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European Heart Journalの循環器2019年,心房細動編のまとめ(その1)です

あけましておめでとうございます。ことしも「心房細動な日々」をよろしくお願い申し上げます。
ことしはESCのまとめからです。


【リスク評価】
<心房細動の発症予測>
・BMI,睡眠障害が心房細動リスクに関係あり
・多くのリスクスコアの予測能は高リスク例に関して中等度だが,最近多変量解析に基づく複合モデルの提案あり
・C2HESTスコアはアジア発でフランスの脳卒中後コホートとデンマークの国民登録で外挿評価されたもの。脳卒中後のターゲットを絞った心房細動スクリーニングを支援
・対照的にNOACとESUS (embolic stroke of unknown source)に関する2つのRCTは脳卒中減少は示されず,NAVIGATE-ESUSでは出血が増えた

<心房細動の早期診断>
・Apple Watch studyでは,脈不整の警告を受けた者のうち34%で心電図パッチによる心房細動を検出。アップルウォッチとパッチの同時検出時の一致率は84%
・Huawei Heart Studyは,フォトプレチスモグラフィーを用い陽性適中率91.6%であり80%以上が抗凝固使用を改善させた

<脳卒中のリスク評価>
・肥大型心筋症,画像診断で明らかな冠動脈疾患においてリスク評価法が進化。両者とも機械学習を使用
・Patient Cantered Outcome Research Institute (PCORI)によるレビューでは,CHA2DS2-VAScスコア,HAS-BLEDスコアがの卒中と出血リスク評価においてベストのリスクスコアだった
・修飾されたリスク因子に焦点を当てた出血リスク予測は,HAS-BLEDより劣った

<バイオマーカーによる予測>
・高度にセレクトされたコホートにおいてバイオマーカーの使用は提案されてきたが,リアルワールド研究での有用性は示されていない
・ある研究では,バイオマーカーの追加は脳卒中や出血リスク予測能を改善しなかった
・心房細動と診断された患者が抗凝固療法を受けることにつながるデータもいまのところなし
・知っておくべきなのは,多くのリスク評価がベースラインの評価に基づいており,動的で年齢とともに変わるということである

【臨床におけるNOACと心房細動管理】
・NOACは心房細動脳卒中予防の景色を変え,多くのガイドラインで望ましい選択とされているが,高リスク群に関する臨床試験は少なく,アドヒアランス,パーシシテンス同様課題の残る分野である

<全般>
・4番目のNOAC(エドキサバン)に関するリアルワールドデータが初めて発表された
・高齢者におけるNOACのデータも増えており,80歳以上の超高齢者でも有効性と安全性が明らかに示されてきた
・オンラベルでアドヒアランスの高い用量設定が高いアウトカムを得られるとの追加データが,例えばダビガトランで示されている
・AEGEAN研究ではアピキサバンで90%という高いアドヒアランス/パーシスタテンスが示されたが,介入によりさらに向上するまでには至らなかった

<腎機能>
・クレアチニンクリアランス高値(>95)群では,すべてのXa阻害薬でワルファリンより虚血性脳卒中が相当多かった。リアルワールドデータにおいては明白ではなかったが
・末期腎不全においては,安全性においてアピキサバンがワルファリンを上回った

<アブレーションとPCI後のNOAC>
・アブレーション時には,NOAC中断なしのストラテジーがワルファリンより安全であった
・心房細動合併急性冠症候群(PCI施行)では,AUGUSTUSとENTRUST-AF PCI研究でNOACベースのレジメあるいは抗凝固薬+P2Y12阻害薬のdual therapyが出血を低減した
・血栓/虚血アウトカムはtriple therapy,dual therapy,NOACベースはいずれもワルファリンに比べ差がなかった。
・しかしdual therapyはステント血栓と心筋梗塞が多かったため,こうした患者には最初の短期間はtriple therapyにメリットが有る
・安定狭心症においては抗凝固薬単独療法がdual therapyより良好であることがAFIRE試験で示された

<心房細動の統合マネジメント>
・心房細動の統合マネジメントの概念が提案されているが,簡便で実行しやすいという観点からの適応や実装についての評価はなされてこなかった
・統合マネジメントは死亡率と入院を低減する
・プライマリーケア及びセカンダリーケア(専門医,非専門医を含む),患者自身にとっての意思決定アプローチとして, ABC (Atrial fibrillation Better Care)がある
・ABCとは:Avoid stroke(脳卒中予防),Better symptom management with patient-centred symptom directed decisions on rate or rhythm control(リズム/レートコントロールにおいて患者中心の症状に基づく管理),Cardiovascular and risk factor optimisation, including lifestyle changes(ライフスタイルを含む心血管リスク因子の最適化)
・ABCパスウェイアプローチは死亡,入院,有害事象,コストを減らすことが報告されている
・アプリを使ったABCパスウェイ管理の有用性がRCTで示されている
European Heart Journalの循環器2019年,心房細動編のまとめ(その1)です_a0119856_07233462.png

### European Heart Journalに発表された循環器2019年この1年,「不整脈とペーシング」部門のうち心房細動に関する記事をまとめました。今日はリスク評価と抗凝固療法。アブレーション,デバイス関係は後日まとめます。

リスク評価については,アップルウォッチが目を引いたのと,ESUSでのNOACの不調が挙げられています。脳卒中リスクとしてはやはりCHA2DS2-VAScスコアとHAS-BLEDがよくて,バイオマーカーは今ひとつ。

NOACでは,高齢者,腎機能低下,アブレーション周術期でも安全で,ACSではNOACデースのdual therapy(超急性期はtriple),安定狭心症ではNOAC単剤がよい。

全体としてはABCパスウェイを念頭にやりましょう,という感じです。このアルゴリズムもあるいは全体の論文の引用にもLip先生の影響が大きい印象です。

現時点でのパースペクティブとしては,NOACは治療としては確立され洗練されてきていてある程度の高リスク例でも使えることが示されてきた(ESUSでは不明だが),今後はデバイスによる早期発見だーというトレンドを感じます。

当ブログの年間ベスト5も(だいぶ遅れましたが)近々まとめます。

$$$ 新幹線から見たお正月の富士山。東北新幹線からでもきれいに見えます
European Heart Journalの循環器2019年,心房細動編のまとめ(その1)です_a0119856_07273054.jpeg


by dobashinaika | 2020-01-08 07:30 | 心房細動診療:根本原理 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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