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2011年 12月 29日 ( 1 )

2011年心房細動関連論文ベスト5

恒例の(といっても昨年から2回目ですが)「今年の心房細動関連論文ベスト5」をお届けいたします。今年1年自分でもよくやるよという感じで、論文をこつこつと紹介してきました。全紹介論文数は201でそのうち心房細動関連が177論文です。

ベスト10だと選ぶのに大変なのでベスト5くらいがいいところかと思って選びました。
「ベスト論文」の選択基準は学問的意義や社会的インパクトではなく、あくまで「自分の診療において行動変容が促されたか」です。臨床家にとってはこの基準しかありませんので。

第1位:Living With Atrial Fibrillation: A Qualitative Study Journal of Cardiovascular Nursing2011 - Volume 26 - Issue 4 - pp 336-34
心房細動とともに生きる:心房細動の質的研究”
心房細動患者が持っている内的世界をカテゴライズした大変意味ある研究だと思います。ここで示された7項目、すなわち症状の意味、わからない(支えがない)という感覚、転換点、心房細動の操縦法、予測不能症状の管理、精神的苦痛、治療への希望、は患者さんと向き合う上で心がけるべきポイントだと思います。このような質的研究がますます発展するといいですね。
この論文を読んでからの私のモットーは ”Linving with atrial fibrillation and the family doctor"と患者さんに思ってもらえるようにすることですね。

心房細動の質的研究や意思決定についての関連論文は以下
http://dobashin.exblog.jp/13885413/
http://dobashin.exblog.jp/12147982/
http://dobashin.exblog.jp/14271851/
http://dobashin.exblog.jp/13549668/
http://dobashin.exblog.jp/13353992/

第2位:”8月12日の変:日本循環器学会による「心房細動における抗血栓療法に関するステートメント」日本ベーリンガーインゲルハイム社からの「安全性速報」厚生労働省からのプレスリリース「血液凝固阻止剤「プラザキサカプセル」服用患者での 重篤な出血に関する注意喚起について」”
今年、これを挙げないわけにはいかないでしょう。勝手に「8月12日の変」と名付けましたが、まさにこの日から新規抗凝固薬に対する社会の目、製薬会社の方針、専門家の姿勢が一変した感があります。この日以降、メーカー側からは文書や講演会等で慎重投与、適正投与が勧告され、われわれも年齢、腎機能その他にかなりの注意を払ってダビガトランを処方するように変わったと思います。
現時点で大局に立ってみますと、むしろあまりの慎重投与の推奨に正直現場は戸惑っているという感じではないかと思うのです。過渡期の現象とはいえ頼るべきものがない、なんとも落ち着かない感じを多くのプライマリケア医が抱いているのではないかと思われます。どんどん専門医の経験知を集積して現場に還元する必要性を感じます。

第3位:http://wirelesswire.jp/Watching_World/201110201530.html
”スマートフォンのビデオカメラ機能で心房細動を診断するアプリの開発”
CHADS2スコア1点以下への処方も積極的に行われるようになった状況のあとに訪れるのは、「心房細動探し」かもしれません。脳塞栓患者の多くに無症候性心房細動のため抗凝固療法が施行されていない例が含まれると考えられており、今後、そうした層への介入が課題となるものと思われます。ただしこうした介入は、全く自覚症状のない人をリスクのある抗凝固療法へと巻き込むことになるため、慎重な評価と適応が要求されると思われます。少なくとも降圧薬の適応範囲を広げるような形での展開になはらないでしょうし、なるべきでもないと思います。

以下の関連論文を参照ください
http://dobashin.exblog.jp/13144841/
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022510X11002218


第4位:Risks of thromboembolism and bleeding with thromboprophylaxis in patients with atrial fibrillation: A net clinical benefit analysis using a ‘real world’ nationwide cohort study
Thromb Haemost 2011; 106: 739-749

”リアルワールドにおけるワーファリンのNet clinical benefit"
CHADS2スコア、CHA2DS2-VAScスコア、HAS-BLEDスコアごとにワーファリンの塞栓ベネフィットと出血リスクを13万人もの大規模コホートで比較した検討です。ここではCHADS2スコア1点でもベネフィットがリスクを上回ることが示されています。日本のデータが待たれます。

関連論文は定番のSinger論文と、仙台の広南病院からの論文

第5位:Warfarin Dose Assessment Every 4 Weeks Versus Every 12 Weeks in Patients With Stable International Normalized Ratios A Randomized Trial
Ann Intern Med. 2011;155:653-659.

”ワーファリン管理は4週ごとと12週ごとでアウトカムに有意差なし”
選択バイアスはありますが、今後のワーファリン管理に一石を投じる論文かと思い選びました。実際には専門医でも2~3ヶ月に1回にしている施設もあり、開業医の先生の中には半年に1回くらいの施設も存在するのが現状ではないでしょうか。TTRと、施設ごとのこのような解析がもっと蓄積されると、少なくとも「採血の手間」による処方控えは減るかもしれません。


###この他にも印象に残った論文はたくさんありますが、キリがありません。一応次点として以下を挙げておきます
Am Coll Cardiol, 2011; 57:831-838 MRIで心房の線維化を可視化した検討
BMJ 2011;342:d3653 高齢者にはCHADS2スコアは適応困難であるとする報告
Circulation Journal Vol. 75 (2011) , No. 9 2087-2094 日本におけるワーファリンコントロール状況の報告
Age Ageing (2011) 40 (6): 675-683. 医療者にワーファリンを躊躇させる因子
BMJ 2011;342:d3653 80歳以上でもワーファリン管理が適切なら出血は少ないことを示した報告
Circulation Journal Vol. 75 (2011) , No. 11 2598-2604 日本人の心房細動関連イベントの現状を示したJ-TRACE研究

また業界的、社会的インパクトが高い論文としてはやはり以下が挙げられますが、いずれもまだ自分の診療行為に影響をきたすほどではありません。しかしいずれも超重要論文であり来年になれば確実に意識せざるを得ないと思われます。
J-RHYTHM Registry
ROCKET-AF
ARISTOTOLE

昨年ベスト5を選んだときの結びで「来年は新規抗凝固薬が日本に上陸し、新凝固療法元年になると思われますが、ツールは変わるものの、心房細動治療の根本原理まで変わることはないでしょう。」と書きました、自分で言うのも恐縮ですが、今考えても正しい認識だったと思います(笑)。そして来年もこの認識は変わらないどころかますます堅持しなければならない状況になって行くものと思われます。ベネフィット、リスク、そしてコスト(心理社会的コストも含む)、関係性、これらをキーワードに、またこつこつブログを更新していきたいと思います。
by dobashinaika | 2011-12-29 10:54 | 心房細動:疫学・リスク因子 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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