2011年 11月 28日 ( 2 )

不整脈に対するカテーテルアブレーションの合併症頻度と予測因子:Heart Rhythmより

Heart Rhythm11月号より

Incidence and predictors of major complications from contemporary catheter ablation to treat cardiac arrhythmias
(Heart Rhythm 2011;8:1661–1666)


高名なStevenson先生のグループにおけるカテーテルアブレーションの合併症に関する前向き研究

方法:Brigham and Women’s Hospital(ボストン)における2年強(2009-2011)のカテーテルアブレーション症例連続1676例を対象に、カテーテルアブレーション当日および術後30日間の合併症につき評価

結果:
1)不整脈タイプ別合併症;上室頻拍0.8%。特発性心室頻拍3.4%、心房細動5.2%、器質的心疾患に伴う心室頻拍6.0%
2)上室頻拍をレファレンスにしたときのオッズ比は心房細動5.53、器質的心疾患を伴う心室頻拍8.61、特発性心室頻拍5.93
3)血清クレアチニン1.5超のそれ以下に対するオッズ比は2.48
4)年齢、性別、BMI、INR、高血圧、糖尿病、冠動脈疾患、脳血管疾患の既往は予測因子になりえず

結論:大規模前向きコホートでの、現代におけるカテーテルアブレーションのメジャーな合併症は0.8%~6.0%でアブレーション対象不整脈により違う。対象不整脈と腎不全は合併症の独立した予測因子。

その他の知見:
1)合併症の55%は当日でその31.1%は術中
2)死亡は2例0.1%。うち1例は心房細動で心房中隔瘤に血栓が付いていたもの。もう1例は虚血性心筋症で緊急のVTアブレーション中に後腹膜出血をきたした例
3)最多合併症は大腿動脈穿刺部トラブル1.4%。心のう液貯留1.3%(タンポナーデ1.3%)。これらは上室頻拍アブレーションではほとんどゼロ
4)心房細動アブでの穿孔例14例は全例経皮的ドレナージで改善。一方心室頻拍アブでの穿孔4例は全例手術ドレナージ
5)血栓塞栓症は11例0.7%。心房細動例で有意に多い。うち3例はカテ室離室後。出血は2例
6)その他:誤飲性肺炎3例、尿カテーテルトラブル1例、ペースメーカーが必要な伝導異常1例
7)完全房室ブロックなし。肺静脈狭窄、心房食道ろうなし

###現時点でのアメリカ最先端施設での合併症データです。同施設は器質的心疾患の伴う心室頻拍のアブレーションが全体の14.9%と比較的多く、この点は考慮すべきかもしれません。死亡例2例は特殊ケースであり、心配な心タンポナーデは心房細動アブでも0.9%と低率で全例体表からの穿刺で軽快しています。

こうしたデータとアブレーションを受けることのベネフィットをどう考えるか。個々人のリスク認知に依存しますが、私見としては、上室頻拍及び心房細動に関して言えば、これまでの報告等に比べ合併症は少なく安全という印象です。
by dobashinaika | 2011-11-28 19:09 | 心房細動:アブレーション | Comments(0)

CHADS2スコア1点の人にワーファリンを投与すべきか?(再考)

Thrombosis and Haemostasis10月号より

Risks of thromboembolism and bleeding with thromboprophylaxis in patients with atrial fibrillation: A net clinical benefit analysis using a ‘real world’ nationwide cohort study
Thromb Haemost 2011; 106: 739-749


デンマークの大規模データベースから「リアルワールド」での抗凝固薬、抗血小板薬のNet clinical benefitを評価した研究

対象:デンマークの全国患者登録において非弁膜症性心房細動で退院した患者(1997〜2008年)、132,372名(!)

