ解析です。日々の診療に直結する文献なのでまとめました。

Limitationとして1)下気道感染症が、前もって定義されたアウトカムではないこと(過大評価の原因となる) 2)評価時間が短い 3)対象患者が多様であり全患者への一般化に難点あり 等が挙げられています。
by dobashinaika | 2015-01-30 17:57 | 開業医の勉強 | Comments(0)

ネイチャー論文「ノンカロリー人工甘味料が耐糖能異常を引き起こす」を読む

Nature 電子版
Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota


話題となっているノンカロリー人工甘味料(NSA)の論文を読んでみました。
イスラエルのグループからの報告です

大まかに2段構えの論文で、前半は対象がマウス、後半は人間です。

マウスにアスパルテーム、スクラロース、サッカリンのいずれかを、人間の推奨最大摂取量をマウスの体の大きさに合わせて換算した量を飲み水に混ぜて、約5週間あたえたところ、血糖の1時間値は200ちょっと、2時間値は200弱で耐糖能以上を示していました(サッカリンのグラフ)。

もうひとつの実験では、NASを摂取したマウスとブドウ糖を摂取したマウスの排せつ物を、腸内細菌を持たないマウスの体内に注入しています。グラフを見るとNASは食後血糖をあげていて、15分値で200弱、1時間値150くらい、2時間値120〜130となっていて、耐糖能異常を示してしていました。NASの排せつ物を注入されたマウスの血糖値は急上昇しやすく、腸内細菌がより活発にブドウ糖を摂取しやすくなるようです。

次に人間の場合が興味深いわけですが、これはイスラエルの病院に通う糖尿病を持たない381人(平均年齢43歳)にアンケートを行い、NASを多く摂取しているひととそうでないひとで、健康記録から耐糖能異常やBMIなどの属性を比較した横断研究です。

結果は、NASの消費量と、体重 、ウエストヒップ比、空腹時血糖、HbA1c、GTT、ALTの各指標とに関連があったとのことです。
またよりNASの消費量が高い40例のHbA1cは5.6程度で、NASなしの5.4程度より明らかに高いものでした(P<0.002)。
この上昇度はBMIが大きい人ほど多かったとのことです。

最後の研究として、NASを摂取しないボランティア7人に、FDAが推奨する最大摂取量の甘味(サッカリン1食あたり5mg/kg)を含んだ食事を7日間とってもらったところ、マウスと同様に4人の血糖値は5~7日以内に上昇し、腸内細菌の構成にも変化が見られたとのことです。

### 実は私も、時々夏の昼間などスカッとした飲み物がほしい時に某飲料メーカーの◯ールフリーを、結構飲んでいるため大変興味を持って読んだのです。例えばこの飲料では、甘味料としてアセスルファムKとスクラロースが使用されていて、まさに本研究で対象となったNASなんです。

この論文では、人への投与量の詳細が見当たらなかったのですが、サッカリンでは1日120mg程度が最後の研究で使われていました。サッカリンはアメリカなどではかなり使われているようですが、1960年代のラットの実験で膀胱がんの危険性が指摘され、その後の実験で否定さた経緯があり、日本の厚労省では、資料上限が規制されているようです(用量がこの論文とはスケールが違うようですが)。
http://www.ffcr.or.jp/zaidan/MHWinfo.nsf/0/980837ba5d9b0d28492575d6000785e6?OpenDocument

臨床試験は、横断研究ですし、HbA1cが5.4〜5.6のレベルなので、それほど大きな問題では無いように思えますが、これが長期となるとどうなのか。
この論文はむしろ、動物実験で、NASが今話題の腸内細菌の増殖と機能を阻害して耐糖能異常を引き起こしたことを解明した点でしょう。
ひと観察研究は付け足しのような感じです。

とにかく、何の疑いもなく100%大丈夫と思って飲食してはいけないということが大変勉強になりました。

それにしても相変わらずNatureに載る論文は読みにくいというか、ボリュームが桁違いで、図の量も半端でなく、通常の医学論文のような「メソド」など、後ろの方に小さく載ってる感じで、調子が狂います。某博士もこんなところで悩んだのかも。
by dobashinaika | 2014-09-19 21:35 | 開業医の勉強 | Comments(0)

