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インスリン注射の決断をめぐる患者ー医者間の溝~糖尿病勉強会に出席して~

一昨日、昨日と開業医の先生が主催する糖尿病の勉強会に続けて参加いたしました。(11日:宮城糖尿病談話会、12日:循環器内科専門医のためのインスリンフォーラム)。特に本日は、盛岡で最近開業されたかねこ内科医院の金子能人先生をお招きし、インスリンを患者さんにどう処方するかについての講義を受けました。先生は糖尿病専門医であり、1日1回のインスリン注射について分かりやすく講演していただきました。

三大生活習慣病とされる高血圧、脂質異常症(コレステロールなどが高い)、糖尿病のうち、医者が習得すべき知識、技術の一番多いのは何と言っても糖尿病です。薬の種類もたくさんありますし、インスリンを初めて患者さんに勧めるときの導入法については、特に専門的な勉強が必要になります。

今日の勉強会でも話題になりましたが、インスリンの注射が必要です、と患者さんに切り出す場合、たいていの患者さんは躊躇されます。なぜでしょうか?

と、その前に医者が、この患者さんにはインスリンが必要だと判断する思考回路と、患者さんがインスリンを自分で打つことに対して決断する時の思考回路とを比較してみましょう。医者の思考回路は割と単純で整然としています。インスリン注射の決断をめぐる患者ー医者間の溝~糖尿病勉強会に出席して~_a0119856_019165.jpg患者さんがインスリンを打つことによる利益はだいたい統計学的に分かっています(これも細かく言うといろいろな意見はありますが)。また打つことで発生する副作用の頻度も高い精度で割り出されています。この利益とリスクを天秤にかけ、もちろん利益が上回ると判断したから、患者さんにインスリンを勧めるのです。

いっぽう患者さんがインスリンを打つかどうかの決断には、どんな要素がからむでしょうか?まず何といっても、インスリン注射という行為あるいは痛みに対する恐怖感があるでしょう。また医者の説明を聞いて低血糖という副作用への不安もわいてきます。これらの恐怖、不安には例えば身近な人がそれで苦しんだといった体験談が大きく影響することもあります。またコストの問題、注射することの煩わしさなどもあります。一方インスリンを打つことで、体調が良くなる、将来透析を受けなくて済むといった利益は医者から説明された情報としてあるはずです。私の印象では、インスリンを打つという行為そのものが、自分は重症者であると烙印を押されたように感じること、が最も大きな要素であり、これに対し将来透析を受けなくて済む、といったことはもともと人間にとってイメージしにくいものである、と、この辺に問題があるように思います。

医者にとってはインスリン導入の決断は科学的データによる利益とリスクの引き算だけで済みますが、患者さんの決断には上記のような多種多様の要素の掛け算、割り算が必要と思われます。医者がこれら患者さん側の掛け算割り算をどのくらいわかることができるか、によってだいぶ治療の方向が変わってくるのではないかと思います。

最近はどうすればこの溝を埋められのか、よく考えるのですが、今後少しずつこのブログに書いていこうと思っています。
by dobashinaika | 2009-03-13 00:20 | EBM


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