結果
1)高リスク例での血栓塞栓症ハザード比:ビタミンK拮抗薬をレファレンスとした場合=アスピリン1.81、ビタミンK拮抗薬+アスピリン1.14、無治療1.86

2)出血ハザード比:ビタミンK拮抗薬をレファレンスとした場合=アスピリン0.93、ビタミンK拮抗薬+アスピリン1.64、無治療0.84

3)Net clinical benefitはCHADS2スコア0点以上、CHA2DS2-VAScスコア1点以上において、ビタミンK拮抗薬単独ではゼロまたはpositive

結論:この大規模コホートでは血栓塞栓症予防に、ビタミンK拮抗薬は有効だがアスピリンは無効であった。ビタミンK拮抗薬とアスピリン投与により出血リスクも上昇したが、血栓塞栓症のリスクのある患者ではNet clinical benefitは明らかに陽性だった。

###この論文、ずっと気になっていましたが、全文を読んでからアップしようと思っていたの遅れてしまいました。

Net clinical benefitはSingerらが報告して以来有名になりました。ワーファリンの効果を塞栓予防効果と出血増加リスクの引き算で考える方法です。
具体的には、(ワーファリン投与前塞栓血栓率ーワーファリン投与後血栓塞栓率)ー1.5(ワーファリン投与後頭蓋内出血率ーワーファリン投与前頭蓋内出血率)で表されます。出血の方に1.5をかけているのは脳出血の方が脳梗塞より臨床的インパクトが強いとの判断からのあくまで恣意的な係数です。
イメージとしては、ワーファリンを投与した場合血栓塞栓が減る人数を出血が増える人数から引いたもので、これがマイナスでなければ効果ありと考えるという感じですね、

Singer論文ではCHADS2スコア1点例はこの値の95%CIがゼロをまたいでおり陽性とは言えないため、これをもってCHADS2スコア1点に対するワーファリンはグレーゾーンであるとの認識の一つの証左となりました。以下の図は有名ですね、
a0119856_23574573.jpg


一方本論文は13万人もの大規模コホートを持ってしてこの結果を一蹴し、CHADS2スコア1点でもNet benefitはゼロを上回っており、有効としました。全文を当たってみますと
CHADS2スコア1点のNet clinical benefit;HAS-BLEDスコア2点以下の場合0.84 (0.70~0.99)、HAS-BLEDスコア3点以上の場合0.56 (0.16~0.95)
CHA2DS2-VAScスコア2点のNet clinical benefit;HAS-BLEDスコア2点以下の場合1.19 (1.07~1.32)、HAS-BLEDスコア3点以上の場合2.21 (1.93~2.50)

本論文がSinger論文と違う点は、脳塞栓のベースラインリスクが3.9%人年とSinger論文の1.19人年より高い点です。出血リスクは0.9%でやはりSingerらの0.48%より高くなっています。ワーファリン後の脳塞栓が1.67% (Sipplの表から)でSingerらでは0.59なので,単純に本論文では脳塞栓減少は2.23人、Singer論文では0.59人となり、これだけで差がついています。出血の方は本論文でワーファリン投与後の頭蓋内出血率が明記されていないようなので比較できませんが、脳塞栓リスクのこの違いが大きいと思われます。

日本人のCHADS2スコア別の脳塞栓、頭蓋内出血率が知りたいところですが、明確なデータはまだ出ていないようです(J-RHYTHM Registryに期待)。

Net benefitを左右する因子はこのようにベースラインリスク、ワーファリン投与後リスクに加えてワーファリンコントロール状況も大きいと思われます。Singer論文はTTRが65.4%と明記されていますが、本論文では明記されていないようです(多分これだけの数のため、データはないものと思われます)。Singer論文もTTRがもっと良ければpositiveになっていたとの思われますので判断に迷うところです。

私の個人的見解は、Singer論文も係数を1で計算すると、もう少しで95%CIがpositiveになる(=0.06~0.57)ことも考え合わせると、「CHADS2スコア1点は原則ワーファリン投与、ただしできる限りワーファリンコントロールを良くするように努める」というところに落ち着きそうです。もちろん塞栓症と出血のリスクは個々に考えることは基本コンセプトで。
by dobashinaika | 2011-11-28 00:01 | 抗凝固療法:適応、スコア評価 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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