「頭痛・めまい・しびれ・意識消失のRedFlags」についてのスーパーレクチャーを聴く

本日は川崎医科大学神経内科の黒川勝己先生をお招きして医師会の勉強会を開催しました。

黒川先生は、昨年のプライマリ・ケア連合学会のシンポジウムの講師として来仙された際、たまたま講義を拝聴し、
大変感銘を受け、ぜひ仙台に再度お呼びしようと思っていた先生です。

演題名は「頭痛・めまい・しびれ・意識消失のRedFlags」
問診主体で、Criticalな疾患を見逃さないためのRedFlagsをいかに見つけるかのレクチャーです。

各症候でのRedFlagsのまとめです。

<頭痛>
・突然発症の頭痛=頭痛が起こった瞬間に何をしていたかが言えるもの
・New headache=こういう頭痛は初めてと感じるものすべて

<めまい>
・New vertigo=こういうめまいは初めてと感じるもの全て
・明確な誘因のないめまい

<しびれ>
・急性発症のしびれ
・顔面を含むしびれ

<意識消失>
・明確な誘因がないT-LOC(一過性意識消失)
・前兆としての動悸・胸痛

本日はcommonな疾患や身体診察にはほとんど触れず、一切カプランマイヤー曲線も使わず、あくまで症例を中心とした丹念なレクチャーでした。

そのロジカルな診断のお追い込み方に、聴衆は相当熱心に聞き入っていたようです。
普段より出席者も多く、また若手の先生方も多く見られ、改めて「開業医」の問診身体診察へのニーズの高さを痛感させられました。

わたしなど、抗凝固療法のはなしでは、どうしてもカプランマイヤーだらけのスライドを作ってしまいがちなのですが、なるべくカプランマイヤーなしのレクリャーがしたいものだと反省させられました。 
by dobashinaika | 2014-08-05 00:14 | 開業医の勉強 | Comments(0)

仙台市医師会学術奨励賞をいただきました。ありがとうございました。

このたび仙台市医師会学術奨励賞をいただくことが出来ました。

ご推薦、ご審査いただきました諸先生、日頃からご指導ご支援ご批判ご叱責いただいているすべての方々に深くお礼申し上げます。

各種勉強会やメーリングリスト、すこしばかりですが、論文や発表をコツコツとやってきたことの評価と考えております。
またこのブログをを続けてこられたことも、少しは評価されたのかなと思っております。

仙台市医師会の同志の先生方なくして、この賞はありえませんでした。
仙台市内のプライマリ・ケア医を代表して、私が仮に戴いておくというつもりでおります。

賞なんて気恥ずかしいし、自慢っぽくなるのも性に合いませんが、とは言えサルトルにはなれません。
小学校のお絵かき賞以来の賞ですので、素直に喜びたいと思います。
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by dobashinaika | 2014-01-15 23:13 | 開業医の勉強 | Comments(0)

プライマリケアにおけるがん診療(特に診断)上の問題点:がん治療病診連携セミナーより

本日(14日)は、東北大学病院腫瘍内科さんが主に共催されている「がん治療病診連携セミナー」の第4回に当院におけるがん診療の現状と問題を発表させていただきました。

がん患者の病診連携は、プライマリ・ケア医にとっては本当に大きく、重要なテーマですね。

病院と診療所感で患者を紹介したりされたりする際の課題を話し合う場でしたが、私はちょっとそのテーマから脱線して、当院におけるがん診断について、通院患者さんのアンケートをもとに、主に話をさせていただきました。

当院では、仙台市がん検診を受けるように患者さんにお勧めしていますが、各がん検診の受診率について、通院患者さん150人を無作為抽出してことしのがん検診の受診率を調査いたしました。それによりますと、(( )は宮城県の受診率)
・胃がん検診;47.3%(17.9%、全国3位)
・大腸がん検診:41.3%(24.9%、全国9位)
・肺がん検診:36.7%(33.8%、全国2位)
・乳がん検診:44.4%(24.6%、全国13位)
・子宮がん検診:48.1%(32.9%、全国4位)
・がん検診をすべて受けた人の割合:男39.1%(3検診)、女29.6%(5検診)
これを見ると、宮城県全体の受診率より良いとはいえ、医療機関受信者としては各検診とも50%にも達せず、まだ低いなあという感じもします。

