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2013年 08月 12日 ( 1 )

高齢者における心房細動抗凝固療法に関するまとまったレビュー

高齢者の抗凝固療法について考えをまとめたいと思い、先月から気になっていたLip先生のCirculation Journalのレビューを読み返してみました。
自分の勉強のために要約しますが、ご参考になれば幸いです。

Stroke Prevention With Oral Anticoagulation Therapy in Patients With Atrial Fibrillation 
– Focus on the Elderly –
Circ J 2013; 77: 1380–1388


・心房細動有病率は80歳台の10%、85歳以上の18%
・高齢者では、梗塞と出血の療法が多いことから最適な選択がなされていない
・80歳以上にワルファリンを投与しない理由の1位転倒(41%)、2位出血(28%)
・しかし近年高齢者でも有益であるとの研究が多い
・有効性と安全性の観点から高齢者と若年者の抗凝固療法についての比較研究についてセミレビューする

【結果】
<抗凝固薬の有効性と安全性についての高齢者と若年者の比較試験>
・8研究:6 つの観察研究と2つのRCT
・「高齢者」の定義:75歳以上1試験、75歳超3試験、80歳以上2試験、年齢別4群比較2試験

・4研究で血栓塞栓症の比較:全試験とも高齢者のほうが多い
・SPORTIF II:一次エンドポイントは高齢者のほうが高率(アスピリンに比べてワルファリンの優越性は認められず)
・ATRIA研究;血栓塞栓イベントは高齢者のほど高率。アスピリンの比べてのワーファリンのべネッフィトは85歳以上で最大
ただしATRIAは観察研究でワーファリン処方は現場感覚に基づいており、2群間の特徴にもアンバランスあり

・7研究で大出血イベントの比較:6試験で高齢者のほうが多い:2.5〜9倍

・5研究で頭蓋内出血、致死性出血の比較
・SRORTIF II:75歳以上で優位に出血多い
・Coplandらの研究(少数例):年齢は関係なし
・ATRIA研究(13559人の多数例):高齢者ほど出血明らかに多い
・POliらの研究:80歳以上はそれ以下より有意に多い(脳出血は有意差なし)

<高齢者における抗凝固薬(ワーファリン)の有効性、安全性に関する研究>
・7研究:3観察研究、4RCT
・1研究で2種類のワーファリン用量の研究。他はワーファリンとアスピリンとの比較
・高齢者の定義:62歳(1)、70歳(1)、75歳(3)、80歳(2)

・5研究中4つでワーファリンのほうが2〜12倍、血栓塞栓予防効果あり
・SPORTIF IIは有意差なし。2つの観察研究ではワーファリンが有意に良好
・BAFTA研究:大血管イベント、主要エンドポイント、大出血とも有意にワーファリンが良い

・出血に関する4研究:全研究でワーファリン=アスピリン
・SPORTIF IIのみワーファリン>アスピリン(4.2% vs. 1.6%; P=0.04)
・Pengoら:INR2.0-3.0 vs. 1.5-2.0(75歳以上):出血率同じ
・WASPO研究:複合エンドポイントは有意差なし(n=75)

<高齢者における新規抗凝固薬の研究>
・5つのRCT
・SPORTIF III,V:脳卒中/全身性塞栓及び大出血:年齢にかかわらずキシメガラトラン=ワーファリン
ただし全イベントとも75歳以上でそれ未満より有意に高率

・RE-LY:脳卒中/全身性塞栓および大出血:75歳以上で高率。
 年齢と有効性についての交互作用はなし(P=0.81)
しかし大出血については両用量とも年齢の影響明らか
大出血:75歳未満では両用量ともダビガトランが低い。75歳以上では110で同等、150でダビのほうが出血多い傾向

・AVVEROES:有効性安全性ともアピキサバンのアスピリンに対する優位性は年齢に関わらずあり

・ARISTOTLE:脳卒中/全身性塞栓+大出血:年齢とともに高率。
アピキサバンのワーファリンに対する優位性は年齢に関係なし

・ ROCKET AF:リバーロ群、ワーファリン群とも高齢者ほど脳卒中/全身性塞栓+大出血イベント高率
リバーロとワーファリンの関係に関しての年齢の交互作用なし

【考察】
<高齢者と若年者における血栓塞栓及び大出血イベント>

・両イベントとも高齢者ほど高率
・CHADS2スコア、CHA2DS2-VAScスコア共に年齢が項目となっている
・Hylekらは高齢者は高血圧、心不全、脳卒中の既往といった他の要素をよく併存すると報告
・Poliらは脳卒中の既往のみが有意に高齢者に多いと報告
・BAFTA研究(75歳以上)はワーファリン非服用者では既存のスコアリングの評価では脳塞栓予測は不正確であり、75歳以上は全例高リスクと扱うべきと主張

