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日本の不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)が発表されました

先日横浜で開催された第83回日本循環器学会学術集会と同時発表されました「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)」について概観します。


膨大ですので,とりあえず心房細動のところだけ。

4.1.3 AF アブレーションの治療適応

<推奨クラス I:評価法・治療が有用,有効であることについて証明
されているか,あるいは見解が広く一致している.>
・薬物治療抵抗性の症候性発作性 AF(高度の左房拡大や左室機能低下を認めず)(エビデンスレベル(A)

<推奨クラス IIa:データ,見解から有用,有効である可能性が高い>
・症候性再発性発作性 AF に対する第一選択治療としてのカテーテルアブレーション(B)
・心不全(左室機能低下)の有無にかかわらず,同じ適応レベルを適用する(B)
・徐脈頻脈症候群をともなう発作性 AF (B)
・症候性持続性 AF (B)

<推奨クラス IIb:有用性,有効性がそれほど確立されていない>
・症候性長期持続性 AF (B)
・無症候性発作性 AF で再発性のもの(C)
・無症候性持続性 AF (C)

<推奨クラス III:評価法・治療が有用でなく,ときに有害となる可能
性が証明されているか,あるいは有害との見解が広く一致している>
・左房内血栓が疑われる場合(A)
・抗凝固療法が禁忌の場合(A)

※ 薬物治療抵抗性:少なくとも 1 種類の I 群または III 群抗不整脈薬が無効

<症候性AFのフローチャート>
日本の不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)が発表されました_a0119856_00021058.png
< AF カテーテルアブレーションの適応に関する総合的判断>
日本の不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)が発表されました_a0119856_00034850.png
4.3 AFアブレーション周術期の抗凝固療法

<推奨クラス I>
・ワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者では,休薬なしでAF アブレーションを施行することが推奨される(B)
・ヘパリンは,鼠径部穿刺後あるいは心房中隔穿刺後に至適用量をボーラス投与し,アブレーション手技中は ACT 値を 300 秒以上に維持する(B)

<推奨クラス IIa >
・持続性 AF および高リスク例(CHADS2 スコア 2 点以上)では,ワルファリンあるいはDOAC を,少なくとも 3 週間以上使用すべきである(C)
・リバーロキサバン,アピキサバンによる抗凝固療法が行われている患者では,休薬なしで AFアブレーションを施行することが推奨される(B)
・エドキサバンによる抗凝固療法が行われている患者では,休薬なしで AF アブレーションを施行することは合理的である(B)
・DOAC による抗凝固療法が行われている患者では,AF アブレーション施行前に抗凝固薬を1 もしくは 2 回休薬し,アブレーション後に再開することが推奨される (B)
・術後の抗凝固療法(ワルファリンあるいは DOAC)は,再発の有無にかかわらず,少なくとも 3ヵ月間継続することが推奨される(C)
・術後 3ヵ月以降の抗凝固療法(ワルファリンあるいは DOAC)に関しては,長期経過観察期間中の AF 再発を考慮し,CHADS2 スコア 2 点以上の患者では継続投与することが望ましい(C)

### 学会発表と同時のWeb掲載でしたので,現時点で世界で最も新しいアブレーションのガイドラインです。

AFアブレーションの最も良い適応(推奨度I)は「抗不整脈最低1剤使用でも発作が起きる発作性心房細動」です。いきなりするのは推奨度IIaです。しかしながらはじめから症候性のAFで抗不整脈薬1剤程度で発作が起きない症例は少ない(かあっても軽視される?)ので,事実上現在は発作性AFであれば禁忌のない限りアブが第一選択という共通認識が不動になりつつあると思われます。

また持続性(1年以内持続)では,抗不整脈無しでいきなりアブで良いとなっています。

一方,心不全合併AFはCASTLE-AF試験などの知見を踏まえ推奨度IIaで,心不全の有無で推奨度を区別しないとなっています。最近UpdateされたAHA/ACC/HRSガイドラインでは心不全AFのアブはIIbとなっていて微妙な差があります(米国のは死亡率低下や心不全入院減少のためのアブ,となっていますが)。

無症候性心房細動に対してはIIbですから,どうしても現場で必要と判断された場合に限定かと思われます。

高齢者心房細動の推奨度は示されませんが,「アブレーションの効果の高い発作性 AF 例においては,日常生活動作の保たれている高齢者(おおむね 75 歳以上)での治療適応を若年者と同様に考えることは,妥当な判断と考える.しかし一方で,高齢者の持続性および長期持続性 AF へのカテーテルアブレーションの適応の妥当性は,若年者よりも低いと判断する」と記載されています。

「総合的判断」のトリアスに示されるように,年齢,症状,進行度の3因子を総合的に判断することが提唱されています。

個人的にはCAVANA試験で予後改善が示されなかったこともありますが,最も知りたいのは「アブレーションをすることでどのように症状や運動耐用能が改善し,どんなふうに生活や生きることへの意欲が変わるのか」ということなんですが,これはじつはプライマリケア医がいちばん知っている(べき)ことなんですね。

### 今回の改定で嬉しいのは,アブレーション前後の抗凝固薬使用について教えてくれているところです。
アブレーション前少なくとも3週間の抗凝固療法と,休薬なしのアブレーションが勧められています。このときワルファリンとダビガトランはエビデンスの多さから推奨度Iでその他のNOACはIIaのようです。

アブが成功した後に抗凝固療法をするかどうかがプライマリ・ケアでは注目ですが,少なくとも3ヶ月は必ず行い,3ヶ月後はCHADS2スコア2点以上はずっと継続となっています。

0点については本文の中で「3ヶ月後に中止可能」と述べられていますが,1点については「判断は難しいが,発作性か持続性か,塞栓リスクと出血リスク,左房径,BNP 値,D-dimer 値,患者の意向などを総合的に判断し,中止または続行を決定する」と言及されています。

実際1点でもやめないほうが無難と考える医師も少なくないため(無症候性の再発も考えると),抗凝固薬を継続している患者さんはよく見かけます。そうなるとアブレーションしたからといって抗凝固薬の呪縛から逃れる人はあまり多くはないということにもなりそうです。

なお注目の左心耳閉鎖デバイスについては,推奨度は示されず,「左心耳閉鎖デバイスは,NVAF に対する長期ワルファリン内服の代替療法となる可能性が示されたが,ワルファリンと同等に有効で,より安全とされる直接作用型経口抗凝固薬に対する有効性・安全性を検証する RCT は行われていない」との記載にとどまっています。

この時代,大変な労作のガイドラインと言えますが,GRADEシステムは用いられていないようでガイドラインそのものとしての評価は今後の判断となろうかと思います。

$$$ しかし今回の横浜での学術集会。ツイッターでのスライド紹介が大幅に緩和されて,担当医師による大量のスライド撮影やコメントがタイムラインに洪水のように押し寄せてきました。非常に壮観でかつ勉強になりました。

これ実現させた学会情報広報部の努力に敬意を評したいと思います。学会員数から見て盛り上がりは途上とは思われますが,一つのプラットフォームとして機能していくことを期待したいです。
日本の不整脈非薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)が発表されました_a0119856_00061836.jpeg

by dobashinaika | 2019-04-02 00:22 | 抗凝固療法:ガイドライン | Comments(0)


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