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患者さん向け説明ツール:週刊誌の「飲んではいけない薬」は本当なのか?ー抗血栓薬編−

週刊誌の「飲んではいけない薬」「やってはいけない手術」キャンペーン記事について,当院で特に問い合わせの多い抗血小板薬,抗凝固薬(いわゆる血液サラサラ薬:あまり適切な言い方ではありませんが)について,当院としての考え方をまとめてみました。

国内外のガイドラインや論文を元に,私の意見を交えて書いてみました。これが絶対正しいというわけではありませんが,一つの参考にはなると思います。
誤りや見解の違いがございましたらご指摘お願い申し上げます。その都度バージョンアップしていきます。

知ってほしいことは,

1)すべての薬には副作用がある

2)抗血小板薬,抗凝固薬の主の副作用は出血(特に脳出血と消化管出血)である

3)しかし抗血小板薬,抗凝固薬には,心筋梗塞及び脳梗塞を予防するという大きな効果がある

4)「効果(心筋梗塞,脳梗塞にならない)」>「副作用(出血)」の時に薬を飲んだほうが良い

5)つまり「薬を飲まないで心筋梗塞や脳梗塞になるリスク」が「飲んで脳出血や消化管出血を起こすリスク」より大きければ飲んだほうが良いし逆なら飲まないほうが良い

ということです。

飲まないリスクと飲むリスクを天秤にかけるという考え方です。
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具体的に「どんな場合に」飲んだほうが良いのか,それとも飲まないほうが良いのか(飲んではいけないのか)を考えていきます。週刊誌記事は,この一番大事な「どんな場合に」を説明をすることなく,ただ副作用だけを強調する傾向があり,鵜呑みにすべきではないと考えます。

・飲んだほうが良い:「飲まないで心筋梗塞や脳梗塞になるリスク」が「飲んで出血を起こすリスク」より明らかに大きい場合。個人的には「飲むべきである」場合と考えます。
・どちらかというと飲んだほうが良い :「飲まないで心筋梗塞や脳梗塞になるリスク」が「飲んで脳出血や消化管出血を起こすリスク」よりやや大きい場合
・飲まないほうが良い/わからない ;飲まないリスクと飲むリスクが同等,または現時点ではっきりわかっていない
・飲んではいけない;飲むと害があることが明らかな場合
と考えてください
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文献 :
1)日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会:脳卒中治ガイドライン2015. 協和企画, 東京, 2015
2)循環器病の診断と治療に関するガイドライン. 循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するカイドライン(2009年改訂版). http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_hori_h.pdf
3)Antithrombotic Trialists' (ATT) Collaboration: Aspirin in the primary and secondary prevention of vascular disease: collaborative meta-analysis of individual participant data from randomised trials. Lancet. 2009; 373:1849-60.

心筋梗塞,狭心症,脳梗塞,一過性脳虚血発作(一時的に脳梗塞の症状が出たが現在は後遺症なし)と医療機関で確かに診断され,現在治療中の人,またはステントが体に入っている人が抗血小板薬を飲むことの信頼性,妥当性は,数ある医療行為の中でもトップクラスです。
少なくとも「飲んではいけない」場合では絶対にありません。

しかしそうは言っても脳出血や消化管出血(特にアスピリン)のリスクはゼロではありません。たとえ効果が大きいとはいえやはり大きな出血を来す場合はあります。具体的には消化性潰瘍にかかったことがある人,鎮痛剤(NSAID)を飲んでいる人,ステロイドを飲んでいる人,血圧の管理が不十分な人は出血しやすいといえます。原則はこの表のとおりですが,上記に当てはまる場合は医師も慎重に処方すべきと考えます。

(注1)最初の数ヶ月はアスピリン+もう1剤併用)
(注2)心筋梗塞にかかっていなくても飲んだほうが良い場合も明らかにされつつありますが,煩雑なので記載はしておりません(後日注釈付けます)。
(注3)飲んではいけない人としてこの他にアスピリン喘息の人,出産予定日12週以内の妊婦などがあります。
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1)循環器病の診断と治療に関するガイドライン. 心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013 年改訂版)
2)2016 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation developed in collaboration with EACTS:Eur Heart J http://dx.doi.org/10.1093/eurheartj/ehw210

細かく書きましたが,以下のCHADS2スコアという点数化で2点以上なら飲んだ方が良い,1点ならどちらかと言えば飲んだほうが良い。0点で65歳未満なら飲むべきではないと考えてください。
a0119856_125775.gif

また80〜85歳以上の超高齢者でかなり活動性が低下している方は,「飲んだほう良い」とは言えない場合もあります。そういう時こそケースバイケース,患者さん,ご家族,医師間のコミュニケーションが必須です。

血管病とは「心筋梗塞」「大動脈硬化(プラーク)」「末梢(頸動脈や下肢)動脈疾患」を指します。

### 抗血小板薬,抗凝固薬は出血という副作用の持つインパクトが大きいため他の薬よりも慎重さが要求されます。一方で飲まないことで被るリスクも甚大です。

私たちは飲んだら出血する,という目の前のリスクには敏感である一方,飲んでいるから病気になっていない,という効果については目に見えないので鈍感です

遠い未来に待ち構える怖いことに備える,薬は車のシートベルトである,ということをしっかり想像すべきです。また医師は目の前にあるリスクをなるべく小さくし,飲んでいい人いけない人の適応を誤らないように研鑽を積み,それを的確に患者さんに伝える役目があると思います。あー疲れた。

$$$ 初の東北上陸台風にコンロ,懐中電灯など装備万全で望みました。使わずにすみました。あ,それと気分転換にPCのバックを変えてみました。写真のにゃんこは当院とは関係ありません,もともとあったテンプレートです。これ変えるやり方わかりません。。
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by dobashinaika | 2016-08-31 01:30 | 患者さん向けパンフレット | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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