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診療看護師主導の高齢者心房細動患者に対する統合的ケアは,通常ケアに比べ全死亡率を45%減少させる:EHJより


目的:プライマリケアにおける心房細動の統合的ケアは安全に組織化できるのか

方法:
・ランダム化,オープンラベル,非劣性,オランダ,プライマリ・ケアプラクティス
・26施設(15:統合的ケア,11:通常ケア),65歳以上の心房細動患者
・統合的ケア:1)訓練された看護師による年4回のチェックアップ,併存疾患
への介入に焦点 2)抗凝固薬のモニタリング 3)循環器医から抗凝固クリニックへの簡便なアクセス
・主要エンドポイント:全死亡,2年追跡

結果:
1)介入群527例,通常群713例。平均77歳(中間位72-83歳)

2)全死亡:介入群3.5/100人年 vs. 通常群6.7/100人年。修正ハザード比 0.55; 95%CI0.37–0.82

3)非心臓血管死:修正ハザード比 0.47; 95%CI0.27–0.82

4)他の有害事象:有意差なし
診療看護師主導の高齢者心房細動患者に対する統合的ケアは,通常ケアに比べ全死亡率を45%減少させる:EHJより_a0119856_06504165.jpg

結論:プライマリケアにおける高齢者の統合的ケアは,通常ケアに比べ全死亡率を45%減少させた。

### 前回に引き続き統合的ケアに関するランダム化試験です。前回のRACE4試験を受けて,
訓練された施設の看護師によるケアで高齢者を対象にしています。

介入の内容が一番気になりますが,以下のとおりです。
内容:
1)フォローアップ:
・対面による治療,予防(非心血管疾患も含む)についての構造化シート(ガイドラインベース)を用いてのチェックアップ
・特に心不全,心拍数,ECGは必要かどうかの評価,生活習慣についての患者教育/エンパワーメント

2)個別化された抗凝固モニタリング:
・定期的なコアグチェックによるINR測定
・オンラインによる発熱,痛み,併用薬剤や食物の変化などの情報共有
・「back-office」的な抗凝固クリニックの活動(ワーファリン投与量のカレンダーをプライマリ・ケア医や患者に送付する)
・一部患者では自己INR測定
・NOAC患者:アドヒアランス,患者教育,腎機能モニター(チェックリストによる)

3)専門医との密接な連携
・循環器医,抗凝固クリニックへのイージーアクセス
・循環器医:フォロー当初に,外来フォローから離脱できるかをコンサルトされる→継続なら補助的に参加

いつ,どのように:
・年3回診療看護師,年1回プライマリ・ケア医を受診
・INR測定は年20回

誰が:
・診療看護師,スーパーバイザーとしてのGP
・休日での継続のための診療助手によるINR測定の訓練

スタッフ教育(診療看護師,医師,診療助手):
・スタート時,筆頭責任者,専門医,抗凝固クリニックによる4時間のトレーニング
・心房細動治療,併存症,抗凝固モニタリング(INR測定含む),紹介基準
・2年で3回の評価ミーティング,知識,実践的問題,興味深いあるいは複雑なケースの共有

開始/コーディネーター:診療看護師

ケアの視点:Holistic.

場所:プライマ・ケア診療所(必要であれば患者自宅)

責任:共同責任,基本的にはGP(VKAカレンダーについては抗凝固クリニック)

患者教育
・心房細動についての知識,併存症,抗凝固薬のアドヒアランスの重要性,医師相談のタイミング
・大きな診療所ではイブニングカンファ開催
・全患者に15ページのブックレット配布
・重要なことは,患者が進んで受診ごとの教育(特にアドヒアランスについての)に参加すること

コミュニケーション:
・アクセスの簡便性を重視:コンサルトには電話,デジタル機器を通じたオンラインポータルを使用
・実例:90歳心房細動症例。肺炎のためGPの訪問診療を受ける→GPは抗菌薬処方と診療看護師へのINR採血をその日に指示→INR高値を確認→抗凝固クリニックにコンサルト→ビタミンK の投与と短期間INR測定が計画される

#### 当医院でも一昨年から診療看護師を採用し,診療の多くを担っています。事前問診と医師診察後の患者教育は大半が看護師の仕事となっていますが,効率の点でもまた患者さんのアドヒアランス,情報収集においても大変グレードアップした印象があります。

日本ではその地位はまだ高くありませんが,欧米では薬剤処方やデバイス管理など,相当程度診療看護師が権限が有している状況であり,今後特に看護師,あるいは薬剤師などとのタスクシェアはプライマリ・ケアのおいて非常に重要な位置を占めると考えています。

今回の論文の介入内容については,確かにこれだけのことをすれば否応なく患者さんはじめGP,スタッフも抗凝固薬のリスク・ベネフィットに関し意識高い系に参入できそうですが,逆にここまではできないという相当ハードルの高いものです。しかしそのエッセンス,たとえばGP,診療看護師と専門医とのイージーアクセスや,初期の患者教育ツールなどシステムとして構築することの重要性など学ばなければならない点は多いと思われます。

もう一つ大事な点は診療報酬です。今回の介入内容は確かにボリュームがありますが,受診は年3回です。少ない受診でその代わり1回の内容が濃い。その分実装には診療報酬の裏付けが必要と思われます。診療看護師もそうです。

それにしても,45%死亡率減少というインパクトは大きいですね。そこまでケアの力が絶大とはやや驚きます。クラスターごとのランダム化なので,バイアスが入り込む可能性はあります。患者背景を見るとワーファリン服用者が74-80%と多いです。INR教育は成果が上がりやすいかもしれません。また介入群のほうが年齢が若く,心不全,利尿薬投与例が少ないようです。補正があるとはいえ,背景の違いは考える必要はあるかもしれません。

マルモに対しては,こうしたシステムの構築こそが重要ですね。多職種間の横断的な連携と,病院ーGP間の縦断的なつながり。スタッフ間ばかりでなく,患者さんがいろいろな職種,場に接することの大切さ。もはや患者ー医師だけの1対1診療に安住してはいられません。
診療看護師主導の高齢者心房細動患者に対する統合的ケアは,通常ケアに比べ全死亡率を45%減少させる:EHJより_a0119856_06510491.jpg

by dobashinaika | 2021-01-19 06:55 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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