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今,抗凝固療法で何がわかっていないのかー不整脈におけるknowledge gapsを明らかにする:EP誌


欧州不整脈学会(EHRA)から,不整脈分野で未だに不明な事項,いわゆるknowledge gaps に関する詳細な検討が発表されています。

膨大ですが,私たちの診療基盤に多くの示唆を与える内容と思われます。

本日は「脳塞栓予防,抗凝固療法:戦略とリスク層別化」

【リスク層別化】
・広く認められ,シンプルなものとしてCHADS2スコア,CHA2DS2-VAScスコアあり
・低,中,高リスクに分類
・どのスコアも予測能は中等度(ハイリスク群のc-統計量は0.63)
・スコアの組み合わせをしても0.65
・バイオマーカー(血液,尿,画像)を加えても0.7未満
・多くのバイオマーカーに関する試験が行われているが高リスク群および低リスク群への適応が妥当かは不明
・既存のスコアは新リスク因子(肥満,睡眠時無呼吸,境界型高血圧,腎障害)は考慮されていない
・心エコーの各種因子の評価については限定的で一致を見ていない
・リウマチ製弁膜症,機械弁をのぞいた弁膜症の評価は一定しない
・知識の空白には,CHA2DS2-VAScスコア0点のリスク,1点の人の多様性,追加リスクの評価や数値化の困難さなども含まれる

【抗凝固戦略】
・脳卒中予防はNOACの登場で変化した。
・NOACはVKAよりも有効,安全で簡便
・観察研究からは,よく管理されたワルファリン治療(TTR>75%)はNOACとほぼ同等の有効性だが,重篤な出血はNOAC のほうが低い
・著明な弁膜症,腎障害(腎移植含む)におけるNOAC使用については不明
・薬理学的指標による小規模試験は進行中だがRCTなし
・RCTは皆CrCL<30(アピキサバンは<25)
・脳卒中後早期,あるいは頭蓋内出血進行中の患者に対するNOAC使用は証明されていない
・NOACのRCTからは頭蓋内出血既往例は除外されている
・特殊なタイプの心房粗動,心房頻拍については不明
・新しい治療オプションとしてXI因子阻害薬,テカファリンに関するRCTが進行中

【左心耳閉鎖術(LAAO)】
・LAAO vs, NOACのデータはなし
・LAAO後アスピリン投与が行われているが十分確立されていない
・現在表にあるトライアルの他に以下のトライアルが進行中
1) LAAO vs. NOAC
2) WATCHMAN)vs. リバーロキサバン
3) LAAO vs. エドキサバン(パイロット試験)
4) LAAO後の最適な抗血小板薬治療(SAFE-LAAC)
5) 複雑冠動脈病変へのDES挿入後患者におけるLAAO vs. 抗血栓薬
6) 頭蓋内出血後抗凝固薬回避(A3ICH)
7) AMPLATZER™ Amulet™による左心耳閉鎖(Amulet IDE)
・以上にもかかわらず,左心耳と脳卒中の関係性は依然として評価されていない
・左心耳の解剖,血栓形成,LAAO後の内皮リモデリング,血栓マーカーのインパクトについては不明

### よりシンプルにまとめます。
<リスク評価>
・CHADS2スコア,CHA2DS2-VAScスコアの予測能はそれほど高くない
・各種バイオマーカー,新リスク因子,心エコーの指標の評価一定しない
・各スコアの低リスク例への適応は不確か

<抗凝固戦略>
・著明な弁膜症,腎障害,脳卒中後早期,頭蓋内出血後,心房頻拍などへのNOAC使用については不明

<LAAO>
・LAAOがNOACより有効か,安全かのデータなし
・LAAO後のアスピリンは十分確立されていない
・左心耳と脳卒中の(厳密な)関係性は解明されていない
今,抗凝固療法で何がわかっていないのかー不整脈におけるknowledge gapsを明らかにする:EP誌_a0119856_06412702.png

### はっきり言ってこの記事はかなり素晴らしいです。

今何が「わかっている」のか,ビジネスにも絡むことでありさんざん喧伝されていますが,一方「何がわかっていないのか」をあきらかにすることは疎かになりがちです。というか,しかしながらというか,わからないことをか明らかにしてそこを解明していくことこそ科学の基本姿勢でもあります(そしてそれも資本主義の精神に実はマッチしているわけですが)。

しかしこうしてみると,現在はっきりと分かっていることは実は驚くほど少ないということがわかります。今知りたいことの多くは「限定的知識」でしかない感じですねえ。

でも極論すればどんな知識も「限定的」であり相対的であり,しかしその中で少しでもその限定の範囲を広げ深めていくことが医学であると思われますので,だからこそこうしたまとめが重要と言えます。

他の不整脈については後日紹介します。

$$$ 往診後立ち寄った近所の公園。満開です。
今,抗凝固療法で何がわかっていないのかー不整脈におけるknowledge gapsを明らかにする:EP誌_a0119856_06294955.jpg


by dobashinaika | 2019-04-10 06:44 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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