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2014年 09月 28日 ( 1 )

日本心臓病学会で考えたこと:薬のアドヒアランス、薬選択の意思決定の徒然

26日から3日間、東北大学循環器内科の下川宏明教授会長のもと、第62回日本心臓病学会学術集会が開催されました。この3日間仙台は、それは気持ちのいい快晴の連続でして、全国の循環器専門の先生は初秋の杜の都を満喫されたのではないかと思います。

さて、私、実は8月初めから体調を崩し、診療したりおやすみしたりの日々が続いておりました。
ようやくここ1〜2週で体調が回復しつつあり、元通りの診療ができるようになったので、昨日の午後と本日、学会に顔を出してみることにしました。

仙台国際センターは、実は当院からもそれほど遠くなく天気も最高なので散歩がてら行けそうだったからもあります。

昨日27日は仙台市民会館でNOACのセッションを隅のほうで聞きました。
印象に残ったのは、女子医大の志賀先生のアドヒアランスの話です。
各NOAC 80〜250例程度の検討ですが、1年で万全のアドヒアランスのひとは80%、2年では60%くらいという数字に驚いた、というか、そうかもな、という感じがしました。当院でもNOAC飲みはじめの3ヶ月間で患者さん自己申告のアンケートを取ったところ、1回でも飲み忘れがある人が15%いらっしゃいました。

志賀先生の施設では、ダビガトラン自己中止2例で脳梗塞を起こしたとのことです。
ではどうすればよいか。

患者さんには、まず飲み始め初期に抗凝固薬のゴールをしっかり認識していただきたいし、医師の方も降圧薬やスタチンのように、少しくらい飲み忘れても重大に考えないのでその意識を改める。そのためには患者さんへのコーチングを厳しくする必要がある。そう考えがちですが、ことはそう簡単ではありません。

患者さんに情報を提供して、医師と一緒に治療法を選択する、いわゆるshared decision making (SDM、意思決定共有)の重要性がよく指摘されますが、抗凝固療法の場合、リスクを数字で表すツールなどを使ってSDMを図り、アドヒアランスやアウトカムを向上しようとしても、うまくいくという報告もあれば、そうでもないというのもあります。

特にNOAC時代になり選択肢が増えたあとの検討は殆どないようです。
こちらも参照。
http://dobashin.exblog.jp/19768186/
http://dobashin.exblog.jp/19768203/
http://dobashin.exblog.jp/19917325/

そうした問題意識を抱えたまま、本日、山下先生のランチョンセミナーを拝聴しました。
そしたら驚いたことに、山下先生も同じことを考えておられました。

山下先生の話は、いつもながらレトリックとデータの両者が豊富で多岐にわたっていましたが、主張自体はシンプルでおおよそ以下の様なことだと解釈しました。メモからなので間違いあったらすみません、訂正します。
・NOACを比較する場合、スタンダードのワルファリン群のプロファイルがまちまちでばらつく
・RCTでのINR管理も(Jロケット以外)日本の基準とは違う
・RCT間の差は軽微
・それより患者の価値と各薬剤の強みを重視したい
・また薬剤動態も重視する。
・血中濃度が測定できればよいが

そうですよねえ。というか、このことは実は私前々から主張していたスタンスです。エヘン(笑)。
といばるわけではありませんが、ブログやツイッター、拙著でも、つぶやいていたことではあります。
たとえば
http://dobashin.exblog.jp/18677495/
http://dobashin.exblog.jp/19600208/
しかし、同じことでも山下先生が発信する力は莫大ですね。非常に心強いです。

クリニカルエビデンスは常に危うい、だからそれ以外の要素、患者の世界、医師の専門性、患者の取り巻く状況まで考える。これはEBMの教科書にある基本ですが、NOACの世界では特に痛感します。
みんなNOAC、NOACと言ってますが、まだRCT4つしかないわけです。現実世界を反映しRCTにフィードバックをかける観察研究が極めて少ないです。

