抗凝固薬+抗血小板薬併用療法の新しいガイドライン:2017ESC focused update
ESC(欧州心臓病学会)から冠動脈疾患に対する抗血小板薬2剤使用(DAPT)に関するガイドラインのフォーカスアップデートがでています。
そのなかに”Dual antiplatelet therapy for patients with indication for oral anticoagulation”抗凝固療法と抗血小板薬2剤併用の章があり,2016年の心房細動ガイドラインから多少表現その他が変わっていましたので,概観しました。
まず抗凝固薬+抗血小板薬において出血防止の戦略として以下が提案されています。
・梗塞,出血リスク(CHA2DS2-VAScスコア,HAS-BLEDスコア)を他の管理可能な修飾因子とともに評価
・トリプルテラピーの時期はできるだけ短く:トリプルの代わりにOAC+クロピドグレルを考慮
・ビタミンK阻害薬(VKA)の代わりにNOACを
・VKAのときはINRを低めにし,TTRは65〜70%以上に
・NOACのときは低用量を考慮
・クロピドグレルをP2Y12阻害薬として選択
・アスピリンは100mg/日以下を使用
・PPIをルーチン使用
次が推奨です。
・冠動脈ステント治療患者はステント施行周術期にアスピリンまたはクロピドグレル投与が勧められる(推奨クラスI,エビデンスレベルC)
・ステントの種類にかかわらずOAC+DAPT(アスピリン+クロピドグレル)を1ヶ月(IIa,B)
・ACSや解剖学的/手技的な条件で,梗塞リスクが出血リスクを上回る場合は1ヶ月以上6ヶ月までのトリプル(OAC+DAPT)(IIa,B)
・出血リスクが梗塞リスクを上回る場合は,OAC+クロピドグレル75mg(デュアル)を1ヶ月のトリプルの代わりに施行(IIa, A)
・OAC施行下での抗血小板薬中止は12ヶ月後に考慮(IIa, A)
・VKAのときはINRを低めにし,TTRは65〜70%以上に(IIa, B)
・NOACのときは低用量を考慮(IIa, C)
・リバーロキサバンのときは15mg/日を20mg/日の代わりに(IIb, B):注.日本とは用量が違う
・チカグレロルとプラスグレル使用は勧められない(III, C)
2016年ガイドラインは以下のようになっています。
一方2017年アップデートは以下です。
2016年版からの変更点は以下のように思われます。
・ACS,Electiveとはっきりわけずにひとつのシェーマでまとめた
・2016では出血リスクの高低で分けたが,2017では,梗塞高リスク,出血高リスクで分けた
・このためトリプルなしでいきなりデュアルの群ができた。
2017の方は,まず基本としては
トリプル1ヶ月→デュアル12ヶ月まで→OACのみ,が中心にあり
梗塞高リスクならトリプル6ヶ月→デュアル12ヶ月まで→OACのみ
出血高リスクならトリプルなしにデュアル12ヶ月→OACのみ
の3本立てと考えると良いと思います。
梗塞高リスクとは,表では
・適切な抗血小板療法下でもステント血栓症の既往
・最後に残った冠動脈枝に対するステント
・特に糖尿病患者でのびまん性多病変
・CKD(クレアチニンクリアランス60mL/min未満)
・少なくとも3本のステント
・少なくとも3病変の治療歴
・2つのステント留置がされているbifurcation
・全長60mm超
・慢性完全閉塞
OAC+抗血小板薬不適切患者は
・短い生命予後
・活動性悪性腫瘍
・アドヒアランス不良
・Poorな精神状態
・末期腎不全
・超高齢
。大出血や出血性脳梗塞の既往
・慢性アルコール中毒
・貧血
・DAPTによる明らかな出血
その他「出血高リスク」は明確に定義されてはいませんが,本文ではHAS-BLEDスコア3点以上と記載されています。
日本でもトリプルをなるべく短く(1〜3ヶ月),その後はOAC+クロピドで行く流れになっているかと思います。その中で
1)トリプルをいつまでにするか?
2)アスピリン+OACにしているひとをクロピドに変えたほうが良いか?
3)1年経ったらOACだけに本当にできるのか
4)ステントから数年以上経っているひとはOACのにしてしまってよいのか
など,まだ疑問はつきません。今後このシェーマが,ひとつのマイルスト−ンになるようにも思います。
$$$ 北九州での講演会に参加しました。多くの参加者があり,特に現場での疑問を聴くことができて,大変有意義でした。大変ありがとうございました。
by dobashinaika
| 2017-09-04 22:49
| 抗凝固療法:抗血小板薬併用
|
Comments(0)
土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
S | M | T | W | T | F | S |
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
31 |
筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
カテゴリ
全体インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学・リスク因子
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールドデータ
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
Covid-19
未分類
タグ
日本人(44)ケアネット(40)
どばし健康カフェ(35)
高齢者(31)
リバーロキサバン(28)
リアルワールド(28)
新規抗凝固薬(25)
ダビガトラン(24)
ガイドライン(24)
アドヒアランス(23)
ワルファリン(21)
CHA2DS2-VAScスコア(21)
共病記(20)
ESC(19)
カテーテルアブレーション(18)
心不全(18)
認知症(14)
無症候性心房細動(14)
頭蓋内出血(13)
消化管出血(13)
ブログパーツ
ライフログ
著作
プライマリ・ケア医のための心房細動入門 全面改訂版
編集
最近読んだ本
最新の記事
ACC/AHAなどから202.. |
at 2023-12-10 23:12 |
ライフスタイルを重視した新し.. |
at 2023-11-06 21:31 |
入院中に心房細動が初めて記録.. |
at 2023-11-05 11:14 |
フレイル高齢心房細動患者では.. |
at 2023-08-30 22:39 |
左心耳閉鎖術に関するコンセン.. |
at 2023-06-10 07:29 |
患者ー医療者間の「心房細動体.. |
at 2023-04-26 07:27 |
心房細動における認知症の評価.. |
at 2023-04-20 07:29 |
AIによる心房細動の診断と発.. |
at 2023-04-14 07:30 |
心房細動診療の新しい"ABC.. |
at 2023-04-10 05:00 |
心房細動早期発見の現状と課題.. |
at 2023-04-09 10:58 |
検索
記事ランキング
最新のコメント
血栓の生成過程が理解でき.. |
by 河田 at 10:08 |
コメントありがとうござい.. |
by dobashinaika at 06:41 |
突然のコメント失礼致しま.. |
by シマダ at 21:13 |
小田倉先生、はじめまして.. |
by 出口 智基 at 17:11 |
ワーファリンについてのブ.. |
by さすけ at 23:46 |
いつもブログ拝見しており.. |
by さすらい at 16:25 |
いつもブログ拝見しており.. |
by さすらい at 16:25 |
取り上げていただきありが.. |
by 大塚俊哉 at 09:53 |
> 11さん ありがと.. |
by dobashinaika at 03:12 |
「とつぜんし」が・・・・.. |
by 11 at 07:29 |
以前の記事
2023年 12月2023年 11月
2023年 08月
2023年 06月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月