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心房細動アブレーション後は抗凝固薬はいらなくなるのか?:JAMAC誌


Assessment of Use vs Discontinuation of Oral Anticoagulation After Pulmonary Vein Isolation in Patients With Atrial Fibrillation
JAMA Cardiol. Published online November 23, 2016. doi:10.1001/jamacardio.2016.4179


疑問:肺静脈アブレーション後も抗凝固療法は必要か?

P:肺静脈隔離術を施行した患者。スウェーデン国内登録。1585例
10のアブレーション専門施設で全体の94%

I:アブレーション後ワルファリン継続

C:ワルファリン中止

O:虚血性脳卒中,頭蓋内出血,死亡

結果:
1)平均年齢59.0歳。CHA2DS-VAScスコア1.5点。

2)1年以内ワルファリン中止患者360例30.6.%

3)虚血性脳卒中:CHA2DS-VAScスコア2点以上において,ワルファリン中止群で高率(年間1.6%vs. 0.3%,
P=0.046)
心房細動アブレーション後は抗凝固薬はいらなくなるのか?:JAMAC誌_a0119856_2341927.png


4)CHA2DS-VAScスコア2点以上または脳卒中の既往は特に高率(前者ハザード比4.6;95%CI1.2-17.2;
P=0.02,後者ハザード比13.7,2.0−91.9;P=0.007)

(論文の結論):高リスク例,特に虚血性脳卒中既往例で肺静脈隔離術後にワルファリンを止めることは安全ではない。

Critical Appraisal
・研究デザイン:後ろ向きコホート研究
・研究目的:予後
・追跡期間:平均2.6年:概ね十分

### PVアブレーション後,抗凝固薬をやめられればアブレーションのベネフィットは絶大です。理論的にはアブレーションで心房細動が完全になくなれば抗凝固薬はいらなくなるように思います。実際には無症候性に再発していることがあるため,高リスク例では抗凝固薬を継続するというのがこれまでのガイドライン等でのrecommendationだったかと思います。

今回は多数例で後ろ向きに検討したものですが,高リスク例,特の脳卒中の既往のある例ではワルファリンをやめると虚血性脳卒中が増えるというものでした。CHA2DS2-VAScスコアの元論文では,アブレーションに関係なくCHA2DS2-VAScスコア別の年間脳梗塞発症率は2点で2.2%,3点で3.2%,4点で4.0%であり,今回の1.6%はこれまでよりも低いものです。やはりアブだけでもすこし脳梗塞は減るようです。ただ,ワルファリンを追加すれば年間0.3%と,もうほとんどゼロに近い数値となっています。

一番のLimitationはワルファリンをやめた理由があまり明らかに記載されていないことです。おそらく主治医判断でその理由は恣意的であろうかと思われます。アブが非常にうまく言って再発の可能性が低いと主治医が思ったとか,低リスクなので中止したとか。

とは言え,先行研究ともアウトカムは合致しており,高リスク特に脳卒中既往例では抗凝固継続というのは臨床で使うべきメッセージと思われます。
こうしたデータはまだNOACではまとまって出せないでしょう。NOACでも同等の成績が考えられますが,これだけ発症数が少なければNOACでなくてもいい気もします。

$$$ 師走ですね
心房細動アブレーション後は抗凝固薬はいらなくなるのか?:JAMAC誌_a0119856_23553074.jpg

by dobashinaika | 2016-12-02 23:56 | 心房細動:アブレーション | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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