SPRINT試験に関するまとめ
よく利用する医学系サイトDynaMedのメールマガジンDynaMed EBM Focusが、話題のSPRINT試験についてコメントを出しています。
よくまとまっているので,覚書きしておきます。
Intensive blood pressure management in hypertensive patients at increased cardiovascular risk
by the DynaMed Editorial Team
SPRINT試験:
A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control
The SPRINT Research Group
N Engl J Med 2015; 373:2103-2116
・いくつかのエビデンスにより血圧は低いほど心血管リスクが減少することが示唆されているものの,一般的には高血圧患者の目標血圧は140mmHg未満にすることが勧められている。
・この試験では,非糖尿病で心血管リスクの高い高血圧患者において目標収縮期血圧120未満が,140未満に比べて全死亡,心血管死,心不全リスクを減らすことが示された。
・また目標血圧120未満では,低血圧,失神,電解質異常,急性腎不全が増えた。
<これまでのエビデンス,推奨>
・各種ガイドライン(米国,英国,カナダ)では,140未満が一般に推奨されているが,年齢や心血管リスクが微妙に異なる
・従来のエビデンスでは強力な降圧薬使用により,血圧は低いほど心血管イベントは減ることが示唆されているが,その結果はそれぞれ異なっている
<SPRINT試験のPICO>
よくまとまっているので,覚書きしておきます。
Intensive blood pressure management in hypertensive patients at increased cardiovascular risk
by the DynaMed Editorial Team
SPRINT試験:
A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control
The SPRINT Research Group
N Engl J Med 2015; 373:2103-2116
・いくつかのエビデンスにより血圧は低いほど心血管リスクが減少することが示唆されているものの,一般的には高血圧患者の目標血圧は140mmHg未満にすることが勧められている。
・この試験では,非糖尿病で心血管リスクの高い高血圧患者において目標収縮期血圧120未満が,140未満に比べて全死亡,心血管死,心不全リスクを減らすことが示された。
・また目標血圧120未満では,低血圧,失神,電解質異常,急性腎不全が増えた。
<これまでのエビデンス,推奨>
・各種ガイドライン(米国,英国,カナダ)では,140未満が一般に推奨されているが,年齢や心血管リスクが微妙に異なる
・従来のエビデンスでは強力な降圧薬使用により,血圧は低いほど心血管イベントは減ることが示唆されているが,その結果はそれぞれ異なっている
<SPRINT試験のPICO>
P:50歳以上のリスクを有する9361例(収縮期血圧130〜180)。除外基準;糖尿病,脳卒中の既往,多発性腎嚢胞,6ヶ月以内の著明な蛋白尿,6ヶ月以内の腎不全。左室駆出分画<35%
I:目標収縮期血圧<120
C:目標収縮期血圧<140
O:複合エンドポイント(心筋梗塞,急性冠症候群,脳卒中,急性非代償性心不全)
<結果>
1)ベースライン血圧140/78,平均降圧薬数1.8剤,平均3.26年追跡
2)最終平均血圧:厳格群121.5mmHg ,標準群134.6mmHg
3)使用降圧薬数:厳格群2.8 ,標準群1.8
4)年間イベント率(一次エンドポイント):厳格群1.65% ,標準群2.19%(p < 0.001, NNT 185/年)
5)ベースライン血圧別(≤ 132 mm Hg, 132-145 mm Hg, and ≥ 145 mm Hg)に見ても結果は同等
6)心血管イベント,心不全は厳格群で著明減少。他のアウトカムは不変
7)全死亡:厳格群1.03% ,標準群1.4%(1.03% vs. 1.4%, p = 0.003, NNT 270/年)
8)重篤な合併症は両群で同等
9)低血圧,失神,電解質異常,急性腎不全は厳格群で有意に多い
10)もともと慢性腎臓病のある患者では腎不全の発症率に違いなし
<SPRINT試験の解釈>
・この結果からは,現在140未満でよく管理されている例でも,より厳格に下げたほうが利益が多いことがうかがえる
・この試験では,標準群が既に135未満だった場合,治療を減らすようなプロトコールになっている
・たいていの臨床の場面では治療を減じることはなされない,それ故薬剤を減らされた群では,厳格群の利益がより増強されるようになっている
・今回の結果はACCORD BP試験 (N Engl J Med 2010 Apr 29;362(17):1575)とは対照的
・ACCORD BPとの違い
1)ACCORD BPは2型糖尿病で高リスク例を含む(SPRINTは含まず)
2)ACCORD BPでは標準群のイベント減少が予想以下だった。症例数不足の可能性あり
3)SPRINTは早期打ち切りとなったため,長期間のフォローがない
・全体として120未満の厳格な血圧低下が,心血管イベントを減らし予後を改善
・有害事象が増える場合もあり,症例ごとにベストな管理を目指すべき
