2011年 10月 31日 ( 1 )

携帯電話と脳腫瘍の関係についての大規模コホート研究を批判的吟味しました

本日、”ジャーナルクラブはやぶさ”(開業医仲間で月1回行っている論文抄読会)で6月に引き続き「携帯電話と脳腫瘍」に関するコホート研究を読みました。

Use of mobile phones and risk of brain tumours: update of Danish cohort study
BMJ 2011; 343:d6387


南郷栄秀先生の「初めてコホートシートVer6.2」を使用して批判的吟味をいたします。

0. このチェックシートを用いるのは適切か?
コホート研究→なのでこのままチェックを続ける

1. 論文のPICOは何か
P: CANULI コホート:1925年以降に生まれ1990年まで生きている30歳以上のデンマーク人。移民は除く。デンマークの社会的不公正と癌に関する疫学研究施設によるコホートであり、登録者の社会経済的背景が把握されている

I: 携帯電話非購入者:1982年-95年のデンマークの購入登録記録からの収集データ。個人契約に限る,初回登録時18歳未満を除外など。 358,403人

C: 携帯電話非加入者

O: 中枢神経腫瘍発症率、全がん発症率

2. 予後、病因、危険因子、害、予測ルールのいずれかを見る研究か?
害をみる

3. 追跡期間はどれくらいか?
1990年から2007年までの18年間
Outcomeを生じるのに十分は追跡期間である

4. 結果に影響を及ぼすほどの脱落があるか?
Strength and limitations of the studyのところに全体の脱落率2.2%の記載がある

5. Outcomeの観察者が危険因子についてmaskingされているか?
記載がない。
しかし、がん発症の有無は登録患者のデータベース検索によるものであり、outcome評価には影響を与えないと考えられる

6. 交絡因子の調整が行われているか?
多変量解析による調整が行われている。
log linear Poisson regression morel

7. 結果の評価
1)がん発症男性122,302人、女性133,713人。中枢神経腫瘍は男性5111人、女性5618人
2)男性は携帯電話使用者で減少傾向、女子は減少傾向なし
3)喫煙関連がんは、男性も女性も携帯電話使用者で減少傾向
4)高学歴者では携帯による癌の相対危険と喫煙者の相対危険は同程度
5)携帯電話使用の中枢神経腫瘍発症相対危険は男女とも1に近い
6)神経鞘腫の発症は携帯使用男性でやや高いが明らかではない。5年未満の使用者でやや増加するがdose-response関係はない。女性では関係なし。
7)髄膜腫は女性で携帯使用者の相対危険が22%減少したがdose-response関係なし
8)その他の脳腫瘍では結果は様々で、dose-response関係なし
9)部位ごとの神経鞘腫の発症は、側頭葉でやや増加した。最初の9年で増加しその後減少。
10)後頭葉で最も増加し、4年以内使用者が最高発症率
11)頭頂葉では関係なし
12)その他の部位および部位不明の脳腫瘍は明らかに増加し、10年以上使用者で多かった→nが少ない

結論
1)全体としては、携帯電話使用と中枢神経腫瘍発症との関係は見られない
2)携帯使用により女性の髄膜腫は減少し、男性の神経鞘腫は増加したがdose-response間消えはなかった
3)最も注目される側頭葉での神経鞘腫の増加は見られなかった

###デンマークは国民層背番号制を敷いており、健康管理、疾病管理が日本と比べて信じられないほど遂行されています。そのしっかりしたデータベースで様々なコホート研究がなされている訳ですが、今回も30万人に及ぶ大コホートで、しっかりした追跡がなされ、発症率などは確かなものと思われます。ただし、対照群の選定方法が詳しく記載されていないようです。

結果としては、以前6月のブログで取り上げたinterphone研究の、最高10分位の通話時間の群で神経膠種が有意に増加したという結果とは違い、全体として一定の関係はないということです。

ただし、本文でも述べられているように研究限界として1)携帯電話加入者でもあまり使っていない人の存在 2)個人加入者のみが対象であり、法人契約をして使っているビジネスユーザーを対象としていない 3)1996年以降の加入者が非使用者にカウントされている 4)通話時間でなく加入年数で比べている、といった点があり、特に2)のビジネスユーザーが対象となっていない点は、曝露最高位の層が含まれていない恐れがあります。

まだ議論すべき点の多い問題のようです。
by dobashinaika | 2011-10-31 23:08 | 開業医の勉強 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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