高血圧患者ではカルシウム拮抗薬に比べ、ACE阻害薬やARB,ベータ遮断薬が、心房細動を抑制する
心房細動の予防に、血圧の薬であるアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)またはアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が有効であることが知られてきています。しかしながら今までのデータは、ある程度心臓に疾患があった方についてや、一度心房細動を発症してからの再発予防に関してのものでした。一番、我々開業医が知りたいのは、比較的軽い高血圧の方に、どの薬を処方すれば心房細動の発症が少ないか、ということです。この疑問への参考となる論文が内科雑誌Annals of Internal Medcine 1月19日号に掲載されています。
EBMの基本であるPECOTに従って読み進めます。
P)患者:イギリスの家庭医のデータベースに登録されている高血圧患者で1種類の降圧薬を処方されている人
E)介入事項:心房細動を発症した患者4661人(1998年から2008年までの間に初めて心房細動の心電図を記録できた人)
C)比較対照:年齢、性別ほかを上記の患者とマッチさせた高血圧患者18642人
O)結果:カルシウム拮抗薬服用者の心房細動発症率を1とするとACEIは0.75 [95%信頼区間, 0.65 - 0.87]、ARBは0.71 [95%信頼区間0.57 - 0.89]、ベータ遮断薬 0.78 [95%信頼区間, 0.67 - 0.92]だった。
T)試験のタイプ:症例対照研究
###この結果からは、カルシウム拮抗薬より他の薬を飲んだほうが約20~30%、心房細動の発症が抑えられると読めます。特に今まで有効とされてきたACEIやARBと、ベータ遮断薬が同等の効果であった点が注目されます。
しかしながらこれは、心房細動患者さんとそうでない人をあらかじめ選んでおいて、その人たちを後から調査して飲んでいる薬の多い少ないを比べた研究です。このような研究は後ろ向き研究といって、さまざまなバイアスが混入しているかもしれません。たとえば、心房細動は心電図に記録されなければ診断できませんが、心電図の記録回数は、まちまちであり、ACEIなど、効くと考えられている薬を飲んでいた人は、医師も心電図を頻繁にとったのかもしれません。また肝心の血圧がどの程度であったかというデータがこの論文には書いてありません。
けれども、軽い患者さんで長く降圧薬を使うとき、カルシウム拮抗薬よりはACEI,ARBの方がやや有利であることを示唆する論文ではあります。
今後同じような対象での、時に日本人を対象とした前向きの試験の結果(J-RHYTHM IIという試験がすでに終了しています)が待たれます。
論文のまとめ(英文)
EBMの基本であるPECOTに従って読み進めます。
P)患者:イギリスの家庭医のデータベースに登録されている高血圧患者で1種類の降圧薬を処方されている人
E)介入事項:心房細動を発症した患者4661人(1998年から2008年までの間に初めて心房細動の心電図を記録できた人)
C)比較対照:年齢、性別ほかを上記の患者とマッチさせた高血圧患者18642人
O)結果:カルシウム拮抗薬服用者の心房細動発症率を1とするとACEIは0.75 [95%信頼区間, 0.65 - 0.87]、ARBは0.71 [95%信頼区間0.57 - 0.89]、ベータ遮断薬 0.78 [95%信頼区間, 0.67 - 0.92]だった。
T)試験のタイプ:症例対照研究
###この結果からは、カルシウム拮抗薬より他の薬を飲んだほうが約20~30%、心房細動の発症が抑えられると読めます。特に今まで有効とされてきたACEIやARBと、ベータ遮断薬が同等の効果であった点が注目されます。
しかしながらこれは、心房細動患者さんとそうでない人をあらかじめ選んでおいて、その人たちを後から調査して飲んでいる薬の多い少ないを比べた研究です。このような研究は後ろ向き研究といって、さまざまなバイアスが混入しているかもしれません。たとえば、心房細動は心電図に記録されなければ診断できませんが、心電図の記録回数は、まちまちであり、ACEIなど、効くと考えられている薬を飲んでいた人は、医師も心電図を頻繁にとったのかもしれません。また肝心の血圧がどの程度であったかというデータがこの論文には書いてありません。
けれども、軽い患者さんで長く降圧薬を使うとき、カルシウム拮抗薬よりはACEI,ARBの方がやや有利であることを示唆する論文ではあります。
今後同じような対象での、時に日本人を対象とした前向きの試験の結果(J-RHYTHM IIという試験がすでに終了しています)が待たれます。
論文のまとめ(英文)
by dobashinaika
| 2010-01-31 23:47
| 心房細動:アップストリーム治療
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
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