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心房細動における認知症の評価と治療のまとめ:AFNET/EHRAコンセンサス会議から


引き続き,第8回AFNET/EHRAコンセンサス会議の報告から,認知症と心房細動についてです。番号は元論文内の文献番号です。

<心房細動における認知機能障害の評価と治療について>

・心房細動における認知症の原因は:
1)脳卒中(無症候性脳虚血を含む)2)それ以外53,54:全身性炎症、 慢性脳低灌流55 、 薬剤の副作用56。
・心房細動は認知障害や認知症の負担に直接関与し、 介護者や社会にとって間接的に大きく影響6,57。
・認知機能の評価を考慮した統合的な心房細動管理は、認知症のリスクを低減できる1 。
・しかし、観察研究が多く、心房細動治療を認知症予防の関連は、確立されていない。ただしいくつかの無作為化試験が進行中(表1)。
・ESC の 2020 年ガイドラインに具体的な推奨事項がなく1 、医師が心房細動の認知機能への影響について認識していないことが、臨床現場における大きなハードル
・患者、その家族・介護者、そしてプライマリケア医の関与が必要。
・逆に、認知症患者(図4)では、高血圧や糖尿病などの危険因子を共有し、心房細動が発見されないと認知機能がさらに低下する可能性があるため、心房細動のスクリーニングは妥当。

心房細動と認知機能障害(または認知症)の3つの一般的な症例に関するフローチャート:
心房細動における認知症の評価と治療のまとめ:AFNET/EHRAコンセンサス会議から_a0119856_07155741.jpeg
(i) 心房細動が判明しているが、精神状態に問題のない患者、 (ii) 認知障害が判明している患者、 (iii) 心房細動と認知障害の両方が判明している患者。心房細動が判明している患者については、認知機能の簡単なテストにより、認知障害の原因を評価し、可逆的な原因に対して治療を開始するための詳細な評価の必要性を確認することができる。同様に、認知機能障害を呈する患者は、心房細動の機会ごとにスクリーニング(脈拍触診、最終的には心電図)を受け、心房細動が発見された場合は、欧州心臓病学会が推奨するA-B-C (Atrial fibrillation Better Care schemeに従って専門家によって評価・管理すべき。


<認知機能障害患者におけるマネジメントの特質>

・認知機能障害とは、成人の生涯にわたって記憶力、認識力、判断力、精神的な鋭敏さなど、1つ以上の認知能力が低下すること。
・MMSEやMoCA,神経科医による評価,MRIによる画像診断が有用

・残念ながら、認知機能障害は抗凝固療法を中止する要因の一つであり、それによって脳卒中や死亡のリスクが高まる59,60。
・認知機能障害は、ビタミンK拮抗薬の至適治療域になる期間の短さと関連58。

・EAST-AFNET 4試験は、早期のリズム管理と脳卒中リスクの低下の関連を示唆するが4、早期のリズム管理が無作為化後2年の認知機能に影響するという明確なエビデンスはなし36。
・大規模コホート研究では、カテーテルアブレーション患者は、非実施患者と比較して脳卒中と認知症のリスクが減少していた61。潜在的な交絡やバイアスがあるにもかかわらず、抗不整脈薬治療と比較してアブレーションにより心房細動の負担が軽減されたことに起因している可能性あり30。
・しかし、心房細動アブレーションは、MRI を用いた研究においては、無症候性の白質病変も引き起こすとされる。
・したがって、アブレーションによって誘発される脳病変を最小限に抑え,かつ適切な抗凝固療法下でのリズム管理を考慮すべき(図 4)68。

・心血管系危険因子の特定と治療により、 認知症を減らすことができる69 。
・心房細動患者におけるライフスタイルの修正の重要性を指摘する証拠が増えつつある70。定期的な運動による認知症のリスクの低下が指摘されている71。


<心房細動患者における認知機能障害の実際と研究上の意義>

・疑いが強くなくても、心房細動患者において正しい認知機能評価を行うべきである2 。
・心房細動は認知機能障害の独立した危険因子であるため、その存在について評価すべきである。
・認知機能障害の進行を防ぐための最適な(非)医学的治療を目指すべきである73-76。


<ナレッジギャップと研究の機会>

・抗凝固療法が心房細動患者の認知症リスクの低下と関連するという新たな証拠が得られてはいるが、認知(障害)機能と心房細動およびその治療の相互作用を扱うさらなる前向き研究が緊急に必要77,78。
・逆に、リズム管理または併用疾患の治療が認知低下を抑制できるかどうかは不明
・したがって、心房細動の管理戦略を評価するランダム化比較試験では、認知機能の経過も評価する必要がある。MRIなどの評価項目も必要である。

###
1)心房細動と認知機能低下の関連が示唆されている
2)心房細動患者での早期の認知症評価,および認知症患者での心房細動の検出が考慮されるべきである。
3)早期のリズム治療,抗凝固薬,統合的マネジメントが認知症低下リスクを減らすことを示唆するデータは多く取り組むべきだが,前向き研究が少ない

おおよそ以上のようなメッセージかと思われます。カテーテルアブレーションあるいはDOACが認知機能低下を抑制できるか。認知症の経過がそれ自体長期なため,前向き研究は大変ですね。本当に早期になくしてしまえばよいならアブレーションのモチベーションが上がります。もちろん心房細動だけが認知症の要因ではないので,「統合的マネジメント」が基本とされていますね。まあ,認知症予防は本当に可能なのか,すべきなのかという議論がその前にあるわけですが。。

by dobashinaika | 2023-04-20 07:29 | 心房細動:疫学・リスク因子 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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