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手術の前にルーチンの心電図は必要か?:2022 年改訂版非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドラインが発表されました

開業医でも,担当の患者さんの手術に時に外科系の医師,医療施設から「手術可能でしょうか」というコンサルトをされる場合は多いと思われます。
日本循環器学会から比較的明確な指針が出ましたのでご紹介いたします。


まず 協働意思決定(Shared decision making: SDM)が,強調されています。SDMの実装は実は大変難しいと思われます。

次に非心臓手術のリスク分類を押さえます。周術期の新カッペイ症発症率から低リスク,中リスク,高リスクに分類されています。
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<非心臓手術術前の循環器評価アルゴリズム>
そして「 非心臓手術術前の循環器評価アルゴリズム」です。非常に大切です。STEP1〜5の5段階で評価します。
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STEP1緊急手術かどうか:緊急手術とは「早急に手術しなければ,生命の危険がある」ものです。

STEP2循環器緊急度の評価です。急性冠症候群,重症不整脈,急性心不全,症候性弁膜症の有無を評価します。これらのうち一つでもあればその疾患の侵襲的治療を検討します。これは「多専門科集学的チームで包括的吟味をする」とされています。上記疾患の有無をしっかり確かめることが紹介される側はまず必要と思われます。重症不整脈とはおもに心室頻拍を指すと思われます。

STEP3で,手術自体のリスク評価となります。ここからがとくにプライマリ・ケアの現場では大切となります。
まず低リスク手術,中リスク以上の心血管手術,血管手術の3つを区別します。以下の表10を参考にします。低リスク(新合併症率<1%)には,泌尿器科小手術,口腔外科手術,眼科手術,体表の手術などが該当します。白内障手術なども低リスク手術です。

低リスク手術であれば「手術へ」となります。
中リスク以上であれば「RCRIを用いた周術期イベント評価」を行います。RCRIは広く用いられているスコアリングシステムで以下のとおりです。中リスク以上の非血管手術では,このスコアが0〜1項目なら手術,2項目以上ならDASIスコアなどでの運動耐容能評価,血管手術なら0項目で手術,1項目以上ならDASIなどで評価です。DASIはイアの質問による自己評価です。
運動耐容能の代替案としてBNP または NT-pro BNP の測定を考慮してもよいとなっていますが推奨クラスは IIbです。
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<術前心電図,経胸壁心エコーは?>
よく白内障手術などで,ルーチン心電図の評価を依頼されることがありますが,推奨クラスはIII (No benefit)です。いくつかのランダム化試験で日帰り手術,白内障手術に関しては,ルーチンの術前 12 誘導心電図の有無で周術期の予後に差がみら
れず,低リスク手術のルーチンの 12 誘導心電図の意義は少ないとされています。もちろん病歴や身体所見で,心血管疾患
が疑われる患者さんは,周術期でなくても心電図はとると本文中で指摘されています。

同様に術前の経胸壁心エコー推奨されていません。ただし,原因不明の呼吸苦が存在する患者や,既知の心不全があり症状の悪化を認める患者に関しては術前 TTE を施行することを考慮する,ことが本文中に明記されています。
要するに,症状,身体所見で心疾患を示唆するものがない時に,ことさら心電図や心エコーを思考する必要
はないということかと思います。

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もし「手術可能でしょうか」というコンサルトが来た場合は,このアルゴリズムを吟味して回答することが現時点で有用と思われます。

なお急性冠症候群,重症不整脈,急性心不全,症候性弁膜症の各論はガイドラインを参照ください。

同じく周術期の抗血栓療法についても,いつも悩ましいところですが,2020年のJCSフォーカスアップデートからさらにやや改変されたものが本ガイドラインで掲載されています。
これは明日ご紹介します。

by dobashinaika | 2022-03-26 07:02 | 循環器疾患その他 | Comments(0)


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