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連続変数としてのリスク、名義変数としての行為

4月11日(土)、日本内科学会に出席。内科学会はとにかく医学書コーナーが圧巻。広いフロアに、ほとんどの医学関係出版社の書籍が所狭しと並ぶ。専門医の点数を取得する目的のほかに、この医学書あさりもお目当ての一つである。時にあまり店頭やパンフで見かけない本に出会ったりするからだ。今回は東大の統計学の権威、大橋靖雄先生の「Dr.オーハシの医学統計よもやま」(ライフサイエンス社)をゲット。わずか79ページのそこかしこに医学統計の肝がちりばめられている。帰りの新幹線で東京駅から宇都宮あたりまでの間に一気に読み終えた。とくに「相関と個別予測性のギャップ」のところは、「相関が統計学的に有意であるということと、個別の対象者が適切に分類できるか、とは別問題」というメタボ基準の矛盾の核心を突く記述であり、リスク因子評価のピットフォールを再認識させられた。

つまり、内臓脂肪面積という連続した値を、メタボありなしという二値に振り分けること、連続変数を名義変数に変換すること、その作業の困難さである。どこかにカットオフ値をひかないと我々は行動できないわけであり、そのためにROC曲線という概念が用意されているのであるが、予測因子として意味を持つためにはメタボあり、なし群間の分布自体の重なりが小さいことが条件となる。

そもそもリスクとは連続変数である。ここからが安全でここからが危険という境界線は原理的には存在しない。安全から危険への変化は連続的であり、その間は灰色である。一方医療行為に限らず、われわれの取りうる「行為」「態度」はするか、しないかの二値しかない。ここにリスクに対する「認知」と「行動」のカテゴリーエラーが生じることとなる。

さてカテゴリーエラーだからどうにもならない、と考えていては医者の仕事は立ち行かない。「リスクは定量的に把握するもの」という視点がまずファーストステップである。大切なのはこの視点を医療者と患者とで共有したい、ということ。医療者はまだしも、患者はリスクを安全、危険の二分法で考えやすい。マスコミの煽情的情報がそれにさらに拍車をかける。我々医療者は、医学上の判断は白黒つけられないことばかりである、ことを患者に説明すべきである。おなか周り90cmだから大変危険だ、82cmだから大丈夫と簡単に判断できないことを丹念に伝えていくべきだと思う。少なくともマスコミと同じような煽情的二値的コミュニケーションはさけたいものである。

この「リスクリテラシー」問題は大問題なので、また別の日にゆっくり考えてみます。

by dobashinaika | 2009-04-15 00:34 | EBM | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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