### SPRINT試験は,既にかなりのインパクトを持って発表されており今更感もありますが,自己学習のためにまとめました。
実際は心不全の減少が複合エンドポイントの中でも大きな割合のようです。
またこういう試験の特性上高齢者でもADLが良好な方が組み入れられていると思われますが,従来の日本の高齢者者対象試験とは違う結果であり,高齢者のサブグループ解析の結果(到達血圧など)が,詳細にされていないのももっと知りたいポイントです。
J-CLEAR・桑島巌先生コメントはこちら
http://j-clear.jp/teigen5.html
日本高血圧学会のコメント
http://www.jpnsh.jp/topics/475.html
JAMA Forumの論説
http://newsatjama.jama.com/2015/11/18/jama-forum-when-publicity-preempts-peer-review/
ESHの会長からのコメント
http://www.eshonline.org/spotlights/from-the-esh-president/
American Journal ofHypertensionの論説
http://ajh.oxfordjournals.org/content/early/2015/11/23/ajh.hpv190.extract?papetoc
$$$第4日曜恒例の勉強会で東京。羽生くんのポスターが目につきました。

I:目標収縮期血圧<120
C:目標収縮期血圧<140
O:複合エンドポイント(心筋梗塞,急性冠症候群,脳卒中,急性非代償性心不全)
<結果>
1)ベースライン血圧140/78,平均降圧薬数1.8剤,平均3.26年追跡
2)最終平均血圧:厳格群121.5mmHg ,標準群134.6mmHg
3)使用降圧薬数:厳格群2.8 ,標準群1.8
4)年間イベント率(一次エンドポイント):厳格群1.65% ,標準群2.19%(p < 0.001, NNT 185/年)
5)ベースライン血圧別(≤ 132 mm Hg, 132-145 mm Hg, and ≥ 145 mm Hg)に見ても結果は同等
6)心血管イベント,心不全は厳格群で著明減少。他のアウトカムは不変
7)全死亡:厳格群1.03% ,標準群1.4%(1.03% vs. 1.4%, p = 0.003, NNT 270/年)
8)重篤な合併症は両群で同等
9)低血圧,失神,電解質異常,急性腎不全は厳格群で有意に多い
10)もともと慢性腎臓病のある患者では腎不全の発症率に違いなし
<SPRINT試験の解釈>
・この結果からは,現在140未満でよく管理されている例でも,より厳格に下げたほうが利益が多いことがうかがえる
・この試験では,標準群が既に135未満だった場合,治療を減らすようなプロトコールになっている
・たいていの臨床の場面では治療を減じることはなされない,それ故薬剤を減らされた群では,厳格群の利益がより増強されるようになっている
・今回の結果はACCORD BP試験 (N Engl J Med 2010 Apr 29;362(17):1575)とは対照的
・ACCORD BPとの違い
1)ACCORD BPは2型糖尿病で高リスク例を含む(SPRINTは含まず)
2)ACCORD BPでは標準群のイベント減少が予想以下だった。症例数不足の可能性あり
3)SPRINTは早期打ち切りとなったため,長期間のフォローがない
・全体として120未満の厳格な血圧低下が,心血管イベントを減らし予後を改善
・有害事象が増える場合もあり,症例ごとにベストな管理を目指すべき
### SPRINT試験は,既にかなりのインパクトを持って発表されており今更感もありますが,自己学習のためにまとめました。
実際は心不全の減少が複合エンドポイントの中でも大きな割合のようです。
またこういう試験の特性上高齢者でもADLが良好な方が組み入れられていると思われますが,従来の日本の高齢者者対象試験とは違う結果であり,高齢者のサブグループ解析の結果(到達血圧など)が,詳細にされていないのももっと知りたいポイントです。
J-CLEAR・桑島巌先生コメントはこちら
http://j-clear.jp/teigen5.html
日本高血圧学会のコメント
http://www.jpnsh.jp/topics/475.html
JAMA Forumの論説
http://newsatjama.jama.com/2015/11/18/jama-forum-when-publicity-preempts-peer-review/
ESHの会長からのコメント
http://www.eshonline.org/spotlights/from-the-esh-president/
American Journal ofHypertensionの論説
http://ajh.oxfordjournals.org/content/early/2015/11/23/ajh.hpv190.extract?papetoc
$$$第4日曜恒例の勉強会で東京。羽生くんのポスターが目につきました。

by dobashinaika
| 2015-11-29 23:23
| 循環器疾患その他
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
by dobashinaika
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
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