人気ブログランキング | 話題のタグを見る

日本独自の新しい心房細動脳梗塞リスク評価ツール・HELT-E2S2 スコアの使い方

先週神戸で開催された第88回日本循環器学会の初日に合わせて,2024年JCS/JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療(日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン)が発表されました。

第1章 植込み型心臓電気デバイス
第2章 カテーテルアブレーション
第3章 心房細動の薬物治療と包括管理
第4章 市民・患者への情報提供
の4章から成っています。

本日は,新たな本邦独自の脳梗塞リスク評価ツール:HELT-E2S2 スコア(ヘルトイーツーエスツースコアと呼ぶそうです)についてまとめます。

同スコアは,日本を代表する心房細動患者対象の5つのレジストリ(J-RHYTHM レジストリ,Fushimi AF レジストリ,Shinken Database,Hokuriku-Plus AF レジストリ,Keio Interhospital Cardiovascular Study)の統合解析(J-RISK)から,脳梗塞発症に寄与する独立危険因子を同定したものです。(元の論文はこちら

CHADS2 スコア,CHA2DS2-VASc スコアと共通する危険因子として年齢,高血圧,脳卒中既往の 3 因子が追認された一方,糖尿病,心不全,血管疾患は独立危険因子として同定されず,かわりに,85 歳以上,BMI 18.5kg/m2 未満,持続性 / 永続性心房細動という新たな危険因子が同定されました。
日本独自の新しい心房細動脳梗塞リスク評価ツール・HELT-E2S2 スコアの使い方_a0119856_22114319.png

このスコアの使用法ですが,同ガイドラインでは,従来通りCHADS2スコアを推奨クラスIとしており,HELT-E2S2 スコアはIIa,CHA2DS2-VAScスコアはIIbと格付けされました。
日本独自の新しい心房細動脳梗塞リスク評価ツール・HELT-E2S2 スコアの使い方_a0119856_22143520.png
国内の 2 つの多施設研究(RAFFINE,SAKUFAAF レジストリ)の統合データにより行われた外部妥当性検証では,C統計量はCHADS2スコア,CHA2DS2-VAScスコアのいずれをも上回っていました。

しかしながら,何点以上なら抗凝固療法を考えるというポイントは示されませんでした。抗凝固薬の有無の脳梗塞発症に対するハザードを HELT-E2S2 スコア別に検討すると,HELT-E2S2 スコア 2 点以上の患者で有意なハザード低下(抗凝固なしに比べありのほうが有意に発症率が低い)を認めており,2点がおおよその目安なのかもしれません。ただし患者背景による調整を行っておらず,また出血を考慮したネットクリニカルベネフィットの解析が必要のため,現時点では点数により抗凝固の適応を決定するまでに至っていないようです。
日本独自の新しい心房細動脳梗塞リスク評価ツール・HELT-E2S2 スコアの使い方_a0119856_22140611.png
ちょうど昨年発表された米国の,2023 ACC/AHA/ACCP/HRS Guideline for the Diagnosis and Management of Atrial Fibrillationでは,スコアの「柔軟な使い方」が提唱されていて,年間脳卒中リスクが2%以上(CHA2DS2-VAScスコア換算で2点以上)なら抗凝固(クラスI)で,2%未満は,
・高い心房細動負荷(長期持続)
・持続性または永続性心房細動(発作性心房細動と比較して)
・肥満
・肥大型心筋症
・コントロール不良の高血圧
・eGFR(45mL/h未満)
・蛋白尿(150mg/24時間以上)・
・左房容積(73mL以上)または左房径(4.7cm以上)拡大
の各因子を考慮となっていました。

これまでの日本循環器学会の2020ガイドラインでは
・心筋症
・65-74歳
・血管疾患
・持続性,永続性
・腎機能障害
・低体重≦50kg
・左房系拡大>45mm
が追加因子でしたが,今回のHELT-E2S2 スコアでは「低体重」「持続性/永続性」が重複していました。
日本独自の新しい心房細動脳梗塞リスク評価ツール・HELT-E2S2 スコアの使い方_a0119856_22242966.png

上記知見をもとに私見を述べますと,
1)CHADS2スコア2点以上あるいは,75歳以上,高血圧のみの1点では抗凝固。
2)糖尿病,心不全は重症であれば単独でも(1点で)抗凝固(この2つのみ1点は少ないが)
3)管理良好の場合は他のリスク,特にHELT-E2S2 スコアで重複した低体重,持続性/永続性ありなら抗凝固
という感じでしょうか。あくまでCHADS2スコアの補助として使うというのが現時点での私のスタンスです(ガイドライン上はあくまでCHADS2スコア1点以上でDOAC「推奨」です)。ただし実際CHADS2スコアはやや古くなった感もあります。今後の検証結果によってはこちらのスコアを重視するといった流れもありうるかもしれないですね。

$$$八幡宮境内を散策中
日本独自の新しい心房細動脳梗塞リスク評価ツール・HELT-E2S2 スコアの使い方_a0119856_22431186.jpeg


by dobashinaika | 2024-03-17 22:31 | 抗凝固療法:ガイドライン | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学・リスク因子
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールドデータ
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
Covid-19
未分類

タグ

(44)
(40)
(35)
(32)
(29)
(28)
(25)
(25)
(24)
(23)
(21)
(21)
(20)
(20)
(19)
(18)
(14)
(14)
(13)
(13)

ブログパーツ

ライフログ

著作
プライマリ・ケア医のための心房細動入門 全面改訂版

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法 [PR]


プライマリ・ケア医のための心房細動入門 [PR]

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌] [PR]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味 [PR]


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から [PR]


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) [PR]


健康格差社会への処方箋 [PR]


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書) [PR]

最新の記事

ヨーロッパ心臓病学会の新しい..
at 2024-09-01 23:53
心房細動とHFrEF:昔から..
at 2024-08-18 21:39
AF burden :新たな..
at 2024-08-15 14:46
高齢の心房細動患者における2..
at 2024-06-25 07:25
2024年JCS/JHRS不..
at 2024-03-21 22:45
日本独自の新しい心房細動脳梗..
at 2024-03-17 22:31
心房細動診療に残された大きな..
at 2024-01-03 23:00
東日本大震災と熊本地震におけ..
at 2024-01-02 16:11
脳梗塞発症後の心房細動患者に..
at 2024-01-01 18:41
ACC/AHAなどから202..
at 2023-12-10 23:12

検索

記事ランキング

最新のコメント

血栓の生成過程が理解でき..
by 河田 at 10:08
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 06:41
突然のコメント失礼致しま..
by シマダ at 21:13
小田倉先生、はじめまして..
by 出口 智基 at 17:11
ワーファリンについてのブ..
by さすけ at 23:46
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
取り上げていただきありが..
by 大塚俊哉 at 09:53
> 11さん ありがと..
by dobashinaika at 03:12
「とつぜんし」が・・・・..
by 11 at 07:29

以前の記事

2024年 09月
2024年 08月
2024年 06月
2024年 03月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 08月
2023年 06月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン