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心房細動,もしくは「疾患」の多様性をどう記述したらよいか,あるいは心房細動を記述することの今日的意味

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。

昨年はこれまでに比べて,ブログの更新回数が減少しました。論文読みをサボっていたわけではなくて,プライマリー・ケア関係の実践や学習へのタイムシェアが思いのほか多くて,ブログ発信まであまり手が回らなかったというのが実情です。

しかし,たまに講演会などや年賀状その他でいろいろな方から激励されるにつけ,当ブログへの期待は自分が思っていた以上に大きいというのが,更新回数が少なくなってから改めて気づいたことでもあります。今年はこれまでより厳選した形で重要論文はくまなく紹介するようにしていきたいと思います。

さて,最近改めて思うことのひとつに,「疾患は多様性を重視して捉えたい」ということです。疾患というのはひつとのカテゴリー,概念であり,何らかの共通項でくくられた集合体ですので,当然のことながらそこには様々なケースが含まれています。たとえば心房細動なら,「若年者で飲酒後翌朝に起きた人生初の心房細動」もあれば,「30年来続く90歳の永続性心房細動」もあります。これらを十把一絡げにして「抗凝固薬はCHADS2スコア何点以上で必須」と断言することはできないわけです。

ただ,疾患は多様ですが,それを重視しすぎると今度はなんの意思決定も出きないというジレンマに陥ります。特に「高齢者,超高齢者の心房細動」はそういう「」でくくっては本当はいけない程の多様性を有していると言ってよいかと思います。

多様性に気圧されることなく,「そのひとの」疾患をわしづかみにするにはどうすればよいか。一つの便法は疾患を時間軸と空間軸の2方向からつかまえるやり方です。

時間軸というのは,その疾患を持った人がその疾患のタイムコースのどの位置にあるのか,具体的には原因・背景はなにか(過去),病期・病型はなにか(現在),予後はどうなるのか(未来)を大まかに把握することです。

空間軸というのは,その人がその疾患意外に持っている属性です。年齢性別は言うに及ばずですが,特に大事なのは「併存疾患」「社会心理的因子」の確認です。

心房細動も,この2軸把握法を個々の患者さんごとに適応することをおすすめします。
やってみましょう。

時間軸として,まず心房細動の原因は様々ですが,ESCガイドライン,吹田スコアなどから,年齢,血圧,肥満,アルコール,冠動脈疾患,喫煙をベースに,弁膜症,心不全,甲状腺機能亢進症,COPD,SAS,CKD,過度の運動などがあります。

病型は,ESCガイドラインから「初発」「発作性」「持続性」「長期持続性」「永続性」に分けられます。病期進行は,年間5〜8%程度の速度で発作性から持続性に移行します。また最近はAF burdenという,それまでどのくらい心房細動が負担になってきたかを累積時間や発作回数から評価する概念も重要視されています。

予後は,心房細動の人の死亡の主要因は,心不全,悪性腫瘍,脳卒中などですが,決して脳塞栓症が上位ではなくむしろ抗凝固療法下では低率で,非心臓死が多いこと。心臓死では心不全が要注意で特に心房細動がもとからあって後で心不全を合併するとより予後が悪いことが押さえます。また最近では認知症の発症・進行を促進することが知られてきています。

空間軸としての併存疾患は,上記の原因(背景因子)と重複しますが,やはり心不全合併の早期診断と,高血圧管理がとりわけ重要です。

さらに大事な点は「社会心理的因子」です。もはやあらゆる疾患を理解する上で,医学的な「背景因子」や「併存症」と同等あるいはそれ以上に重要なのは,その人の経済状況,家族や地域内でのつながりの程度,そして疾患や治療および医療者に対する心理です。これらは治療特に服薬の遵守度(アドヒアランス)や病状の進行度を大きく左右します。この点は医学的という範疇からは外れやすくつい軽視しがちですが,もはや超ド級にしっかり押さえなければなりません。

心房細動の人を見たら,こうした2軸法を駆使すれば,たとえば「80歳男性。背景に高血圧とアルコールがあり,発症3年で月1回程度の発作性心房細動があるが,心機能,認知機能低下はなく,家族のサポートがしっかりしていて服薬アドヒアランスは良好」といったように,時間と空間を意識してその人を記述をすることで,そのひとがそどんな立ち位置なのかのおおよその認識と,どんなアプローチで対峙するかといった医師側の態度が一文で簡略的にイメージしやすくなります。

この把握法は疾患概念だけでなく,治療や患者の全般的状態にも適応できます。SNSでよく「胃ろうはよくない」「終末期医療をどうする」といったテーマで炎上していますが,一口に胃ろうと言っても様々な諸事情,背景を持ち,どの程度の期間を行っていて,今後の見通しはどうで,他の考えるべきことはなんで,周囲のサポートはどの程度で,と時間空間的因子が複雑に絡み合います。そうした場合,同様に時間的空間的にどのような位置にある人のことを論じているのかの共通基盤ができていないと,議論が空回りして非常に非効率的になってしまいます

疾患を理解する上で当たり前のことで今更ではありますが,カンファレンス,議論など様々な場面で,お互い思い描いている患者像に隔たりがあることは多くの人が実感することと思われます。

ただ「社会心理的因子」が重要と言いながらサラリと通り過ぎましたが,医療者として本当の困難はここであって,いきなり根源的なことを言ってしまうと,病める身体という、いわば究極の内なる他者とどう折り合いをつけていくかの過程をどう捉えるかということになりますが,あまりに大きなテーマですので,diseaseの一要因として,また空間軸的併存因子一つくらいに触れておきます。

最後に,心不全パンデミック時代の今,一不整脈に過ぎず治療法も確立されてきた心房細動をあえて,今後も取り上げる意味としては,やはり「心房細動は,誰でも診断できる」「目にしたら誰でもわかる」疾患であるということを言っておきたいと思います。

たまに間違える場合もありますが,心房細動の心電図をわからない医師はそう多くないです。わからなかったでは済まされない疾患,それが心房細動です。しかも遭遇する機会は今後どんどん増えていくはずです。それゆえ心房細動は心房細動でも「どういう心房細動なのか」を厳しく問われることになる,と言いたいと思います。

新年早々長文になってしまいましたが,今後とも変わらぬご愛顧のほど,お願い申し上げます。

### 初詣はご近所へ
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by dobashinaika | 2019-01-04 22:48 | 心房細動診療:根本原理 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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