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2011年 06月 22日 ( 1 )

脳腫瘍リスクと携帯電話使用の関係:WH0ワークグループ分類の元論文を読む

本日、”ジャーナルクラブはやぶさ”(開業医仲間で月1回行っている論文抄読会)で「携帯電話と脳腫瘍」に関する論文を読みました。
トピックスとなっていますので、取り上げてみました。

Brain tumour risk in relation to mobile telephone use: results of the INTERPHONE international case–control study The INTERPHONE Study Group*

International Journal of Epidemiology 2010;1–20 doi:10.1093/ije/dyq079

この論文は、先日WHOの国際がん研究機関(IARC)が、携帯電話を発がん性評価カテゴリの「2B」;Possibly Carcinogenic to Humansに位置づけた根拠が含まれていると考えられます。

南郷栄秀先生の「はじめてケースコントロールシートVer2.5」に沿って批判的吟味いたします。

1.論文のPECO
O(結果):神経膠腫、髄膜腫
P(患者):症例=2000~2004年に神経膠腫、髄膜腫と診断された患者2425例および2765例。世界13カ国、30~59歳。
対象=年齢、性別、居住地域(イスラエルでは民族も)をマッチングさせた一般住民。
E/C(曝露):携帯電話を6ヶ月以内に平均週1回以上通話した(regular use) /累積通話時間/累積通話回数。

2.症例は偏りなく集められているか?
症例の選び方の基準:脳神経内科または外科専門施設で組織学的あるいは明らかな画像で上記と診断された症例。
施設内での連続症例かどうかの記載はないが、おおむね医療機関ないで明確な基準で診断されている。

3.対照は偏りなく集められているか?
対照を集める基準:年齢、性別、居住地域(イスラエルでは民族も)をマッチングさせた一般住民。
同じ母集団ではなく、その地域での住民を選んでいる。
マッチンクがされているが、社会経済因子、家族歴等の因子は考慮されていない。

4.曝露因子はバイアスを最小にして適切に測定されているか?
Discussionで述べられているように様々なバイアスが考えられる。
インタビュー時間:全部の項目に答えなかった例が症例で78%、64%、対照で58%いる。短いインタビュー時間の人に全く携帯を使わない人が多い。
前駆症状;頭痛などの症状があると診断がつく前に気以来の使用を控えてしまう可能性がある。
インタビューの時期:最近インタビューした人ほど携帯を使っている傾向がある。

5.論文で取り上げられた交絡因子は何か?
年齢、性別、居住地域、民族(イスラエルのみ)は考慮された。
社会経済的地位、遺伝的因子などはマッチングされていない。

6.交絡因子が最小になるように調整されているか?
マッチング、統計学的補正はなされている。

7.結果
1)Regular userでは神経膠種[OR 0.81; 95% confidence interval (CI) 0.70–0.94] 、髄膜腫(OR 0.79; 95% CI 0.68–0.91)のリスク減少が認められた。
2)10年以上のユーザーでの脳腫瘍リスク上昇は見られない。
3)生涯通話回数の全10分位と生涯通話時間の下位9分位のオッズ比は1未満。
 4)生涯1640時間以上通話した人では、神経膠種のオッズ比は1.40 (95% CI 1.03–1.89) 、髄膜種のオッズ比は1.15 (95% CI 0.81–1.62) 。
5)神経膠種は側頭葉に多く、常に片方の耳で通話する人に多い傾向にあった。

8.その曝露因子はOutcomeの原因となっているか?(因果推論)
ヘビーユ—ズが神経膠種の原因かどうかについては、一貫性(各地域ごとでも言えるかなどは不明)、強固性(OR1.40で何とも言えない)、特異性(1:1対応あるとは言えない)、時間的関係(期間中のどの時期に診断されたか不明)、整合性、生物学的説得性、類似性(述べられていない)、用量反応関係(なし)、実験的根拠(述べられていない)、とのことで、因果関係の推定7項目を満足させるものではないと考えられる。

###結果をもう少し要約すると、脳腫瘍例の方が携帯電話使用者がむしろ少なかった。ただし生涯1640時間以上通話した人で、神経膠種にのみ40%のリスク増加があった、とのことです。しかし本文中で述べられているように、様々なバイアスや交絡因子の調整がされていませんので、著者自身が言っているようにいまだ implausible valuesだと思われます.実際はこの論文を受けてのこちらの論文なども考慮されています。
いずれにしても今回のWHOの評価を「携帯電話使用すなわち発ガンリスク増加」と短絡的に考えることだけは、今のところ慎みたい態度だと思います。
IARCのステートメントはこちら
by dobashinaika | 2011-06-22 23:58 | 開業医の勉強 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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