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服薬アドヒアランスを良くするための実践と考察

Self-reported adherence to anticoagulation and its determinants using the Morisky medication adherence scale
Lana A. Castellucci et al
Thorombosis Research 2015; 136: 727-731


疑問:DOACの服薬アドヒアランスはどうか?

方法:
・抗凝固薬服用患者に4つの質問からなるMorisky scoreを測定
・4つの質問
1.あなたはこれまで薬を飲み忘れたことがありますか?
2.あなたはうっかり薬を飲む時を忘れることがありますか?
3.あなたは具合が良い時に薬を休んでしまうことがありますか?
4.薬を飲んでいて具合がわるい時,飲むのをやめますか?


結果:
1)500人:VKA74%,DOAC26%(リバーロキサバン79%,ダビガトラン26%,アピキサバン2%)

2)深部静脈血栓症72%,心房細動18%

3)適切なアドヒアランス(Morisky score0点):VKA56.2% ,DOAC57.1%

4)アドヒアランスの予測因子
・年齢(オッズ比1.02)
・女性(1.58)
・追加投薬(2.78)
・退職後(2.31)

結論:自己申告によるアドヒアランスはVKAとDOACで同等。DOACのアドヒアランス評価に検査測定が広く利用できるまでは,医師はアドヒアランスの重要性を患者に遭うたびに強調すべきである。Morisky scoreが抗凝固薬アドヒアランスの簡単な評価法である。

### 上記4質問全部「いいえ」ならば適切なアドヒアランスと評価するわけですが,質問1からして「いいえ」と答える人は実はほとんどいないのではないかという気もします。

当院で今年前半の3ヶ月間,1回でも自己判断で服薬を中断したひとを患者自己申告で調べたところ,13〜24%でした。この数字実は少なすぎると思っています。薬の服薬手帳による申告ですが,医師に直接答える形なのでややバイアスが入ると思います。
a0119856_2226590.jpg


それは置いておいて,飲み忘れる理由を患者さんに聞いてみると以下のようでした。
a0119856_22261870.jpg

1)出血へのおそれ
2)受診の遅れ
3)うっかり忘れる
4)認知症
5)コスト
6)飲みにくさ
7)その他(薬が嫌いなど)

複数回答のひともいました。
服薬アドヒアランスを考えるときのキーワード。それはズバリ,飲まない理由は多種多様であるということです。
しかしそれで片付けては対策が立てられませんので,服薬の意義を理解しているかという点で切ってみます。

上記理由1)「出血のおそれ」が強いひとは「飲む意義理解◯(または△),でも副作用がそれ以上に怖い」と言えます。同様に考えると
2)「受診の遅れ」は「意義理解◯または△または☓,でも1,2回の休薬の危険性理解☓」
3)「うっかり」は「意義理解◯または△または☓」
4)「認知症」は「意義理解☓」

アドヒアランス向上への道は「抗凝固薬には脳塞栓予防という大目的があるのだから,そのゴールを理解してもらうことが一番」と拙著にも書いたのですが,じつはそれは大事なのですが,患者さんことにゴールの理解に至るのには,個別でより多様なアプローチが必要なのだろうと最近思います。出血が怖い人には,塞栓予防というゴールを強調しても目に見える出血という恐怖はなかなか払拭できません。この理由を克服するのは困難で,リスク認知のギャップに対するアプローチが必要です。長く粘り強い道のりです(解決できないかもしれません)。「受診の遅れ」「うっかり」の人の意義理解は様々です。十分理解していても2〜3回のまないくらいは良いと考えている人もいれば,医師のいうまま飲んでいて全く意義は理解していないひともいます。

「うっかり」で意義理解◯の人には薬のセットケースや薬袋の色分け,服薬薬剤の減量などの「ツール利便化」が有効と思われます。「認知症」の人には,意義理解よりもまず認知症の評価,そして一方化するなどのツール利便化,あるいは服薬管理者の明確化が必要です。

心臓血管研究所の山下先生が以前おっしゃっていたように,アドヒアランスと薬の理解度(自分がわかっていると思う度合い),あるいは説明時間とは比例しない,むしろ情報過多で患者さんはアップアップしている。服薬開始時の説明の時,誰にでも一律に心房細動のメカニズムのいろはから話し込んでも,医師が満足するだけで患者さんの理解は得られないものと思われます。

患者さんごとに飲まない理由をよく聞く。飲まない(飲めない)事情を把握する。その理由,事情に応じて意義理解が必要なのか,出血に対する説明が必要なのか,単なるツールの利便化だけでよいのか,の対応をきめ細かく行う。服薬に対する解釈モデルの把握ですね。なかなか難しそうです。

当院では,当初服薬開始時1時間近くの講義のようなことをしていたのですが,最近はすっかりやめました。その代わり最初の説明は最小限にして,毎回,医師が診察する前に看護師に服薬状況や出血,退院からの新処方など6項目を聞いてもらうようにしています。それでも難しいひとには薬剤師からも個別アプローチをするようにしています。このように,いろいろな職種から飲み忘れの重大さをことあるごとに伝えてもらうことで当初より飲み忘れは減ってきています。

まとめます。服薬アドヒアランス向上には
1)患者さんが薬を飲まない(飲めない)理由,事情は多種多様である事を理解する
2)その理由,事情(いわば”ニーズ”)を患者さんごとに把握する
3)一律総括的でなく,その患者さんの”ニーズ”に応じた服薬説明をする
3)医師だけでなく多職種で飲み忘れの重大さを伝える
4)受診ごとに細く長く行う。

最後に,面白い論文を見つけました。
Effect of Financial Incentives to Physicians, Patients, or Both on Lipid Levels
A Randomized Clinical Trial
JAMA. 2015;314(18):1926-1935. doi:10.1001/jama.2015.14850.


脂質異常症の患者さんに薬剤のボトルを開封するとくじ引きができで当たると100ドルもらえる,医師は患者さんのコレステロール値が一定以下に下がれば256ドルもらえる。そうした金銭によるインセンティブを付加したところで,LDLコレステロールは医者患者両者介入群でのみ8.5mg/dl低下したに過ぎなかったとのことです。

やっぱりアドヒアランス向上は,お金でもダメ,地道な努力が必要ということです。

$$$ 午前6時半。そろそろ散歩時朝焼けがまぶしい季節です。
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by dobashinaika | 2015-12-08 22:36 | 抗凝固療法:全般 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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