心房細動治療のShared decision makingのための支援ツールの有効性:システムあるいは場としてのShared decision making
Ozanne E M, Barnes G D, Brito J P, Cameron K A, Cavanaugh K L, Greene T et al. Effectiveness of shared decision making strategies for stroke prevention among patients with atrial fibrillation: cluster randomized controlled trial. BMJ 2025; 388 :e079976
目的 :非弁膜症性心房細動患者における脳卒中予防のための質の高い共同意思決定を促進するための複数の意思決定支援戦略の有効性を評価する。
デザイン :クラスター無作為化比較試験。
設定 :米国の6つの大学医療センター。
参加対象: 非弁膜症性心房細動と診断された18歳以上の患者で、脳卒中リスク(男性CHA2DS2-VASc≧1、女性CHA2DS2-VASc≧2)を有し、脳卒中予防戦略について話し合うための臨床予約が予定されている患者。参加した臨床医は、参加患者の脳卒中予防戦略を管理する者であった。
介入:患者を患者意思決定支援ツール(PDA)を使用する群と通常のケアを行う群に無作為に割り付け、臨床医をすべての参加患者に診療時意思決定支援ツール(EDA)を使用する群と通常のケアを行う群に無作為に割り付けた。
主要アウトカム評価項目 :OPTION12で測定したSDMの質、心房細動とその管理に関する知識、意思決定の葛藤。
結果:
1)6施設1117人
通常ケアと比較して、PDAとEDAを併用することで、
2)共有意思決定の質が改善(調整平均差12.1(95%信頼区間(CI)8.0~16.2;P<0.001)
3)患者の知識が向上(オッズ比1.68(95%CI1.35~2.09;P<0.001)
4)患者の意思決定の葛藤が減少(調整平均差-6.3(95%CI-9.6~-3.1;P<0.001))。
5)意思決定の共有度と知識の質が改善
6)脳卒中予防のための治療選択,参加者の満足度,受診時間については、群間で統計的に有意な差なし
結論:意思決定支援(EDA、PDA、またはその両方)を受けた患者は、意思決定支援を受けなかった患者に比べて、意思決定の葛藤が低く、意思決定の共有が良好で、知識が豊富であった。この研究は、来院前または来院中の意思決定支援ツールを単独または組み合わせて使用することが、通常のケアと比較して有利であることを立証している。
### 以前からメイヨークリニックで開発された意思決定支援のためaidは紹介されていましたが,今回そのメイヨークリニックのメンバーがUtah大学で作成した2種類の支援ツールがアウトカムに及ぼす影響を検討した報告です。
下の試験デザインおよびこのaidの具体的内容は以下の論文に詳しいです。
2種類の支援ツールとは診療前に患者が使用する患者意思決定支援ツール(PDA)と診察室で医師と患者が用いる診療時意思決定支援ツール(EDA)です。
詳細は以下の論文に詳しいですが,すごいのは反復設計プロセスという手法で,まずツールのプロトタイプを作り,10名の患者および介護者、臨床医(医師、ナースプラクティショナー)、Shared decision making: SDMの専門家、DA開発の専門家からなる専門家パネルが使い勝手などを実際に使用しながら4回にわたってフィードバックしながら内容を改良していったことです。
肝心の内容ですが,上記の一部だけ紹介されています。
1)適切な読書レベル(ヘルスリテラシー)で簡潔な情報を提供することの重要性
2)基本的な解剖学のイラスト
3)受け取る情報の内容や量を個人が選択できるようにすること
4)心房細動の診断に関する患者の身体的・感情的経験に関連した内容の必要性
5)さらなる議論のために質問を書き込む機会を設けること。
が基本テーマとなっています。
項目は1)心房細動病態生理 2)CHA2DS2-VAScスコア 3)脳梗塞リスク表 4)出血リスク説明 5)ケアチームとの面接のための記載と準備 からなっていますが,この内特筆すべきは5)です
PDAにおける5)は「心房細動であることの意味」「脳卒中予防医療」「私のケアチームとのミーティング」の以下の3部構成となっています。
①心房細動であることの意味
・私の心臓に何が起きているか:心房細動の病態生理をアニメ化した図,心房細動は脳卒中リスクをどう変えるか
・脳卒中リスク因子計算機への導入
・一般的症状とそれらがもつ意味
②脳卒中予防医療
・私の選択は何か?
・抗凝固薬のまとめ
・私の生活の上で抗凝固薬はどう働くのか:出血,日常服用,コスト,食事
・脳卒中予防とその他の医療
・他に私は何ができるか:脳卒中予防,症状管理
③ケアチームとのミーティング
・反省点
・ケアチームと話し合いたいこと
・支援チーム(多職種と思われます)と話し合いたいこと
たとえば「Meeting with My care team」の項目では,ケアチームと話し合いたいこと”として「あなたにとって大切なことはなんですか?ー以下の質問をケアチームにお持ち寄りください。次回のセクションであなたおのサマリーとしてまとめます」との文言が表題にかかげられ,以下のような質問事項が掲示されています。
・自分の状態の理解:
「心房細動は私の人生をどう変えたか?」
「脳卒中になることで私にどんな変化があるか?」
・私の選択肢の理解:
「脳卒中予防における私の選択肢はなにか?」
「脳梗塞予防薬を飲むことのリスクはなにか?」
・私の生活における心房細動ケア」
「心房細動とともに生きる上で私が愛することを継続するにはどうすればよいか?」
「治療をするうえで何を食べればよいか」
「もし出血や皮下出血を家庭内で管理できないときはどうするか?」
「ワーファリンを服用するときは定期的に採血を受けられるのか?」
「私の健康管理は誰が手伝ってくれるのか?」
「支援を探すにはどうすればよいか?」
また「あなたのサポートシステム(治療あるいは感情的サポート:友人,家族,介護スタッフ)への質問として
・私のケアの管理
「私の現状について介護スタッフに何を知ってほしいのか?」
「何を食べればよいか?」
「重い脳卒中担ったときに誰がケアするのか?」
・問題への対処
「出血への対処ができないときはどうするか?_
「病院受診が必要なのはどのようなときか?」
「緊急時はどうすればよいか?」
いわゆる患者の解釈モデルをこのような形で明確にする思想に改めて敬服します。そして通り一遍でなくそれを,こうしたアプリなどの形で明確し,またケアチームと疑問や知識を共有するシステムの構築の重要性を再認識させられる思いです。
ここではSDMが儀式ではなく,一つのシステムあるいは有機体として働いているように思われます。特筆すべきは,毎回患者がこうした疑問をアプリなどに記してケアチームにぶつけられる場があることだと思います。決してアプリや冊子だけでおわりではなく,それらはあくまで道具であり,それを使って患者,及び医療者の双方がそれぞれの固有の疑問や内面を共有できる。
まさにSDMとは一つのシステムであり場であるり,構築されなければならないものであることを改めて痛感しました。
この実践には,当然ながら人的コスト,タイムパフォーマンスをどう扱うかが障壁となるでしょう。
$$$
by dobashinaika
| 2025-03-02 18:55
| リスク/意思決定
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
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