・多くの研究でワーファリンによる出血は高齢者>若年者
・高齢者の出血率には試験間で格差あり
5試験の高齢者の大出血率は2.5〜5.0%だが、ある観察研究では80歳以上で13.1%
これらの試験のlower rateはどれも同じなので研究のタイプによる違いでは説明不可能
ワーファリンの開始時期を含むかどうか、あるいはアスピリン併用があるかどうか、TTRが良いかどうかの違いによる

・新規抗凝固薬では高齢者群が若年者でワーファリン群より大出血が高率

・HAS-BLED、 HEMORR2HAGES、 ATRIAの各出血スコアとも高齢者を項目に挙げている
・高齢者ほど出血が多いのは、高血圧などの併存リスクが多いことや、NSAID、抗血小板薬の併用、腎機能低下が原因
・Hylekらは高血圧、脳卒中の既往、転倒の既往、腎不全が高齢者の出血が多い要因であると報告

<高齢者におけるワーファリンの臨床的有効性>
・ネットクリニカルベネフィットの観点から見ると、高齢者ほどイベントが多いとはいえ、高齢者も若年者同様、ワーファリンによる脳卒中/全身性塞栓リスク減少の利益はあきらかにある
・いくつかの研究やメタ解析で有効性安全性ともワーファリンがアスピリンに優るとされている(SPORTIFIIはやや違う)
・ATRIA研究では高齢者ほど、ワーファリンのネットクリニカルべネフィットは増加した

・全体としてみると高齢者においてワーファリン治療はネットクリニカルべネフィット陽性
・対する抗血小板療法は高齢者ほどベネフィット低い
・高齢者でINRを低く保つことに関するエビデンスは限定的。INRを2.0未満にすべきでない。TTRを65%以上にすべき

<高齢者における新規抗凝固薬の臨床的有効性>
・食品、薬剤の影響、狭い治療域、モニタリングの必要性と言った問題がないことは高齢者に利する
・3NOACはワーファリンに対し、少なくとも同等の有効性と安全性、そして明らかに低い頭蓋内出血率を有する
・アピキサバン、リバーロキサバンの第3相試験では有効性と年齢との間の交互作用なし(年齢に関係ない)
・ダビガトランの出血イベントは年齢とともに増加認め、USA以外では80歳以上は11mgが推奨されている
・しかし頭蓋内出血は高齢者でもダビガトランのほうが有意に少ない

・臨床家は新規抗凝固薬がまだ潜在性を秘めた不適切な使用を避けるための施策を行うためにワーファリンと同等の注意が必要であることを銘記する必要がある。そのことはクリニカルトライアルと同等に考えられるべき
・患者の選好が熟慮されるべき

【限界】
・各試験で抗凝固療法のレジュメ、高齢者の定義、治療域に入る患者数が異なる
・高齢者においては、認知機能、転倒傾向、ポリファーマシー、複数合併症、TTRなども考慮しないといけない
・各試験管で抗凝固療法以外の治療に時間的スパンの差がある

・ある試験では転倒の既往は出血の予測因子ではないとしている
・マルコフモデルを用いた検討では、ワーファリンによる抗凝固療法の利益は、年間295回の転倒による潜在的な出血に見合うものと試算されている
・出血の定義もいくつかの研究では異なる
・RCTの世界はリアルワールドではない

【結論】
・心房細動の高齢者は若年者に比べ、脳卒中、血栓塞栓症、出血リスクは増加するため、臨床的決断が困難
・しかし高齢とともに抗凝固薬の脳卒中減少効果が認められ、出血リスクは増加しない
・年齢にかかわらずすべての心房細動患者で脳卒中予防治療の意思決定の際は、ひとりひとりの治療のベネフィットとリスク及び患者の選好を十分考えるべき

### 書くのに疲れました(笑)。高齢者であっても出血を恐れず適切に個々の状況を考えて抗凝固療法せよ、という教えです。
エビデンスの詳細な検討から導き出された説得力のあるものです。NOACは腎機能さえクリア出来れば、かなり有望のようです。

ただ、認知症、転倒リスク、ポリファーマシーについて、もうすこし解説が欲しかったようにも思います。80歳以上の方に処方したくても認知症が強い場合、躊躇することも稀ではありません。そこにはエビデンスでくくれないファジー領域があります。

そのレビューではないのでそこまでは要求できませんが、そうしたファジーを合わせて考えたいです。
by dobashinaika | 2013-08-12 23:58 | 抗凝固療法:全般 | Comments(2)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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