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2012年 01月 30日 ( 1 )

多剤常用薬服用者へのプラザキサ処方の意味:むしろわれわれの処方全体を見つめ直す良い機会ととらえたい

今日は、先日当院に通院されている患者さんで実際にあったことを報告してみます。

Pさんは永続性心房細動で、それまでワーファリンを服薬されていましたが、納豆が食べたいとのことでプラザキサの服薬を希望されました。
腎機能その他問題なかったのですが、70歳でしたので110㎎1日2回を処方しました。
ところが2週間後の外来で、やっぱりワーファリンに戻してほしいとおっしゃいました。理由は「高い」からでした。

Pさんは高血圧でA社のアンジオテンシン受容体拮抗薬、B社のカルシウム拮抗薬、脂質異常症でC社のスタチン、その他に高尿酸血症でD社のアロプリノールを飲んでいます。
その他に心房細動のレートコントロールのためにE社のβ遮断薬も服用中です。そしてこれまでワーファリン1日3〜3.5mgを服用していました。

Pさんの1ヶ月の薬剤費を計算してみます。
アンジオテンシン受容体拮抗薬1日1錠:125.30x30=3759円
カルシウム拮抗薬1日1錠(ジェネリック):43.2x30=1296円(正規品の場合:64x30=1920円)
スタチン1日1錠:76.4x30=2292円
アロプリノール1日200mg(ジェネリック):23.4x2x30=1404円(正規品の場合:54x30=1620円)
β遮断薬1日1回(ジェネリック):65.1x30=1953円(正規品の場合:140.6x30=4218円)
ワーファリン1日3mg:9.6x30=288円
合計=10992円(すべて正規品だった場合:14097円)
Pさんは3割負担ですので毎月薬局で3298円(正規品だった場合:4229円)も支払っています。

さて、ここでワーファリンをプラザキサに変更してみた場合を試算してみます。
プラザキサ110mgは1錠232.7円ですので、1日2錠1ヶ月で13962円、3割負担の場合の自己負担は4189円となります。ワーファリン分の288円を差し引いてもこれまでより3901円支出が多くなります。ここで増加分は、なんとこれまで服用していた5種類の薬の合計自己負担額より多いことがわかります。さらにPさんの月々の窓口支払は7199円となり、これまでの2倍以上になってしまったのです。もしPさんが70歳未満で150mg1日2回服用が適切だった場合は一月4486円増ですので、月々7766円、これまでの3298円に比べさらにかなり多額となります。

心房細動患者さんは、当然のことながら多くの場合心房細動だけを持っているわけではありません。たとえば日本の代表的登録研究J-RHYTHM Registryでは心房細動患者の合併症として高血圧59%、糖尿病18.2%、冠動脈疾患10.1%、弁膜症13.7%、脳梗塞の既往14.0%となっています。またアンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬は全体の52.9%、スタチンは24.1%に投与されていました。

Pさんは服用していませんでしたが、プライマリーケアにおいては上記の他に例えば糖尿病や骨粗鬆症、逆流性食道炎、便秘薬、消化薬、貼付剤などなど様々な薬剤を複合的に飲んでいる方が大多数です。かりに糖尿病のαーGIや逆流性食道炎のプロトンポンプ阻害剤、骨粗鬆症のアレンドロネートのような薬価の高い薬がさらに処方されていた場合(そういうかたも多いのですが)、3割負担での窓口負担は優に5000円を超えてしまう方も少なくありません。

そのような生活習慣病を多く抱える通院者に、さらにプラザキサを処方するということは、月々3000〜5000円の自己負担に4000円弱(110mgx2の場合)または4500円弱(150mgx2の場合)が上乗せされ、薬剤にかかるお金が一月7000円〜10000円(一割負担の方で2100円〜3300円)に登ることを意味するのです。これはやはり考えなければならない問題ではないでしょうか?

私は、Pさんのような生活習慣病多剤併用者の薬剤については、1)ご希望により信頼のおける会社のジェネリックを用いること 2)なるべくアンジオテンシン受容体拮抗薬よりは安価なアンジオテンシン変換酵素阻害薬を使うこと 3)スタチンの適応を厳密に考えること 4)場合によってはβ遮断薬のみならずベラパミルなどの適応も視野に入れること、などを心がけるようにしています。
またなにより大切な事は、こうした薬価を処方前に患者さんにお話しして、特に3割負担の方には十分その支払額を了承していただいてから処方することです。ただしPさんの場合は、そうした説明で一時ご納得いただいたにも関わらず、実際薬局で支払ってみて額の大きさを実感され、次の受診の際ワーファリン再処方を依頼されたのでした。

お金の話ばかりになってしまいましたが、このような薬価の問題は決して製薬会社主催の講演会や学会では語られないことであるにもかかわらず、我々のようなプライマリケアの現場では極めて重要な問題であるだけに、書かずにいられませんでした。
もちろん、プラザキサの特徴は導入維持の簡便さにありますので、これまで脳塞栓症になってしまっていたような本来適応のある方を救い、ひいては医療経済に寄与するという大きな効用があり、長期的な視点にたった医療経済学的研究(日本の)の登場を待つまでは、薬価が高いことのみを批判することは早計です。しかしたとえばワーファリンコントロールが順調である患者さんに、月々288円だったワーファリンをわざわざ4000円某を上乗せして変更する必要があるのかは、この際熟慮する必要が有るのではと思うのです。特に上記のようなアンジオテンシン受容体拮抗薬、スタチン、αーGI、β遮断薬徐放剤、ビスホスホネート、PPIと言った”高価”な薬を沢山併用している方には、他の代替薬はないか、ジェネリックはないか、本当に適応はあるのか、といったことをむしろ考え直す機会としてプラザキサ処方を捉えたい気がいたします。
by dobashinaika | 2012-01-30 23:18 | 抗凝固療法:ダビガトラン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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