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2013年 05月 02日 ( 1 )

プライマリケア医の臨床研究 いつやるか?今でしょ!:医学界新聞(5月6日号)を読んで

5月6日付けの週刊医学界新聞の座談会「いつやるか? “今”でしょ! プライマリ・ケア医への臨床研究のススメ」は大変刺激になりました.(医学書院のサイトへは5月6日にアップされるようです)

プライマリケアの現場でも、というかプライマリケアだからこそ、湧き出てくる臨床上の疑問というのは当然ながらある訳ですが、かならずしもそれに答えてくれるエビデンスがそろっている訳では全然ないです.

たとえば私が関わっている心房細動の抗凝固療法でも、病院勤務医だった頃は、患者さんは月1回の予約となっていて、たとえば腕に青あざ(内出血)が大きく出たとしても、いつでも受診できる開業医よりは受診に対する敷居は病院の方が高いと思われます.そうしたことが、ワーファリンコントロールや出血リスクにどう影響を与えるのだろう、なんて開業したての頃考えたものです.

あるいは、病院勤務とプライマリケアで違う点として、受付事務員や看護師の関与があります.長く開業医にかかっていると、事務員も看護師も顔見知りになっていて、受付のときや、採血のときの世間話を楽しみに来られる人も少なくありません.そうした医師以外のスタッフとのコミュニケーションからたとえば服薬アドヒアランスの低下がわかったり、ご家族内の情報などから血圧上昇の理由がわかったりすることがあります。それが臨床上のアウトカムにまで影響するのだろうか、というふうに考えると、コメディカルの何気ない日常業務が俄然意味や輝きを帯びてくるように思われます。

このような日々の診療から湧き出る、そしてプライマリケアならではの疑問について、それをリサーチという形に結びつけるには、開業医のソロプラクティスではあまりに脆弱でとてもインパクトの高い論文までの成果が望めないのが実情でした(少なくとも私の実感では).まずソロプラクティスでは症例数が少ない.なかなか論文化するのにまとまったnをかせげません。またリサーチデザインや結果のピアレビューもありませんし、なによりリサーチを遂行して行く時間もマンパワーもありません.

私も、上記のような疑問を解決したいと考え、「患者さんの解釈モデルを聞くことが心房細動診療のアウトカム改善につながるか」というリサーチクエスチョンを立て、一応論文まで書きました。本当はここから質的研究などにつなげて行きたいのですが、なかなか時間的人的制約があり、思うように行きませんが.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jse/31/2/31_2_127/_article/-char/ja/

病院勤務医時代ですと、ある疾患に特化してのデータはむしろ大学病院などより取りやすく、またある程度のマンパワーもありましたので、臨床研究は(私の場合)くみしやすかったと思います.学位も心房細動に関する臨床研究で取ったりもしました.こうしたリサーチに適した環境をプライマリケア現場で一人で維持するのはかなりの困難があると思います.

この座談会で紹介されている藤沼康樹先生のCFMD(医療福祉生協家庭医療学開発センター)で立ち上げられたPBRN(Practice Based Research Network)にみられるような、ネットワーク構築がまさしく必要な訳です.
このネットワークをモデルケースとして全国のプライマリケア医が各地で島宇宙のようなネットワークを形成しながら実践的エビデンスを積み上げて行くような状況ができれば素敵だ、と一人わくわくしてしまいました.

自分が携わった、一人一人の顔やご家族まで思い出すことのできる患者さんの直接のデータを用いて、なにがしかのことがわかって行く感覚は、なかなかに得がたく、論文としてまとまったときの達成感は勤務医時代の比ではなかったように思います。そうした成果や、専門医とは違ったプライマリケア医としての視点を医師会の勉強会などで紹介することにしていますが、同じプライマリケア医どうし、あるいは専門医の先生とも視点を共有することで、あらたな臨床上の疑問が生じ、リサーチにつながることもあります。

プライマリケアでのリサーチクエスチョンは、必ずしもアウトカム志向でなくても良いように思います.たとえば、上記のように、採血のときの世間話が血圧管理に一役買った、などというアウトカムは期待しない方が良いかもしれません.そうでなくて、そうした世間話を患者さんがどう思ったのか、どう感じたのか、医師に対する話しとはとどんなところが違うのか、一緒についていらしたご家族はそうした話しをどう思っているのか、などなどのことは生物学的アウトカムとは関係ない、でも私としては知っておきたい気がします.

そうした問いのリサーチはやはり質的研究の手法が大切になると思います.
この座談会にインスパイヤされましたので、老化したリサーチマインドにむち打って、ちょっとまたいろいろやりたいなと思い始めた次第です.
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by dobashinaika | 2013-05-02 00:35 | EBM | Comments(2)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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