第16回寺子屋勉強会~新型インフルエンザ対策~
一昨日(2月26日)、開業医仲間の勉強会である「寺子屋勉強会」の第16回が開催され。世話人の一人として参加いたしました。今回は東北大学大学院医学系研究科微生物学分野教授の押谷仁先生を講師にお招きして、新型インフルエンザについて勉強いたしました。押谷先生は、私の大学の同期で、長らくWHO(世界保健機構)などで活躍され、3年前から東北大学の教授に就任され、現在日本の新型インフルエンザ対策の第一人者です。
押谷先生からは大変多くのことを学びましたが、一番大切なメッセージは、新型インフルエンザに対する基本的な考え方です。押谷先生は講演の端々で、できる限り科学的な根拠(エビデンス)にもとづいて行動計画を作成すべきであることを力説されました。たとえば、うがいや手洗いの大切さはよく言われますが、ウイルスは数十秒で細胞の中に入り込み、しかも多くは鼻から入るので、外出から帰ってきたときだけうがいをしても効果は疑問がある、ということです。また手に付いたウイルスは5~10分そこで生息するので、帰宅時にだけ手を洗っても途中でウイルスのついた手を自分の口や鼻に持っていけば元も子もないのです。そこで、米国では「外に出たら自分の顔を触るな」「咳をする時は手を口で覆うな、服で受け止めよ」と啓蒙されているとのことです。
これは私がなるべく心がけているEBMと一見同じ精神かもしれません。ただ、診察室で患者さんの治療方針を決定する場合、「この薬を飲むと、飲まない時に比べ死亡率が10%減る」といった科学的証拠は、私は一つの参考情報として、患者さんにお知らせすることにとどめるようにしています。最終的に薬を飲むか飲まないかは患者さんの薬に対するイメージとか、経済的都合とかなどなども考えながら決めるようにしています。しばしば患者さんの嗜好がエビデンスを覆い隠す力を持ちます。そのため時にエビデンスを大雑把に扱いがちになりますが、それも時には許される雰囲気があります。
しかし医療政策となるとそうはいきません。患者さんとの共同作業だけというわけにはいきません。コストはより少ないほうへ、効果はより大きいほうへという姿勢が求められます。科学的根拠が、一人の患者さんの治療方針を決める時より、ある意味逆説的ですが、より重みがあり、厳密さも要求されるかもしれません。それを覆い隠す力は何だと言われたら「政治の力」とでもなるのでしょうか。
押谷先生のお話を聞きながら、エビデンスを医療政策に使う大切さ、難しさを改めて痛感した夜でした。
押谷先生からは大変多くのことを学びましたが、一番大切なメッセージは、新型インフルエンザに対する基本的な考え方です。押谷先生は講演の端々で、できる限り科学的な根拠(エビデンス)にもとづいて行動計画を作成すべきであることを力説されました。たとえば、うがいや手洗いの大切さはよく言われますが、ウイルスは数十秒で細胞の中に入り込み、しかも多くは鼻から入るので、外出から帰ってきたときだけうがいをしても効果は疑問がある、ということです。また手に付いたウイルスは5~10分そこで生息するので、帰宅時にだけ手を洗っても途中でウイルスのついた手を自分の口や鼻に持っていけば元も子もないのです。そこで、米国では「外に出たら自分の顔を触るな」「咳をする時は手を口で覆うな、服で受け止めよ」と啓蒙されているとのことです。
これは私がなるべく心がけているEBMと一見同じ精神かもしれません。ただ、診察室で患者さんの治療方針を決定する場合、「この薬を飲むと、飲まない時に比べ死亡率が10%減る」といった科学的証拠は、私は一つの参考情報として、患者さんにお知らせすることにとどめるようにしています。最終的に薬を飲むか飲まないかは患者さんの薬に対するイメージとか、経済的都合とかなどなども考えながら決めるようにしています。しばしば患者さんの嗜好がエビデンスを覆い隠す力を持ちます。そのため時にエビデンスを大雑把に扱いがちになりますが、それも時には許される雰囲気があります。
しかし医療政策となるとそうはいきません。患者さんとの共同作業だけというわけにはいきません。コストはより少ないほうへ、効果はより大きいほうへという姿勢が求められます。科学的根拠が、一人の患者さんの治療方針を決める時より、ある意味逆説的ですが、より重みがあり、厳密さも要求されるかもしれません。それを覆い隠す力は何だと言われたら「政治の力」とでもなるのでしょうか。
押谷先生のお話を聞きながら、エビデンスを医療政策に使う大切さ、難しさを改めて痛感した夜でした。
by dobashinaika
| 2009-02-28 00:08
| EBM
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
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