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心房細動診療の新しい"ABCパスウェイ”:早期リズム管理の重要性


前回に引き続き,第8回AFNET/EHRAコンセンサス会議の報告から,リズムマネジメントについてです。番号は元論文内の文献番号です。

リズムマネジメントの役割増加

<リズムマネジメントのパラダイム>
・リズム管理には、(i)薬物療法、(ii)アブレーション、(iii)除細動、(iv)房室結節治療がある。

・最近の研究は、リズムコントロールの安全性,早期介入の有効性(QOL改善,予後改善)を支持する。AF buedenの低下による効果であるという仮説が明確に支持されている 4,36,37 。

・とくに心血管系疾患を合併した高齢の心房細動患者における早期リズムコントロールの安全性,有効性は、AF-CHF33,CASTLE-AF試験34,ATHENA(ドロネダロン有効性評価)35 およびEAST-AFNET 4(心房細動患者における早期リズム制御療法)4 などのRCTにより証明されており,観察研究でも裏付けられている31,32。

・AFFIRMの時代にくらべリズムコントロールの概念は変化した40。大規模な健康データセットの追加解析が進行中であり、早期リズム管理療法の安全性に関するさらなる情報が得られるかもしれない

・心房細動のABCパスウェイは,今後は従来の適切な抗凝固療法('A')と併存する心血管疾患や危険因子の治療(’C’)にくわえ、「B」の意味が「選択された患者におけるより良いリズム管理」となる可能性がある(図2)。
心房細動診療の新しい\"ABCパスウェイ”:早期リズム管理の重要性_a0119856_18582927.jpeg

<洞調律の維持の試み>
・しばしば治療の反復や適応が必要となる。期待の度合いの管理が大切

・洞調律維持の困難例として;1)無症候性長期持続性心の「レガシー」患者
2)重度の心房心筋症や心房肥大 3)最近の脳卒中の既往、リズム管理を拒否した患者 4)終末期の緩和患者 5)データが限られている超高齢者などがある。

<生涯のリズム管理>
・リズムコントロールを開始時には、慢性疾患であることを伝え、治療法の選択肢を提示する必要がある(図3)。現実的な治療目標を設定が重要。

・ATHENA や EAST-AFNET 4 で示されたように、 抗不整脈薬によるリズムコントロールは、予後改善が期待できる。

・心房細動アブレーションと抗不整脈薬は相乗効果あり43-45。

・ カーディオバージョンはリズム管理の重要な要素であるが、それ自体がリズム維持戦略ではなく、抗不整脈薬またはAFアブレーションへの橋渡し。

・β遮断薬、ベラパミル/ジルチアゼム、ジギタリス、ペースメーカーなどの房室結節治療は、長期持続性心房細動において重要な役割あり。

・しかし、新しいエビデンスによれば、多くの患者に対して洞調律回復を試みるられるべきである。
心房細動診療の新しい\"ABCパスウェイ”:早期リズム管理の重要性_a0119856_18584525.jpeg


<心房細動アブレーション治療の可能性>
・心不全 患者では心房細動アブレーションを優先する可能性が示唆されている34,46 。

・症状の強い患者,AF burdenの軽減が臨床的に重要と思われる患者では、特に早期の場合、心房細動アブレーションも好ましく, 抗不整脈薬治療よりも QOL や症状の改善に有効である 49,50 。

<リズム管理を改善するための実装>
・トレーニングやリソースの提供に大きな影響を与える。各分野の医師,看護師主導の心房細動クリニックや患者教育も非常に重要。
実用的な次のステップとしては、以下のようなものがある

1)抗不整脈薬に関する知識は、心房細動ガイドラインの遵守

2)カテーテルアブレーションへのアクセスは改善される必要あり。よく訓練されたチームによる専門センターに集中したほうがよい。

3)除細動へのアクセスも改善する必要あり。専門センターだけでなく、一般医が鎮静下で行うことができるようにする。vernakalantのような新しい薬によって、より効果的な迅速薬理除細動が可能になる51。

### ABCパスウェイの概念は。もともとLip先生が2017年に提唱し,ESCガイドラインでも,その心房細動診療のコアコンセプトとして掲げられていたものです。
その中では,ABCのBは”Better symptom management”とされていて,あくまでレートコントロールが先に記述され,それでも症状が残る場合にリズム治療を考えるとなっていました。

それが,今回Bは”Better rhythm management in selected patients”のBに変換されています。図2を見ると,レートコントロールが吹き飛んでいますね笑。

心房細動が10年以上にわたり長期に持続した場合,抗凝固薬の使用,脳塞栓症リスクの他に,機能性の僧帽弁あるいは三尖弁閉鎖不全症を合併し,徐々に心房拡大をきたすいわゆる心房機能性MR,TRの状態となるケースが,ここ最近急増しています。従来レートコントロールでもOKとされていた長期持続性AFですが,やっぱりサイナスにしておけばよかったと思うケースです。

もちろん心房細動は進行性の疾患ですから,早期に叩くだけではだめで,背景リスク因子の管理が極めて重要であることは基本ですが。
心房細動診療の新しい\"ABCパスウェイ”:早期リズム管理の重要性_a0119856_19092410.jpg

by dobashinaika | 2023-04-10 05:00 | 心房細動診療:根本原理 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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