人気ブログランキング | 話題のタグを見る

主要評価項目がポジティブ。それで十分か?:NEJMから論文の読み方指南


The Primary Outcome Is Positive — Is That Good Enough?
N Engl J Med 2016; 375:971-979

NEJMからクリニカルトライアルの結果がポジティブのときどう考えればよいのか,についての指南がでています。

各論で様々な循環器系のトライアルの解釈法が示されており,こちらが圧巻です。製薬企業からのPRや講演会では触れられないような”不都合な真実”が次々と紹介されており,思わず全文読んでしまいました。

ACCのメーリングリストで10のポイントにまとまっていますので,論文紹介を本文から改変挿入し紹介します。
Primary Outcome in Clinical Trials and Clinical Significance
Sep 08, 2016 | Debabrata Mukherjee, MD, FACC

1.主要評価項目が統計的有意差の持つことは,新しい治療法が受け入れられるための典型的な必要条件である。しかし十分ではない。

2.臨床試験の総合的判断は多くのステークホルダー,たとえば(試験の)統制者,読者,雑誌編集者,査読者,専門家,ガイドライン作成委員会,医師,患者,批評家らによって吟味される。

3.提示された所見が実臨床のプラクティスに影響を与えるに十分なエビデンス足り得るかを決めるには,そのデータのより深い解釈と早期の追試験が必要である。
→例:CAST試験では不整脈治療が死亡率を増加させるという予期せぬ有害事象を明らかにした。

4.以下のキークエスチョンに答えることが,どの”ポジティブ”試験が実臨床のプラクティスを向上させるにたるのかの判断の一助となる。

P<0.05は十分に強いエビデンスを提供しているか:P値は偽陽性率を表すので,効果がより疑わしい場合より小さなP値が必要なことあり。
→PARADIGM-HF(sacubitril–valsartan versus enalapril,心血管死または心不全入院):P<0.00001でありsacubitril–valsartanの保険償還が認められた。
→SPAINT I(NXY-059 versus placebo,急性虚血性脳卒中の機能回復):P=0.038,追試では否定(P=0.33)

・治療のベネフィットの大きさはどのくらいか?:相対リスクだけでなく絶対リスクも明らかに改善しているかを検討。
→IMPROVE-IT(ezetimibe vs placebo,ACS患者の予後,スタチンに上乗せ):ハザード比0.94 (95%CI, 0.89 to 0.98; P=0.016)だが,4年間のイベント差は32.7%vs 34.7%で2%しか違わない→FDAは心血管イベント減少ヘの適応拡大を認可せず
主要評価項目がポジティブ。それで十分か?:NEJMから論文の読み方指南_a0119856_2335974.jpg

・その主要評価項目は臨床的に重要か?:
<サロゲートアウトカム>
→ACCORD(糖尿病強化療法vs 標準治療):HbA1cは減少,だが心血管イベントは低下せず,死亡率はむしろ上昇
→LIDO(levosimendan vs dobutamine,心不全治療);血行動態の改善があり多くの国で認可されたが,より大規模なSURVIVEでは死亡率に有意差なし。FDAは認可せず。
<複合アウトカム>
→RITA-3(ACSに対するインターベンションvs保存的治療):複合アウトカムは9.6% vs.14.5%, P=0.001.その年のECSでは”インターベンションが命を救う最初の証拠”と紹介されたが,実際有意な改善は狭心症の比率のみ。心筋梗塞,死亡率に差はなし。ただしその後の追跡調査やメタ解析では予後改善効果あり。
→EXPEDITION(cariporide versus placebo,バイパス術後患者):複合アウトカムはP=0.0002。しかしながら心筋梗塞は減ったが(P=0.000005),死亡率,心血管イベントはむしろ増加(P=0.02,P<0.001)

副次評価項目は(主要評価項目を)支持するものか?
→ SAINT I(上記):副次評価項目である機能回復スコアは改善せず
→対象的にEMPA-REG OUTCOME(empagliflozin versus place,糖尿病):複合アウトカムは 0.86 (95% CI, 0.74 to 0.99; P=0.04)でギリギリ.しかしこの結果は心血管イベントのみ(0.62; 95% CI, 0.49 to 0.77; P<0.001),全死亡 (P<0.001),心不全入院(P=0.002)でより効果の増大が見られた。

・主要な所見は,重要なサブグループでも同様か?
→PLATO( ticagrelor than with clopidogrel,ACS);複合アウトカムはチカグレロル>クロピドグレルだが,アスピリン高用量ではチカグレロルが劣位。低用量では優位
主要評価項目がポジティブ。それで十分か?:NEJMから論文の読み方指南_a0119856_23362116.jpg

・その試験は信頼するに十分な大きさか?

・安全はポジティブ効果を釣り合っているか?

・リスクベネフィットバランスは患者特異的なものか?

・試験デザインや運用に致命的欠陥はないか?

・その所見は自分音患者に適応できるか?

5.もし効果と安全性の評価項目が説得力のあるものであれば,次のステップとしては全体の質と内的妥当性の評価である。

6.その所見はリアルワールドの治療効果(+ネットクリニカルベネフィット)に応用できるか?