山下先生のご指摘通リNOAC間の比較は、それぞれに違うワルファリン群を介しての間接比較ですので、今は各種統計的補正を施しているとはいえ、やはりそれで確固たることが言えるわけではありません。

またよく見かけますが、評価項目の一部だけ比較する、例えば「虚血性脳卒中」だけ比較するのも、あまりおすすめはできません。
まして、サブ解析同士の比較(例えば腎機能別サブ解析)で、こっちの薬はこういう場合には良いよ、というのは、EBM的にご法度のはずです。

薬剤選択では、今一度EBMの基本に立ち返ってこうしたことをゆっくり考えたいところです。つまりNOACの使い分けなど、いまだ弱いエビデンスに基づいた脆弱なものであるということを。
そして、そうした中でも使えるエビデンスは、必ずあるので捨てずに使うようにしたいということを。

最近良く感じるのは、循環器や神経内科専門医の先生は、やはりかなりNOACを使われている。一方開業医は、循環器に詳しい人ほどワルファリンのままでいることが多い。そのまた一方NOAC一辺倒でものすごく使っている先生がいる。その影でまだまだあまり抗凝固療法自体に消極的な先生が、一杯おられる。

こういう状況かとお思われます。私の周辺だけかもしれませんが。

追記:ツイッターで「コストが大切」とご追加いただきました。これも専門医とPC医で意識に温度差があるかもしれません。当院でも「高いから」ワーファリンで良いというからがかなりおられます。
これもアドヒアランスとともに大問題ながらあまり学会や研究会で取り上げられない。コスパ研究もっとほしいですね。

で、そうした診察室内部のコップの外で、適応がありながら処方されていないひとや、無症候性で全く医療機関を受診していない心房細動患者さんがどのくらいかわからないほどおられる。

こういう構図が、いまの心房細動抗凝固療法を取り巻く状況ではないかと密かに考えるわけです。
あくまで私の感じる雰囲気であり、それこそ何のクリニカルエビデンスがあるわけではありません。
ですので、もしご批判的吟味をしていただければ、大変助かります。

で、これからどうするかですが、上記のSDMをこの日本の医療現場でどうやって行くのか、具体的にはやはり薬の情報をどう捉えてどう患者さんに伝え、お互い納得の行く選択ができるかということなんだろうと思います。

そうはいっても患者さんが自分で選ぶことは難しくて、やはり医者にお任せが多いのではと言われたことがあります。そういう意向の患者さんもおられますが、NOACに関してワルファリンも含め4つの薬の特徴を丁寧に説明したあとで、やっぱりわからないからお任せしますという方はかなり少ない印象があります。ARBなどと違い、4つ(今後5つ)それぞれにかなりの個性の差があるからだと思われます。NOACこそはSDMを行うべき、また行い易い薬だろうと思います。

この納得への道が難しいわけですが、まず述べたようにNOACに関する情報の捉え方としてRCTや間接比較、サブ解析のみを重視しない、観察研究も十分注意する姿勢ですね。

そして情報を患者さんとどう共有するか、もっと具体的にいうと患者さんにどういうふうに説明して、こちらの意見を押し付けずに薬を選びやすいようにお話するか、当然患者さんごとに話し方は違います。これは試行錯誤で唯一の答えは存在しないです。

一人ひとりの状況、リスク、理解度を考え、ひとりひとり違う話をする。まあこれこそが臨床であり,
まさに医者の仕事
そのものだと思うのです。

今日は理路非整然で、徒然勝手に書きました。長文にお付き合いいただきありがとうございます。

篠山紀信展をみて(なかなか感動)、それから素晴らしい広瀬川の秋に浸りながら歩いて帰れました。全てに感謝です。

これから気が向きましたら、ここ2ヶ月の共病生活について書いていきたいと思います。
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by dobashinaika | 2014-09-28 22:51 | 心房細動診療:根本原理 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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