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2011年 10月 04日 ( 1 )

慢性心不全における「人間中心ケア」の効果:the PCC-HF研究から

European Heart Journal 9月15日オンライン版より

Effects of person-centred care in patients with chronic heart failure: the PCC-HF study

WHOの提唱する「人間中心ケア」の心不全治療に関する効果に関する検討

P:スウェーデンのSahlgrenska大学病院に2008年から2010年までに心不全の増悪のために入院した248人。
除外基準;急性心筋梗塞、胸痛、50歳未満、弁膜症、重篤合併症など

E:人間中心ケア(2009年~2010年入院)125人;訓練された医療チームによる3段階のケアプラン。
第1ステップ:パートナーシップの開始。入院前後の状態、症状、モチベーション、目標等の情報からなる患者の包括的なナラティブを把握する。これらはアセスメントプロトコールにわかりやすくまとめられる。このプロトコールには患者の社会的状況、退院後のサポート、ADLレベル、自己評価の症状重症度の必要性なども含まれる。これらの情報に基づき仮のケアプランが作成され、探索事項、治療目標、入院期間が計画される。このプランは患者と協議の末24~48時間以内に同意に至る。

第2ステップ:パートナーシップの展開;患者はできる限り活動的になるように仕向けられる。ベッドから出て起き上がり、尿道カテーテルは除去される。患者は5段階スケールで息切れ、疲労症状を毎日自己評価する。このスケールは治療上の指標として使われる。入院後ケアプランに影響するような新情報は入院72時間でチェックされ、以後48時間ごとに評価され、プランを変えて行く。この構造的評価法はパートナーシップの維持と再強化および意思決定共有のためのものである。このプランは退院後のケア継続や意思決定支援のためにも提供される。

第3ステップ:パートナーシップの保護:このケアプランは意思決定や評価がアセスメント記録様式によるケアプロセスを通して記録されていることが前提

C:通常のケア(2008~2009年入院)123人

O:在院日数、ADL、健康関連QOL(HRQL)

結果:
1)全体として(ITT解析)は在院日数は1日減ったが有意差なし、ADLは変わらず
2)ケアプランを完全遂行できた例(perprotocol解析)では在院日数は通常群に比べ2.5日減少し(p=0.01)、ADLレベルは向上した(p=0.04)。HRQLや再入院までの期間は変わらなかった。

結論;人間中心ケアのプランを完全に行えば、心不全増悪患者の在院日数の短縮、機能的改善が、再入院やQOL悪化をみることなく実現できる。

###"person-centred care"の概念はWHOで提唱しているそうですが、認知症ケアモデルとしてネーミングされてもいます。似た概念に有名なスチュアートらの”patient-centred medicine"があります。

今回の心不全でのモデルは、患者のナラティブ(生物学的情報を含む)を把握し、患者と協議の上にケアプランを作る。それの実践と評価を医療者ー患者双方で行うということがコンセプトのように思われます。私が表題から想像していたのは、より社会心理学的側面を重視するものかと思っていましたが、心不全急性期のプランですので、入院中はやはり生物学的情報が中心におかれているようです。

ともあれ、これほど手厚く医療者との関係を密にされ、自己評価を促されれば、患者さんも否応無しによくなり、早く退院して行くのはうなづけます。患者満足度がどうであったかも知りたいところです。

退院後まで視野に入れられているようですが、たしかにこうした包括的なケアプランを,例えば心不全の慢性期外来診療に取り入れるのは、前々からやりたいと思っていたことです。そのプランに患者さんの個別的、社会心理的事情をどう取り入れるか、家族、ケアマネージャーさん、訪問看護師さんとどうコラボするか、こうしたケアはプライマリケア医の醍醐味と言えるかもしれません。

余談ながら、「〜中心の医療」とか「〜に基づく医療」という方はそろそろ皆さん卒業すべきではないかと最近思うのです。患者中心って言ったって、これ当たり前のことですよね。患者がいて医療者がいるのですから。本来は患者と医療者がある訳ですので、その関係性こそが医療の本質なのであり、その意味では「関係性中心の医療」と言うのなら私も納得です。おそらくこの論文の「人間中心の〜」という言い方も、それ以前はそうなっていなかったことのアンチテーゼの意味合いが含まれているはずです。それまではおそらく「疾病中心の〜」または「医療者中心の〜」だったのかもしれません。その意味で、早くこのアンチテーゼ的ニュアンスが解かれて、だれも「人間中心」と言わなくても常識になるような空気感が訪れることを望みます。

Person-centers careの概念はWHOの2008年年次報告書の中でよくのべられています(特にChapter3)。ご参照ください。
by dobashinaika | 2011-10-04 23:02 | 心理社会学的アプローチ | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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