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2012年 05月 24日 ( 1 )

東アジアにおける抗血栓療法についての総説

Thrombosis and Haemostasis 4月26日早期公開版より

Current antithrombotic treatment in East Asia: Some perspectives on anticoagulation and antiplatelet therapy
http://dx.doi.org/10.1160/TH11-04-0214


北京の医科大学の先生による東アジアにおける抗血栓療法の総説です。抗凝固療法のところのみ要約します。

・抗血栓療法は東アジアでも普及してきているが臨床データは限定的で発症率、有病率、薬物の有効用量も欧米とは異なる。

【東アジアにおける心房細動関連血栓塞栓と抗凝固療法】
・アジア人の年齢補正後心房細動有病率は欧米人より低い
・中国、日本、韓国、シンガポールの有病率は0.56〜1.6%
・しかし脳卒中リスクは5〜6倍高い(という報告もある;小田倉注)
・アジアでは欧米ほど非弁膜症性心房細動(NVAF)への抗凝固療法は普及していない。これは出血リスクのため。
・ワーファリン関連頭蓋内出血はアジアでは1.75/100人年で欧米人(034)より高い
・アスピリンがワーファリンの代用となりうるかについては論議の的
・出血リスク評価の点ではEHRAのコンセンサスドキュメントが良い参照

・アスピリンがワーファリンより劣ることは驚くに値しない
・日本のRCTでは871人のNVAFではアスピリン群が無投薬群より有意である可能性が低く、試験が中止となった。一次エンドポイントは同等で出血はアスピリン群がやや多かった(JAST研究:小田倉注)
・アスピリンvsワーファリンの中国でのRCTでは19ヶ月追跡で、アスピリン群はワーファリン群よ死亡、脳梗塞が有意に高かった

・アジアでは欧米より頭蓋内出血が多いので、ワーファリン強度を低くしての試験が施行されている
・日本の二次予防目的のRCTではINR1.5-2.1の群がINR2.2-3.5の群より安全で効果減弱なし
・アジアの専門家の間で論議はあるものの、臨床の場ではINR1.6-2.6が目標値として常に設定されている
・中国の小規模割付研究では、INR2.0-3.0が中等度〜高リスク患者では有効かつ安全であった

・アジアのガイドライン(日本、中国)では、ワーファリンが推奨されているが、処方率にはバラつきあり
・日本の小規模試験では、85歳以上で36%、75〜84歳で61%のワーファリン処方率
・一方中国では2004年データで2.7%。今日でさえ10%を超えていない
・このギャップ解消が中国の重要課題であり現在進行中
・日本のJ〜TRACE研究では心房細動の31%にアスピリンが処方されていた:このことは世界的登録研究での流れと同一
・アジアにおいては冠動脈ステント例での抗血栓療法に関するデーは少ない→北米でのコンセンサスドキュメントが参考になる

・新規抗凝固薬の大規模試験でのアジア人データは世界データに比べても一貫性がある
・しかしながら、まだそのデータは不十分。とくにワーファリンナイーブ患者において
・加えて高価であることが重大な障壁

### 抗凝固療法がアジアで、欧米ほど普及していないことは最近のAmerican Heart Jourrnalの論文でも指摘されています。同論文では心房細動合併心不全患者に対する抗凝固療法施行率はオーストラリアで65.2%にたいし、台湾では25.1%でした。

アジア人は出血が多い、大規模試験がなされていない、が2大理由かと思います。

新規抗凝固薬のアジア人データは限定的ではあれ、確かに他の人種との間で大きな相違はありませんでした。しかしながら高価であることが著者も指摘しているように特に中国などでは問題となると思われます。

RELY試験でもワーファリンに比べダビガトランは大出血が少ないとされましたが、あれはINR2〜3のコントロール下ですので、1.6〜2.6の管理下だとそれほど差がつかないのではなかったかと個人的には思っています。

とにかく特に日本発の大規模試験が困難であることがなんとも歯がゆいです。登録研究も北欧のすごいデータに圧倒され続けていますし。。。中国などもその特性からか、最近大規模データが次々出てきていますし。。。。

そういう意味では日本のJAST研究はすごいと思います。「心房細動患者でアスピリンにダメ出し」というのはいまや(専門家では)超常識なわけで、これだけのインパクトを現場に与えた日本の研究は、他分野まで広く見回してもあまりないのではないかと思います。
by dobashinaika | 2012-05-24 23:06 | 抗凝固療法:リアルワールドデータ | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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