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2011年 05月 04日 ( 1 )

プラザキサ低用量処方をどう考えるか

若紫さんのブログにインスパイヤされ、考えてみました。

今後、プラザキサの処方数は確実に増加するでしょうが、そこで間違いなく問題となるのが、低用量110mgx2/日の適応です。

われわれの手がかりは、添付文書とエビデンスです。
添付文書では、以下のような人に110mgを考慮すること、となっています
1)中等度の腎障害(Ccr30-50)
2)P-糖蛋白阻害剤(アミオダロン、ベラパミルなど)併用者
3)70歳以上
4)消化管出血の既往を有する患者

エビデンスとしては、RE-LY試験が唯一の大規模試験です。
同試験の用量に関する知見として、110mgと150mgの比較では
1)一次エンドポイント(脳梗塞/脳出血/全身性塞栓)は150mgが有意に良好(ハザード比0.72, P<0.0049)
2)大出血は150mgが多いが有意差はなし(110mg:2.87%/年vs. 150mg: 3.32%/年)
3)消化管出血は150mgが有意に多い(110mg:1.12%/年vs. 150mg: 1.51%/年, P=0.007)

一方RE-LY試験のサブグループ解析から
1)75歳以上では、一次エンドポイントは150mg群で低く(1.9%/年 vs. 1.4%/年)、大出血は110mg群の方が低い(4.4%/年 vs. 5.1%/年)
2)CCr30~50の群では、一次エンドポイントは150mg群で低く(2.4%/年 vs. 1.3%/年)、大出血は同等(5.7%/年 vs. 5.5%/年)
3)RE-LYでは大出血の既往を持った人が57%だったが、再出血の頻度は同等

また、日本人を対象としたRE-LYのサブ解析では、一次エンドポイント、大出血とも本試験とほぼ同様の結果でした。

こうしてみると、RE-LYおよびそのサブ解析からはNEJMのPERSPECTIVEで述べられているように、腎機能や出血の既往を理由に低用量を選択する根拠は薄いようにも思えます。75歳以上は高用量の場合確かに出血がやや多いのですが、添付文書の「70歳」の根拠はこれからは導けません。

詳しい事情はわかりようもありませんが、日本の添付文書は、FDAのようなエビデンス重視ではなくおそらく過去の経験則、病態生理から導出されたものと思われます。この背景には日本の医師および患者が持つ、出血に対するリスク認知が深くかかわっているように思います。

多くの医師は110mgのオプションがあることである意味とても安心しているのではないでしょうか?日本人対象のサブ解析では、INR管理値が本試験より明らかに低めでした。日本人はそもそも、CT等の画像も含めて心象としてインパクトの強い「出血」を嫌う傾向があります。また一般に人は抗凝固薬投与による利得(脳梗塞予防)よりも損失(出血)をより大きく見積もるといういわゆる損失回避性が備わっているとされています。とくに自分の意図した「処方」という行為により生じた損失は、大変大きく感じられると推測されます。

添付文書上は「110mgを考慮する」という表現であり、保険上そうしないと査定されるということはないと思いますが、添付文書のお墨付きもある以上、少なくとも開業医の多くは、添付文書に該当する患者さんには110mgを処方するように思います。出血回避という日本人の心的事情をうまく汲み取ってくれる装置として低用量ダビガトランは、今後機能すると思われます。
by dobashinaika | 2011-05-04 00:36 | 抗凝固療法:ダビガトラン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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