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多業種の良好な医療連携が適切なPT-INRコントロールにつながる

アメリカでは、薬剤師の裁量範囲が日本より大きく、多くの州でワーファリン処方とPT-INR(プロトロンビン時間いわゆるサラサラ度:この表現には賛否両論ありますが...)を薬剤師が管理しています。医師と薬剤師との良好な医療連携が、適切なPT-INRのコントロールに関連していることを示す論文が心臓の専門雑誌アメリカンハートジャーナル2月号(American Heart Journal
Volume 159, Issue 2, February 2010, Pages 183-189 )に掲載されています。

論文の背景) アメリカでは、薬剤師による抗凝固療法サービスが普及し、PT-INRが安定した段階で内科医に紹介されるというシステム(共同ケアモデル)がある。この研究では、このシステムがPT-INRの良好なコントロールに寄与しているのかを調べた。

方法) このモデルを行っている米国のプライマリーケア医121人に電話アンケートを行った。かれらは121人の患者を平均14.5週フォローしていた。

結果) この研究では、いったん薬剤師によるコントロールを離れ、医師が患者をフォローすることになったあとでは、医師はあまり他の専門家にコントロールについて相談しないことが示された。INRを測定する医師は39.7%、フォローアップの記録をする医師は6.6% 、薬剤や食品との相互反応(ワーファリンの効果に影響を与えたかどうか)を同定していた医師はそれぞれ32.3%と9.9%だった。
コンピューターを用いてのINRの管理、ワーファリンと競合する薬の同定、専門家への相談をすることが、それぞれしない場合に比べ9.16倍、3.49倍、5.92倍もPT-INRの適切なコントロールに影響していた。

結論) プライマリーケア医はこのモデルにおいてさえも、ワーファリンのコントロールのためにあまり他業種と連携していない。こうした医療連携をした場合はしない場合より良好なPT-INR管理ができる。


###アメリカは日本と違って、民間保険が大部分であり、一回の受診あたりの医療費が非常に高いので、血圧、血糖などの測定や本研究のようなPT-INR測定などは各地に多数ある薬局が行っています。薬剤師の裁量範囲は広く、PT-INRの測定からワーファリンの処方まで薬剤師が行えます。この論文ではそうした専門性の高い薬剤師と医師との間の連携が必ずしも頻繁に行われていない実態が報告されています。
日本の場合は、当然のことながら、納豆を食べていないかどうかといった問診、採血、そしてワーファリン投与量の変更まですべて医師が行います。ですので、この報告のようにたとえ安定期に入っていてもINRを32%の医師しか測定しないなどということはあり得ません。この辺は、日本の医療システムの「手厚さ」を感じさせる結果です。

しかしながら、INRの管理において、多業種がかかわることは大変大事です。日本では何でもかんでも医師が行うので、ワーファリン投与の上で注意すべきたくさんの事柄を患者さんに十分伝えられない場合があるかもしれません。国民皆保険である分だけ、患者さん一人当たりにかけられる時間はアメリカより絶対的に短いのです。これを補うための医療連携が必要です。当院では初めてワーファリンを患者さんに処方する場合、まず看護師が患者さんの食事の嗜好や1日の生活パターン、他の医療機関で薬をもらっていないか、歯科治療中ではないかなどにつき時間をかけて聞くようにしています。また服薬にあたっては、近くの薬局と連携して注意事項をお伝えするようにしています。

アメリカ並みにとまでは必要ありませんが、日本でもコメディカルができる医療行為の範囲につき、もう少し考えてもよいと思われます。

論文はこちらから
by dobashinaika | 2010-02-04 23:25 | 抗凝固療法:ワーファリン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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