「受けない」理由を聞くと
・1位:心配な時に受信できるから:65%
・2位:仙台市健診以外で受けているから:8%
・以下、検査に不安があるから、時間がないから、知らなかったから、必要と感じないから、、、の順でした。

具合が悪くなったら当院で見てくれるという安心感が逆に検診率低下につながっている実態が浮かび上がります。

(本当のことを言えば、上記がん検診のROC曲線からみた健診の適応については議論の予知もあるため、無自覚的に健診を推奨することは問題があると思っていますが)

プライマリ・ケア医ががんを診断する上での問題点として
・検診受診率の低さを克服できていない
・スクリーニング、診断能力に施設間のばらつきがあり、スキル向上は各個人任せになっている
・診断率がわからない(偽陰性、他の医療施設に転院してしまうなどの理由で)
・進行がんが発見された場合の患者さん、家族への対応の困難さ
。年々高齢になる患者へのスクリーニングや治療適応をどうするか
などを挙げさせていただきました。

診療所医師間のがん診療スキルには、かまりのバラツキがあります。プライマリ・ケア医のがん診療スキルアップをシステマティックに行う場がないのが実情であり、何とかならないものかとも思います。

たとえば肝硬変患者さんのエコースクリーング技術、自分で肝細胞癌の描出に自信のない場合は検査についても病診連携が必要だし実際当院でも行っています。また緩和ケアについては、経験の豊富な医師とそうでない医師の格差は大きいものがあります。

そうしたスキルアップの場も大学や病院を中心に何らかの形で提供していただければありがたいですね。

本当は逆紹介後のフォローの仕方、がんだけでなく、他の問題点も一緒に見ていく視点といったことも話す予定でしたが、最近原稿やら研究会やらが立て込んでいて、十分な準備ができず、若干消化不良でした。

逆紹介後のフォローの現状については、また別の機会でまとめようと思います。

このような機会を与えていただきました東北大学腫瘍内科の石岡千加史先生はじめスタッフの方々に厚く御礼申しあげます。
by dobashinaika | 2013-11-15 00:40 | 開業医の勉強 | Comments(0)

第77回日本循環器学会学術集会2日目見聞記(1)日野原重明先生・百一賀記念講演会

まずは日野原重明先生の百一賀記念講演会から

日野原先生は10日前に胸椎11番目を圧迫骨折されたそうですが、聖路加国際病院整形外科の優秀な技術による手術の結果、3日後には秋田などの講演に出かけられていたとのことです。

まさに驚異としか言いようがありません。

講演中はもちろん終始立って、とうとうとよどみなく、ウィリアム・オスラー先生の言葉引きながら、「医療プロフェッショナルの育成」に関しお話しされました。

総合医、家庭の資質を身につけよ、患者さんへも含めた教育者であれ、等々全医療者が耳を傾けるべき箴言かもしれません。

来年もまたこの学会で講演を拝聴するのを楽しみにしたいと思います。

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by dobashinaika | 2013-03-16 19:45 | 開業医の勉強 | Comments(0)

心臓移植についての勉強会に出席しました。

本日は、私が代表世話人を務めます第13回みやぎ心臓疾患症例検討会に参加しました。
東北大学医学系研究科心臓血管外科学分野教授、齋木佳克先生による「動き出した日本の心臓移植医療」と題する講演会です。

先生は、40代とお若いながら、東北大学の心臓移植医療の先頭に立って診療にあたっておられ、その講演は我々内科医にとっても、初めて見聞することの連続でした。

・2010年の法改正以後年間30例超のペースで心臓移植が行われている
・東北大学ではこれまで5例行い、全例生存。
・国内の10年生存率は94.7%。世界的にみて高い。
・臓器提供率は日本は80%、諸外国30%。日本はドナー管理が徹底している

・2011年から植え込み型補助人工心臓の保険召還が可能となった
・1台1800万円
・東北大学では今年1月〜7月まで6例の装着あり
・1年生存率は75%、上位機種では90%で、移植心臓と同等

その他、たくさんの情報がありました。
心臓移植手術のビデオが供覧されましたが,補助人工心臓装着による癒着や、ワーファリンによる出血など、術野のオリエンテーションがつきにくく、思ったより難しい印象です。

ドナー心の心拍開始の瞬間は結構感動的でしたね。
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by dobashinaika | 2012-12-06 23:19 | 開業医の勉強 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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