人気ブログランキング |

2013年 07月 13日 ( 1 )

バルサルタン問題を契機にアンジオテンシン受容体拮抗薬について復習しました

いま話題となっているアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)をACE阻害薬と比較しながら改めて復習です。
1〜3はUpToDateからの抜粋です。

Renin-angiotensin system inhibition in the treatment of hypertension
Differences between ACE inhibitors and ARBs 
1.高血圧治療におけるレニン・アンジオテンシン系


【ACE阻害薬とARBの違い】
・ACE-iとARBは薬理学上かなり違いがあるが、臨床上の差異はほとんどない
・薬理学的には以下の3つの違いがある
1)アンジオテンシン変換酵素はキニナーゼ。なのでACE-iでこの酵素を阻害するとブラジキニンが増え、キニンレベルが増える。これはARBではみられず。このことが咳の原因となる。ブラジキニンは血管拡張その他ARBにはない作用がある

2)アンジオテンシンIIが減るとACE-iはAT1.AT2両者の効果を低下させる。ARBは前者のみ

3)心、腎、おそらく血管においてアンジオテンシンIIはアンジオテンシン変換酵素以外(キマーゼなど)の酵素により触媒される。この反応で生成されるアンジオテンシンIIの効果はARBで抑制されるがACE-iでは抑制されない

【ARBの効果と用量】
・ARBは単独療法では、他の降圧薬とほぼ同様の効果がある。
・ロサルタンだけは他のARBと同様の降圧効果はない。また尿酸降下作用がある
・降圧効果は概してACE-iとほぼ同様。61試験のメタ解析では降圧効果に差はなし
・心血管イベントについてもACE-iとほぼ同等
ONTARGET試験(テルミサルタンとラミプリル及びその併用の比較)が参考になる
主要エンドポイント:心血管死、心筋梗塞、脳卒中、心不全入院
到達血圧はテルミサルタンがラミプリルより低め
主要エンドポイントに有意差なし
咳はラミプリルで多い。高カリウム、急性腎不全は併用群で多い。
・低用量利尿薬併用または塩分制限で効果が増強される
ACE-i同様利尿薬の副作用である低ナトリウム、低カリウムを低減させる

【副作用】
・一般にARBACE-iとも忍容性に優れる
・咳と血管浮腫はARBで少ない
・妊婦には禁忌

Angiotensin converting enzyme inhibitors and receptor blockers in acute myocardial infarction: Recommendations for use
2.急性心筋梗塞患者のACE-iとARB


【ACE-iとARB比較】
・2つの比較試験あり:心不全または前壁梗塞のうち1つのリスク
・OPTIMAAL試験:ロサルタンに比べ、カプトプリルは死亡率減少傾向あり:relative risk 0.88, 95% CI 0.78-1.01
・VALIANT試験:有意差なし
・ACE-iが飲めない患者に対してARBが勧められる

###心筋梗塞二次予防に関しては日本循環器学会の「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011 年改訂版)」の記載を改めてコピペします
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_ogawah_h.pdf
ARB
クラスI
ACE 阻害剤に不耐例で,心不全徴候を有するか左心 室駆出分画が 40%以下の心筋梗塞例に急性期から投 与する. (エビデンス A)
“2010 年 8 月末時点で,心筋梗塞発症予防における確立 したエビデンスを有し,かつ「降圧を超えた心保護効果 を有する」ACE 阻害薬に対し,優先して積極的に ARB を使用する根拠は乏しい.このことから日本人における ACE 阻害薬での比較的高い副作用発現率を考慮したと しても,心筋梗塞の二次予防目的における RA 系阻害薬 の第一選択は ACE 阻害薬であると考えられる.したが って本ガイドラインでは,前回とは異なり心筋梗塞にお ける二次予防ではクラスIの適応として,「ARB の使用 は ACE 阻害剤に対する認容性がない場合に限られる」 とした.また ARB と ACE 阻害薬との併用は腎機能に及 ぼす影響を考え,慎重に行うべきではあるが,左心室収 縮機能不全例では予後を改善する可能性がありガイドラ インに採用した.繰り返しになるが,ACE 阻害薬と ARB は似て非なる薬剤である.ともすれば ARB は「咳の少ない ACE 阻害 薬」とも考えられがちであるが,心血管イベント予防に おいてそれは明らかに誤りである.それぞれの薬剤の薬 理作用,大規模臨床試験の結果,使用予定症例の病態を 正確に把握し,両薬剤の使い分けを行うことが重要であ る.

