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2012年 02月 05日 ( 1 )

プラザキサを処方する際の腎機能評価の落とし穴

プラザキサは80%が腎排泄であり、腎機能により投与禁忌や投与量が規定されています。
腎機能の評価指標としては、薬物動態シミュレーション並びにRE-LY試験において用いられているように、現在国際的に薬剤投与時の腎機能はクレアチニンクリアランス (CCr)で行われています。

一方、近年慢性腎臓病 (CKD)の概念が実臨床においてよく浸透し、プライマリケア医から専門医に至るまで、CKDのステージ分類にも採用されている推算糸球体濾過量 (eGFR)が現場ではよく用いられています。実際開業医が外部の検査会社に腎機能をオーダーすると、自動的にeGFRの記載が付記されていることが多く、これを日々注意している医師も多いと思われます。

その点、CCrは、24時間蓄尿から正式に測定しているプライマリケア医はほとんどおらず、おもに換算表やネット上からダウンロードした換算差ソフトを用いてCockcraft-Gault計算式換算から算定している医師が大多数かと思われます。

さて、ここで、CCrとeGFRの元々の計算式をもう一度眺めてみましょう。

クレアチニンクリアランス:CCr (Cockcroft-Gaultの計算式)

男性:Ccr = {(140-年齢)×体重(kg)}/{72×血清クレアチニン値(mg/dL)}
女性:Ccr = 0.85×{(140-年齢)×体重(kg)}/{72×血清クレアチニン値(mg/dL)}

eGFR計算式(日本人のGFR推算式)

男性 eGFR(mL/分/1.73 m2)=194×(血清クレアチニン)-1.094×年齢-0.287
女性 eGFR(mL/分/1.73 m2)=男性×0.739

これを見てわかるように、CCrは年齢、体重、血清クレアチニン、性別、の4つの要素が必要であるのに対し、eGFRは年齢、血清クレアチニン、性別の3つであり、体重は考慮しなくて良いことになっています。これは単位を見ればわかるように、eGFRが日本人の平均体表面積である1.73 m2ですでに補正されているためです(後述のようにここが実は注意すべき点です)。

私自身は、例のブルーレターが出る前は換算表を見るのが面倒なので、主に検査会社から来るeGFRをみて(電子カルテに自動的に入るので目につきやすい)、それを0.719で割り算しCCrを大雑把に求めていました。というのは、当初メーカーの方の推奨で、CCrに日本腎臓病学会ガイドライン記載の係数0.719をかけてeGFRに換算できると考えていたからです。まあだいたいたとえばeGFRで30くらいならCCrはもっと高い値なので心配ないくらいに思っていた時期もありました。
しかし、この「CCrのほうがeGFRより値が大きい」との固定観念はたいへん大きな間違いの元になるのです!!

先日のある座談会で東邦大学医療センター大森病院循環器内科教授、池田隆徳先生が注意喚起されていた実例をご紹介させて頂きます。
(池田隆徳先生には、大変重要な点を教えていただきありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。)

例)70歳、女性、体重38kg、血清クレアチニン1.1mg/dl
このかたのCCrは上記式から28.5です。一方eGFRはたとえば以下のサイトのソフトで計算させますと38となります。ここではCCrがGFRより小さい値になっています!そしてこの症例はプラザキサ禁忌となります。
もう一度Cockcroft-Gaultの計算式を見てみましょう。年齢が引き算されて体重がかけられており、高齢で体重が軽い人ほど値が低くなる式なのです。
一方eGFRを考えますと、体表面積を一律に1.73 m2として補正した数値ですので(注参照)、それより体格がかなり大きいまたは小さい人の場合、実測GFRを正確に反映していない可能性があります。

このようにしてみた場合、体格の小さい人程CCrのほうがeGFRより低くなっていく傾向があると言うことになります。
最近ではメーカーの方もCCrとeGFRの換算式は用いないようにと啓発されているはずです。

もともと以下の週刊医学界新聞の記事や日本腎臓病学会ガイドラインで推奨されていますように、eGFRは低腎機能をスクリーニングするための指標であり、個別の患者の腎機能評価にはCCrを用いることが大切とされています。

実際は、尿細管からのクレアチニン分泌を考えるとeGFRよりCCrのほうが原理的に考えれば、大きい値を取ると言えるかもしれません。
しかしながら添付文書も大規模試験も薬物動態シミュレーションも、CCrに則っている以上これを使わざるをえないのが実情かと思われます。

さて、そうとはいえ実臨床では、まだまだCCrの浸透度は低いものと思われます。先日ある開業医向けの講演会を企画された、仙台市内の専門医の先生が取られた開業医向けアンケートでは、23名の回答者のうち、腎機能の評価に何を使うかとの問いに対し、血清クレアチニンが59%、eGFR36%が、CCrはなんと5%という数字だったとのことです。ちなみに回答者の73%がプラザキサ使用経験者です。

CCrについて今一度再確認が必要かと思われます。
なおCCrの計算は以下のサイトなどが参考になりますし、アプリも多数出ています。また日本ベーリンガーインゲルハイムさんから推定スケール(計算尺)もいただくことが可能です。

注)初回upでeGFRの記載についてわかりにくい点がありましたので、記載を一部訂正しております。以下の日本腎臓病学会ガイドラインや追加した同学会のGFRに関する報告書を参照してください。後者報告書によると以前は日本人平均値体表面積は1.48とされていたが、過小すぎるため国際基準の1.73が採用されたとのことです。

CCr換算サイト
http://www7a.biglobe.ne.jp/aijinkyo/gfr.htm

日本腎臓病学会ガイドライン
http://www.jsn.or.jp/ckd/pdf/CKD01.pdf

週刊医学界新聞第2919号
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02919_03

追加)日本腎臓病学会腎機能(GFR)・尿蛋白測定委員会報告書:体表面補正についての詳記あり
http://www.jsn.or.jp/jsn_new/iryou/kaiin/free/primers/pdf/43_1.pdf
by dobashinaika | 2012-02-05 23:27 | 抗凝固療法:ダビガトラン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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