ワルファリン服用中では,血圧136以上が血栓塞栓症,出血イベントの危険因子:J-RHTHMレジストリー
Impact of Blood Pressure Control on Thromboembolism and Major Hemorrhage in Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation: A Subanalysis of the J‐RHYTHM Registry
J Am Heart Assoc.2016; 5: e004075originally published September 12, 2016
疑問:血圧管理が心房細動患者の脳塞栓,大出血に与える影響は?
方法:
・J-RHYTHMレジストリー登録患者158施設,7937例中NVAF7406例
・平均69.8歳,2年またはイベント発生時まで追跡
・高血圧の定義:140/90以上,高血圧の既往,降圧薬服用中
結果:
1)高血圧は大出血の独立危険因子:HR1.52, 95% CI 1.05–2.21, P=0.027
2)血栓塞栓症との関連なし;HR1.05, 95% CI 0.73–1.52, P=0.787
3)イベント時に最も近いタイミングの血圧4分位の最高層(136以上)は最低層(114未満)に比べ血栓塞栓症オッズ比2.88, 95% CI 1.75–4.74, P<0.001,大出血1.61, 95% CI 1.02–2.53, P=0.041:CHA2DS-VAScスコア,ワルファリン使用で補正
4)血圧136以上は血栓塞栓症,大出血の独立危険因子
結論:NVAF患者では,血栓塞栓症,大出血予防において,血圧管理が高血圧の既往やベースライン血圧よりも重要
### これは大切な論文です。有名なBAT試験では血圧130/81を超えると頭蓋内出血が有意に増加するという結果でしたが,あの試験の対象は二次予防でワルファリン服用率は32,7%と多様な患者が含まれていました。今回はJリズムですので,一次予防のワルファリン使用者がほとんどで,よりわかり易い内容です。
患者キャラは,発作性が38%,CHADS2スコア平均1.7点,CHA2DS-VAScスコア2.8点,平均年齢69.8歳で比較的軽症の集団と言えます。
グラフを見るといろんなことがわかります。なんと血圧135以下だとワルファリンを飲もうが飲むまいが血栓塞栓症,大出血とも発症率に差がない!ようです。136以上で初めて有意差がついています。しかもCHA2DS-VAScスコアで補正しても同じとなれば,とにかく血圧だけ管理していれば,イベントは大変少ないことが示唆されています。
それから血圧良好なら,ワルファリン服用例の日本人の血栓塞栓症率は1%弱,大出血も1.5%前後で非常に低値ですね。NOACのRCTにおける脳卒中率はワルファリン例で概ね1.6−2.4%,NOAC例で1.1−2.1%すからNOACの最良データ(ダビガトラン150)より血栓塞栓症は低く,大出血は同等といえます。いかに血圧管理が大事かがわかる論文です。
いささか乱暴ない言い方ですが,血圧136以上とそれ以下の差は,ワルファリンとNOACの差よりも大きいですね,数字上は。
また114以下と低すぎてもややイベントは増加する傾向にも見えますので,心房細動で抗凝固薬を出したときはとにかく「上135以下を目指す戦略が肝のようにに思います。
$$$ 先週末はジャズフェス。初回から知ってるものとしては,当初の手作り感がなつかしくもあり。でも秋風と木漏れ日とサックスの三位一体はベストマッチ。
J Am Heart Assoc.2016; 5: e004075originally published September 12, 2016
疑問:血圧管理が心房細動患者の脳塞栓,大出血に与える影響は?
方法:
・J-RHYTHMレジストリー登録患者158施設,7937例中NVAF7406例
・平均69.8歳,2年またはイベント発生時まで追跡
・高血圧の定義:140/90以上,高血圧の既往,降圧薬服用中
結果:
1)高血圧は大出血の独立危険因子:HR1.52, 95% CI 1.05–2.21, P=0.027
2)血栓塞栓症との関連なし;HR1.05, 95% CI 0.73–1.52, P=0.787
3)イベント時に最も近いタイミングの血圧4分位の最高層(136以上)は最低層(114未満)に比べ血栓塞栓症オッズ比2.88, 95% CI 1.75–4.74, P<0.001,大出血1.61, 95% CI 1.02–2.53, P=0.041:CHA2DS-VAScスコア,ワルファリン使用で補正
4)血圧136以上は血栓塞栓症,大出血の独立危険因子
結論:NVAF患者では,血栓塞栓症,大出血予防において,血圧管理が高血圧の既往やベースライン血圧よりも重要
### これは大切な論文です。有名なBAT試験では血圧130/81を超えると頭蓋内出血が有意に増加するという結果でしたが,あの試験の対象は二次予防でワルファリン服用率は32,7%と多様な患者が含まれていました。今回はJリズムですので,一次予防のワルファリン使用者がほとんどで,よりわかり易い内容です。
患者キャラは,発作性が38%,CHADS2スコア平均1.7点,CHA2DS-VAScスコア2.8点,平均年齢69.8歳で比較的軽症の集団と言えます。
グラフを見るといろんなことがわかります。なんと血圧135以下だとワルファリンを飲もうが飲むまいが血栓塞栓症,大出血とも発症率に差がない!ようです。136以上で初めて有意差がついています。しかもCHA2DS-VAScスコアで補正しても同じとなれば,とにかく血圧だけ管理していれば,イベントは大変少ないことが示唆されています。
それから血圧良好なら,ワルファリン服用例の日本人の血栓塞栓症率は1%弱,大出血も1.5%前後で非常に低値ですね。NOACのRCTにおける脳卒中率はワルファリン例で概ね1.6−2.4%,NOAC例で1.1−2.1%すからNOACの最良データ(ダビガトラン150)より血栓塞栓症は低く,大出血は同等といえます。いかに血圧管理が大事かがわかる論文です。
いささか乱暴ない言い方ですが,血圧136以上とそれ以下の差は,ワルファリンとNOACの差よりも大きいですね,数字上は。
また114以下と低すぎてもややイベントは増加する傾向にも見えますので,心房細動で抗凝固薬を出したときはとにかく「上135以下を目指す戦略が肝のようにに思います。
$$$ 先週末はジャズフェス。初回から知ってるものとしては,当初の手作り感がなつかしくもあり。でも秋風と木漏れ日とサックスの三位一体はベストマッチ。
by dobashinaika
| 2016-09-13 19:13
| 抗凝固療法:リアルワールド
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
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