Angiotensin II receptor blockers in heart failure due to systolic dysfunction: Therapeutic use
3.心不全(収縮障害)に対するARB


【ACE-iとの比較】
・ACE-iは心不全患者の予後を改善する
・ACE-iとARBは異なるメカニズムを持つ薬だが、心不全患者の臨床的効果はほぼ同等
・2012年のコクランレビュー
LVEF40%未満患者対象のACE-iとARBの比較ではアウトカムは同等
点推定においてはACE-iのほうがやや優位:(RR 1.05; 95% CI 0.91-1.22)
心不全患者の心筋梗塞、入院、脳卒中においては有意差なし
副作用による服薬中止はARBのほうが有意に少ない
プラセボとの比較ではARBはぎりぎり優位(RR 0.87, 95% CI, 0.76-1.0)。こうした結果ACE-iでは見られない(ACE−iはもっと良い)

【筆者らの推奨】
・心不全患者のARBは、ACE-iが服用困難者(腎機能低下、高カリウム以外)に推奨される

4.心房細動とACE-i、ARB

これは拙ブログを参考願います。
http://dobashin.exblog.jp/12337052/
現時点でACE-i.ARBが心房細動新規発症予防及び二次予防に関しての有効性は認められないというのがコンセンサスでしょう。

###以上まとめますと
1.降圧薬としてのARBは忍容性が高く、よく使われている。しかし臨床的効果はACE-i=ARB
2.心筋梗塞二次予防についてはACE-i>ARB
3.心不全予防についてはACE-i>/=ARB
4.心房細動予防についてはどちらも効果なし

ACE-iとARBは、似て非なる薬ですので単純に比較すること自体意味があるかどうかわかりませんが、少なくともこうして見ると現在、日本で処方されている患者さんのうち少なくない例においてARBはACE阻害薬で代用できるものと思われます。たとえば心筋梗塞後の方に第一選択でARBを処方する医師はかなりいるのではないでしょうか?この機会に再考したいものです。
by dobashinaika | 2013-07-13 18:55 | 循環器疾患その他 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

プロフィールを見る
画像一覧
更新通知を受け取る

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学・リスク因子
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールドデータ
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
未分類

タグ

(40)
(39)
(35)
(27)
(27)
(27)
(25)
(24)
(21)
(21)
(20)
(19)
(18)
(16)
(15)
(14)
(13)
(13)
(13)
(13)

ブログパーツ

ライフログ

著作

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法


プライマリ・ケア医のための心房細動入門

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく)


健康格差社会への処方箋


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書)

最新の記事

2020 年改訂版 不整脈薬..
at 2020-03-14 18:00
DOACの利益に関する低満足..
at 2020-03-05 07:24
日本における心房細動患者の脳..
at 2020-03-03 07:33
日本のNOAC/DOAC登録..
at 2020-03-02 07:21
アジア人のNOAC不適切低用..
at 2020-02-17 07:07
長期ケア施設入所者における抗..
at 2020-02-06 06:58
2019年心房細動関連論文ベ..
at 2020-01-20 08:18
2019年心房細動関連論文ベ..
at 2020-01-11 18:52
アルコール常用者の禁酒は心房..
at 2020-01-10 07:28
心房細動な日々 dobas..
at 2020-01-09 08:49

検索

記事ランキング

最新のコメント

いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
取り上げていただきありが..
by 大塚俊哉 at 09:53
> 11さん ありがと..
by dobashinaika at 03:12
「とつぜんし」が・・・・..
by 11 at 07:29
> 山川玲子さん 山川..
by dobashinaika at 23:14
運慶展を観た方にWEB小..
by omachi at 19:45
> terryさん ご..
by dobashinaika at 08:38
簡潔なまとめ、有り難うご..
by 櫻井啓一郎 at 23:16
いつも大変勉強になります..
by n kagiyama at 14:39

以前の記事

2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン