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心房細動治療のパラダイムシフト:レートコントロールからリズムコントロールへ:JACC総説から

心房細動治療にパラダイムシフトが起きつつあります。
抗凝固療法は、今や確立され標準化された治療といって良いでしょう。
では何でしょうか?
ズバリ、レートコントロール重視からリズムコントロール重視へのシフトです。

「心房細動患者におけるリズムコントロールの役割の増大」に関するCamm先生のレビューです。
ACCのメルマガをまとめてみました (by Thomas C. Crawford, MD, FACC)


1. 
・心房細動の管理は、2020年欧州心臓病学会心房細動ガイドラインの「ABC」スキームに要約される以下の3つの主要領域からなる
・抗凝固/脳卒中回避のための「A」
・レートおよびリズム管理を用いたより良い症状管理のための「B」
・併発する心血管疾患に対する治療「C」

2. 
PIAF、AFFIRM、RACE、AF-CHF、STAF、J-RHYTHMはリズムコントロールとレートコントロールの戦略間で重要なエンドポイントにほとんど有意差がないことを示した主要な試験である。
・AFFIRMとRACEでは、リズムコントロールの方がレートコントロールに比べて死亡率が高くなる傾向がみられた。
・これらの試験の結果、現在、治療は最初のレートコントロールがデフォルトとなり、リズムコントロールはレートコントロールが十分であるにもかかわらず持続する症状を改善するために提供されている

3.
抗不整脈薬(AAD)は、リズムコントロール療法を行わない場合に比べ、洞調律を維持する可能性が約2倍となる
心房細動アブレーション(肺静脈隔離術)は、リズムコントロールの第一選択治療として使用する場合も含め、洞調律の維持においてAADsよりも有効であり、安全性も良好であることが示されている(RAAFT、RAAFT-2、STOP AF、EARLY-RF、CRYO-First試験)
・しかし、アブレーションは心房細動の一回限りの治癒的治療と見なすべきではない

4.
アップストリーム治療(MRA、ACE阻害薬、ARB、SGLT2阻害薬など)の使用も洞調律の維持と関連していることが示されている

5.
・減量、運動量の増加、睡眠時無呼吸症候群の管理などの生活習慣の調整も、心房細動の負担軽減につながる可能性あり

6.
ドロネダロンは、他より優れた安全性プロファイルがあり、一部の患者集団におけるリズム管理の第一選択の治療法として支持されている
ATHENA試験では、ドロネダロン投与により、主要評価項目である予期せぬ心血管系イベントによる入院または全死亡のリスクが、プラセボ投与に比べ減少することが示された

7.
CASTLE-AF試験では、心房細動と心不全を併発した患者において、カテーテルアブレーションが薬物治療と比較して、心房細動負荷の軽減と左室駆出率の改善に関連していた

8.
EAST-AFNET 4試験は12ヵ月以内に心房細動と診断された脳卒中リスクのある患者が対象
・早期包括的心房細動治療を支持し,一般的治療概念としての早期リズムコントロールの見方を変えている.
・早期リズムコントロール群 vs. 通常ケア群
・一次主要評価項目(心血管死,脳卒中(虚血性または出血性),心不全または急性冠症候群の悪化による入院の複合):早期リズムコントロール群は,通常ケア群と比較して 21% 減少
・脳卒中は約 3 分の 1 減少し,総死亡率は 16% 低下
・安全性の主要評価項目は,両群間で差なし.
・これらのデータは、患者が有症状か無症状かにかかわらず、早期のリズムコントロールが通常のケアに対して一貫した有益な効果をもつことを示している
・EAST-AFNET4ではAADの選択肢としてアミオダロンとドロネダロンが使用され、AAD治療に失敗した患者にはAFアブレーションが可能であり、器質的心疾患のある患者にも安全に使用できること示唆された

9.
ATTEST試験の結果、標準治療の一環としての早期アブレーションは、再発性の発作性心房細動から持続性心房細動への進行を遅らせることにおいてAAD治療単独より優れており、その効果は1年間のフォローアップで明らかになり、3年以上維持されることが示された。

10.
・小コンダクタンスカルシウム活性化カリウムチャネル(SK)阻害剤、TWIK関連酸感受性カリウムチャネル(TASK-1)阻害剤、遅いナトリウムチャネル阻害剤やマルチチャネル阻害剤、パルスフィールドアブレーションやエレクトロポレーションなどの代替切除法など、より有効で安全なAADの探索が活発に行われている。

<Figure 1>

心房細動治療のパラダイムシフト:レートコントロールからリズムコントロールへ:JACC総説から_a0119856_09055422.jpg


<Figure2>
心房細動治療のパラダイムシフト:レートコントロールからリズムコントロールへ:JACC総説から_a0119856_09063345.jpg

<Figure3>
心房細動治療のパラダイムシフト:レートコントロールからリズムコントロールへ:JACC総説から_a0119856_09065976.jpg

### 最初のcentral illustrationをみると、従来のリズムマネジメントは非持続性心房細動の場合、まずレートコントロール、それでも症状があればリズムコントロールで、そのあとでアブかAADかの選択(以前はAADファースト)でしたが、将来の戦略としては、症状に関係なく、まず「リズム+レート」となっています。

それにはEAST-AFNET4、ATTESTといった、アブレーションを始めとするリズムコントロールの優位性を示す試験によるところが大きいです。これらはいずれも早期からの介入の有用性を示しています。

ですので、リズムコントロールの重要性は、早期発見の重要性とリンクしているということができます。そうなると、「いつリズム治療に踏み切るか」が今後非常に重要になってくると思われます。まずは上記Figure 2の患者層を念頭におくと良いと思られます。

患者さんに早期のアブレーションをアクセプトしてもらう環境をいかに作るか。今後現場にますます求められるように思います。大変です笑。



by dobashinaika | 2022-05-21 09:32 | 心房細動:ダウンストリーム治療 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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