人気ブログランキング | 話題のタグを見る

米国USPSTFの心房細動スクリーニングについての推奨:現時点では利益と害のバランスを評価できるだけのエビデンスは不十分


US Preventive Services Task Force(USPSTF)から50歳以上の,無症状の心房細動に対するスクリーニングの推奨に関するステートメントが出ています。

【USPSTFの推奨はなにか?

・50歳以上の心房細動の記録や症状のない患者において
=心房細動のスクリーニングについての利益と害のバランスを評価するに現時点のエビデンスは不十分である(グレードI)

【この推奨は誰に適応があるか?】
・50歳以上の,心房細動の診断や症状がなくTIAや脳卒中の既往のない成人

【何が新しいか?】
・2018USPSTFの心電図スクリーニングの推奨に合致
・今回2021推奨は,自動血圧計,パルスオキシメーター,スマートウォッチ,スマートフォンアプリといったスクリーニング方法も含む

【この推奨をどう実装する?】
・心房細動スクリーニングを推進するまたは反対するエビデンスは不十分。脳卒中予防のための利益を確定するにはさらなる研究が必要
・臨床家はスクリーニングすべきか,するとしたどうすべきかついて診療的判断をする必要がある。その際USPSTFとしては通常診療の一部として検脈を考慮する事が重要と考える

【この推奨に関する追加の情報として何を知るべきか?】
・心房細動の有病率は年齢とともに上昇し,55歳未満では0.2%なのに対し,85歳以上では約10%である
・心房細動患者はかなりの脳卒中リスクを有し,他の原因に比べ心房細動関連脳卒中はより重篤である
・しかし,ある種のアプローチで同定されるような潜在性心房細動(デバイスでのみ同定され,臨床的には顕在化せず,おそらく短時間持続)に関連する脳卒中のリスクは不確かである
・潜在性心房細動に抗凝固療法が妥当であるかどうか,どの程度が妥当か(持続時間または発現頻度)はわかっていない

【なぜこの推奨がトピックであり重要なのか?】
・心房細動は最も一般的な不整脈であり,脳卒中の主要リスクでありながらしばしば発見されないから

【追加のツールあるいはリソース】
米国USPSTFの心房細動スクリーニングについての推奨:現時点では利益と害のバランスを評価できるだけのエビデンスは不十分_a0119856_21532442.png

### 根拠としているのは以下の2つの総説です。
特に後者は最近の総説であり,即,読むに値します(後日読み込みます)。

これらの総説では,特に24時間以内の短持続時間や全体の持続時間(AF burden)が少ない場合のの脳卒中リスクは不明であり,抗凝固薬使用の妥当性も不確定だとしています。

一方スクリーニングによる害としては,テスト陽性による不安あるとしても重大な害ではないとしながらも,誤診(偽陽性)による治療,特に抗凝固薬の出血リスクや薬物,非薬物療法による有害事象を招くことがある。また心電図で他の異常が見つかりさらなる検査や試験が必要となることもある,としています。

現時点の冷静な判断ですが,いまやそうした「待ち」の姿勢を嘲笑するかのように,各種のデバイスが競うように開発されつつあります。ただ,現時点ではまだ感度,特異度に難がありデバイス単独では臨床に不可欠となるまでの存在感はありません。アップルウォッチを本当に必要な人に普及するにはまだ精度とコストの点で遠いものがあります。
で,何より,この論文の指摘のように,どの程度AF buednがあれば治療の対象になるのかが不鮮明なのです。

そこがしっかり明確にならないと,一回アップルウォッチで不整脈が見つかったからと言って,すぐ抗凝固とは行かないわけです。もちろんその他のデバイスや臨床的リスクファクターを加味しての総合的な尤度比を向上させていく必要があります。
セッティングデータが決まればあとはAIがやってくれるとなりますが,最初のセッティングをどう決めるか。あとやはりAIのディープラーニングは可視化できないか(そうでないと宗教に近づく予感が)。

尽きせぬ問題と興味があります。


by dobashinaika | 2022-01-27 21:57 | 心房細動:診断 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学・リスク因子
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールドデータ
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
Covid-19
未分類

タグ

(44)
(40)
(35)
(32)
(29)
(28)
(25)
(25)
(24)
(23)
(21)
(21)
(20)
(20)
(19)
(18)
(14)
(14)
(13)
(13)

ブログパーツ

ライフログ

著作
プライマリ・ケア医のための心房細動入門 全面改訂版

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法 [PR]


プライマリ・ケア医のための心房細動入門 [PR]

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌] [PR]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味 [PR]


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から [PR]


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) [PR]


健康格差社会への処方箋 [PR]


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書) [PR]

最新の記事

ヨーロッパ心臓病学会の新しい..
at 2024-09-01 23:53
心房細動とHFrEF:昔から..
at 2024-08-18 21:39
AF burden :新たな..
at 2024-08-15 14:46
高齢の心房細動患者における2..
at 2024-06-25 07:25
2024年JCS/JHRS不..
at 2024-03-21 22:45
日本独自の新しい心房細動脳梗..
at 2024-03-17 22:31
心房細動診療に残された大きな..
at 2024-01-03 23:00
東日本大震災と熊本地震におけ..
at 2024-01-02 16:11
脳梗塞発症後の心房細動患者に..
at 2024-01-01 18:41
ACC/AHAなどから202..
at 2023-12-10 23:12

検索

記事ランキング

最新のコメント

血栓の生成過程が理解でき..
by 河田 at 10:08
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 06:41
突然のコメント失礼致しま..
by シマダ at 21:13
小田倉先生、はじめまして..
by 出口 智基 at 17:11
ワーファリンについてのブ..
by さすけ at 23:46
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
取り上げていただきありが..
by 大塚俊哉 at 09:53
> 11さん ありがと..
by dobashinaika at 03:12
「とつぜんし」が・・・・..
by 11 at 07:29

以前の記事

2024年 09月
2024年 08月
2024年 06月
2024年 03月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 08月
2023年 06月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン