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2013年 08月 25日 ( 1 )

アジア太平洋不整脈学会のステートメントにおける各抗凝固薬の推奨度の違い

アジア太平洋不整脈学会(APHRS)のホームページに抗凝固療法に関するステートメントが掲載されています(7月4日掲載)。
http://www.aphrs.asia/news_images/2013_08/APHRS-No.8-final.pdf

日本、韓国、台湾、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド、タイ、マレーシア、インドネシアの9カ国からなるガイドライン作成委員会によるものです。要約いたします。

1)CHA2DS2-VAScスコアが使われるべき
・患者を3群に分ける
CHA2DS2-VAScスコア2点以上、1点、0点
・2点以上は抗凝固療薬(NOADCまたはワーファリン)
・1点はリバーロキサバンを除くNOAC
・0点は無治療
・リバーロキサバンはROCKET-AF試験でCHADS2スコア2点以上のみ対象としていたので、CHA2DS2-VAScスコア2点の場合は代替治療として考える

2)原則としてCHA2DS2-VAScスコア2点以上または1点の患者においてはどのNAOCも使われるべき
・ワーファリンはCHA2DS2-VAScスコア2点以上で処方されうる
・1点に対してはワーファリンは任意である:CHADS2スコア1点に対しては34%の医師がワーファリンが処方されているという調査に基づく
・ワーファリンは以下の患者に使用されるべき
  A. 機械弁、リウマチ性弁膜症症
  B. 適切なINR管理と出血合併症なし
  C. 75歳以上:低用量ダビガトランに置き代わる可能性あり

3)適切なINR
・日本のガイドラインは70歳以上で1.6〜2.6を推奨。
・これはオーストラリア、ニュージーランドを除くアジア太平洋の実情と大きく変わらない
・70歳以上は1.6〜2.6を推奨する
・TTR60% 以上が基本

4)原則として抗血小板薬は推奨しない
・以下の患者は併用可
   A. 抗凝固薬のコンプライアンス良好にもかかわらず血栓塞栓症発症
   B. 非心原性脳梗塞またはTIAの既往があり抗血小板薬が必要な場合
   C. 虚血性心疾患合併
   D. ステント患者

5)出血リスクのある手術や手技の場合
・手術手技前2日間のダビガトラン休止または5日間ワーファリン中止及び翌日からの再開は、ヘパリンブリッジなしであっても血栓塞栓症リスクは低い(0.5%)

6)ワーファリンからNOACへの切り替え
・TTR65%以上であれば、ワーファリンはダビガトラン150mgx2と同等の脳卒中予防効果あり
・ダビガトランは頭蓋内出血リスクは低いが消化管出血はワーファリンの2倍
・ワーファリン管理良好で出血合併症のないケースではワーファリンからNOACに変えなくて良いかもしれない

7)発作性心房細動
・発作性の脳卒中リスクは持続性と同等
・持続性と同様の抗凝固療法が必要

8)待機的除細動時
・国際的ガイドラインでは除細動前3週間、後4週間のワーファリン
・NOACのエビデンスなし
・RELYのサブ解析では、ダビガトラン内服例では除細動後最初の30日間の血栓塞栓症率は低い

9)費用対効果など
・ワーファリンは1日3mgとして、日本円で30円。ダビガトラン、リバーロキサバンは約500円
・これは患者の大きな経済駅負担となる
・コストベネフィット、ワーファリン治療の問題、脳卒中、出血リスクの軽減を考慮して選択せよ
・NOACの中和薬なし。このことに十分留意してほしい

サマリー
アジア太平洋不整脈学会のステートメントにおける各抗凝固薬の推奨度の違い_a0119856_0213010.png


### 大きな特徴は2つかと思います。
1)CHA2DS2-VAScスコアを採用している
2)CHA2DS2-VAScスコアごとにNOACの差別化をしている


これまででたアメリカ、カナダ、ヨーロッパのガイドラインはNOACの差別化はしていませんでした(ACCF/AHA/HRSは発表時期の関係からダビガトランのみ)。リバーロキサバンが1点の場合alternativeとなっているところが目を引きます。

ちょっと気になるのは、「リバーロキサバンではCHADS2スコア2点以上のデータしかない」というのがCHA2DS2-VAScスコアで2点以上では推奨だが1点でalternativeとなった根拠になっているところです。実際はCHADS2スコア1点の場合、CHA2DS2-VAScスコアで1〜4点まで取る可能性があり。CHADS2スコア1点でCHA2DS2-VAScスコア2点以上(例:76歳、女性、血管疾患で他のリスク無し:そういう人は珍しいですが)のひとはROCKET-AFでは組み入れられていないはずです。ちょっと細かいことで申し訳ありません。

NOAC3剤の使い分けですが、折にふれて述べていますが、私は医療行為の意思決定はクリニカルエビデンス、患者の好み、医師の専門性の3要素(場合により社会的制約を入れて4要素)をうまく重み付けしながら患者さんと共通基盤を探ることが肝要と思います。

3つのNOACにはそれぞれ大規模試験があり、いずれもそれぞれ共通の敵ワーファリンを対照群としています。共通の敵を挟むという意味で、多くの間接比較の論文が出ていますし、前日ブログでアップしたCJCのレビューで、その使い分けの実際が細かく記載されています。
http://dobashin.exblog.jp/18380281/

ワーファリンを内服する集団自体の背景が各試験で異なりますので、うかつにはこっちよりこっちがいイイとはいえませんが、それでも使い分けを考えたいという場合には、こうしたレビューはある程度ためになります。

世の中に多製品が存在する薬剤分野は降圧薬、糖尿病薬などなどあまたありますが、少なくともたとえばARBやDPP4阻害薬の使い分けがその薬剤特性でしか考えることができない状況とは異なり、むしろトロンビン阻害とXa阻害という薬剤特性をもとにした優劣は不明ながら、一応共通の敵ワーファリンを介してのエビデンス的な間接比較を想定し得るという意味では、”恵まれている”かもしれません。

とはいえ、それでも現時点では、そうした使い分けは強固なエビデンスに基づくものではなく、「医師の好み」あるいは「スタイル」に近いレベルの選好性しか持ち得ないことは確認しておきたいと思います。
今回のステートメントは、エビデンスに力点をおいたAPHRSの「推奨」ですが、一方患者さんの好み、医者の専門性を加味した場合、やはり直接比較試験がない以上、この2要素を覆すまでのエビデンスとまでは成り得ていないように思われます。

たとえばエビデンス的にあるNOACを推したとしても、患者さんがこちらがいいという場合、または医者がモニタリングや処方方法に慣れていてこちらにしたい場合、そのインセンティブを覆してまでやっぱりこっちを飲みましょうといえるほどに強い比較のエビデンスがあるわけではありません。少なくともワーファリンよりNOAC推しとするインセンティブよりは3NOAC間の推し分け理由は弱い。
今のところ、その程度のスタンスで考えておけばよいのではと思います。もう少しいろいろわかってくるまでは。
by dobashinaika | 2013-08-25 00:30 | 抗凝固療法:比較、使い分け | Comments(0)


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