7.異なるタイプのヘルスケアシステムにかかわらず費用対効果を算定することは,(実際の治療への)どの程度寄与するか(その後の新治療適用に影響する)の決定につながる。

8.そのエビデンスがケアの大きな進歩となるか,またはより進んだ試験を必要性を警鐘するようなものかを決めるには,様々なステークホルダーによるエビデンスへの包括的アプローチが必要である。

9.ガイドライン作成委員会は知識ベースの統合と,新治療のためのエビデンスの強度層別化のために重要な役割を担う。その推奨は臨床に強い影響を与える。

10. しかし,結局はポイントオブケアを担う医師が,それぞれの患者に最善の意思決定を追うために,クリニカルトライアルを正確に読み解く責任を負う。また保険上あるいはガイドライン上の推奨を統合する責任を負う。

### もっとたくさん論文実例が紹介されて面白いのですが,個人的労力としてこの辺まで。気が向いたらまた訳します。
一つの論文がポジティブデータだったとしてもそれだけで臨床判断を急ぐべきでない。後人の解釈や追試,ガイドラインなどの評価が最終的には必要,という真っ当な視点かと思います。

$$$ 某施設の横を歩いていたらこの張り紙。全部の窓に貼ってあり,即退散しました。
主要評価項目がポジティブ。それで十分か?:NEJMから論文の読み方指南_a0119856_23451754.jpg

by dobashinaika | 2016-09-16 23:42 | EBM | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


by dobashinaika

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

カテゴリ

全体
インフォメーション
医者が患者になった時
患者さん向けパンフレット
心房細動診療:根本原理
心房細動:重要論文リンク集
心房細動:疫学・リスク因子
心房細動:診断
抗凝固療法:全般
抗凝固療法:リアルワールドデータ
抗凝固療法:凝固系基礎知識
抗凝固療法:ガイドライン
抗凝固療法:各スコア一覧
抗凝固療法:抜歯、内視鏡、手術
抗凝固療法:適応、スコア評価
抗凝固療法:比較、使い分け
抗凝固療法:中和方法
抗凝固療法:抗血小板薬併用
脳卒中後
抗凝固療法:患者さん用パンフ
抗凝固療法:ワーファリン
抗凝固療法:ダビガトラン
抗凝固療法:リバーロキサバン
抗凝固療法:アピキサバン
抗凝固療法:エドキサバン
心房細動:アブレーション
心房細動:左心耳デバイス
心房細動:ダウンストリーム治療
心房細動:アップストリーム治療
心室性不整脈
Brugada症候群
心臓突然死
不整脈全般
リスク/意思決定
医療の問題
EBM
開業医生活
心理社会学的アプローチ
土橋内科医院
土橋通り界隈
開業医の勉強
感染症
音楽、美術など
虚血性心疾患
内分泌・甲状腺
循環器疾患その他
土橋EBM教室
寺子屋勉強会
ペースメーカー友の会
新型インフルエンザ
3.11
Covid-19
未分類

タグ

(44)
(40)
(35)
(32)
(28)
(28)
(25)
(25)
(24)
(23)
(21)
(21)
(20)
(19)
(18)
(18)
(14)
(14)
(13)
(13)

ブログパーツ

ライフログ

著作
プライマリ・ケア医のための心房細動入門 全面改訂版

もう怖くない 心房細動の抗凝固療法 [PR]


プライマリ・ケア医のための心房細動入門 [PR]

編集

治療 2015年 04 月号 [雑誌] [PR]

最近読んだ本

ケアの本質―生きることの意味 [PR]


ケアリング―倫理と道徳の教育 女性の観点から [PR]


中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) [PR]


健康格差社会への処方箋 [PR]


神話・狂気・哄笑――ドイツ観念論における主体性 (Ν´υξ叢書) [PR]

最新の記事

2024年JCS/JHRS不..
at 2024-03-21 22:45
日本独自の新しい心房細動脳梗..
at 2024-03-17 22:31
心房細動診療に残された大きな..
at 2024-01-03 23:00
東日本大震災と熊本地震におけ..
at 2024-01-02 16:11
脳梗塞発症後の心房細動患者に..
at 2024-01-01 18:41
ACC/AHAなどから202..
at 2023-12-10 23:12
ライフスタイルを重視した新し..
at 2023-11-06 21:31
入院中に心房細動が初めて記録..
at 2023-11-05 11:14
フレイル高齢心房細動患者では..
at 2023-08-30 22:39
左心耳閉鎖術に関するコンセン..
at 2023-06-10 07:29

検索

記事ランキング

最新のコメント

血栓の生成過程が理解でき..
by 河田 at 10:08
コメントありがとうござい..
by dobashinaika at 06:41
突然のコメント失礼致しま..
by シマダ at 21:13
小田倉先生、はじめまして..
by 出口 智基 at 17:11
ワーファリンについてのブ..
by さすけ at 23:46
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
いつもブログ拝見しており..
by さすらい at 16:25
取り上げていただきありが..
by 大塚俊哉 at 09:53
> 11さん ありがと..
by dobashinaika at 03:12
「とつぜんし」が・・・・..
by 11 at 07:29

以前の記事

2024年 03月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 08月
2023年 06月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 03月
2007年 03月
2006年 03月
2005年 08月
2005年 02月
2005年 01月

ブログジャンル

健康・医療
病気・闘病

画像一覧

ファン