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胸部大動脈瘤についての患者さん向け情報Q&A:

胸部大動脈瘤について患者さんから尋ねられる機会が増えています。米国のSociety for Vascular Surgery(血管手術協会)から,患者さん向けに胸部大動脈瘤に関する情報が提供されています。
医療者にとっても参考になりますので,自分の勉強のためもあり,ご紹介いたします。


Q1. 胸部大動脈瘤とは何ですか?

A.大動脈は,あなたの体の中で最も大きな動脈です。血液を心臓から体のすべての部分へと運びます。大動脈の一部は胸部を貫いて走っており,「胸部大動脈」と呼ばれています。大動脈が腹部に達すれば「腹部大動脈」と呼ばれます。胸部大動脈の弱い部分が拡大したり膨らんだりすると「胸部大動脈瘤」と呼ばれます。大動脈瘤の25%は胸部,その他は腹部に発生します。

胸部大動脈瘤は重大な健康リスクです。なぜならそれは破裂する可能性があるからです。破裂した大動脈瘤は体内に重篤な出血を引きおこし,早急にショックや死につながります。

胸部大動脈瘤は米国で年間約15000人かかると言われています。一部の患者さんは胸部大動脈瘤だけでなく腹部にも大動脈瘤を持っています。胸部大動脈瘤破裂の20〜30%の患者さんしか,病院に搬送されません。その理由は,破裂する前に早期に治療しなければ,致命的となるからです。
(筆者注:日本循環器学会ガイドラインでは,日本においては10万人あたり年間3人とされているが詳細は不明)

Q2. 症状はどんなものがありますか?

A.胸部大動脈瘤はほとんどありません(筆者注:64%が無症状との報告あり)。極めて少数の人が症状に気が付きます。

症状は大動脈瘤の場所と大きさによります。症状としては以下のものが挙げられます。
・顎,首,背中の上の方の痛み
・胸,背中の痛み
・咳,嗄声(かすれ声),呼吸困難

もし大きな,心臓に近い動脈瘤なら心臓の弁を侵したり,心不全をきたします。

もし上記のような何らかの症状を感じたなら,医師にすみやかに知らせることが極めて大事になります。もし治療しないで放って置くと,死につながる破裂や臓器の障害を来す恐れがあります。命にかかわる状態ですので,すみやかに医療機関を受診すべきです。

Q3. 胸部大動脈瘤の原因は何ですか?

A.胸部大動脈瘤の原因は正確にはわかっていません。しかし研究者によっていくつかの要因が「瘤」の発生に関わっていることが知られています。多くの大動脈瘤では,確かに遺伝が関係しており,家族に動脈瘤患者さんがいることは高リスクとなります。何が発生の引き金になるかはわかっていませんが,大動脈の壁の弱くて,膨らむ部分の破壊が究極の結果です。以下の様な要因はリスクを増やすと言われています。
・喫煙
・高血圧
・動脈瘤の家族歴

また,大動脈瘤は,大動脈解離(動脈の壁が避けること)からできてくることもありますが,この解離の大きな原因は高血圧です。大動脈解離は,血液の流れが大動脈のある部分の壁に強く押し付けられ,動脈の壁を弱くすることで起こります。一か所の亀裂が胸部大動脈全体に広がると,足,腎臓,脳,脊髄や他の部分に行く血液の流れがブロックされます。

大動脈解離のもう一つの問題は,避けた部分に血液が始終当たることにより,弱い部分が風船のように膨らんでくることです。膨らましすぎた風船を思い起こせばわかるように,動脈瘤は安全範囲を超えて引き伸ばされる可能性が出てきます。

大動脈解離の症状は,胸痛,背部痛です。それは狭心症とよく似ています。もし胸の痛みや背中の痛み(両者の合併)を感じたら,すみやかに医師に知らせてください。

以下のようなある種の病気は大動脈の壁を弱くして動脈瘤のリスクを増やすことが知られています。
・マルファン症候群
・梅毒
・結核

まれに外傷(転倒,交通事故)が原因となります。

大動脈瘤のリスクは年齢とともに増加します。女性よりだんせいに多いとされています。大きな動脈瘤ほど,拡大しやすく,破裂しやすいと言われています。動脈の直径が通常の2倍以上の大きさであれば,破裂の危険性が増します。

Q4.どんな検査が必要ですか?

A.医師は,診断をするために以下のうち1つ以上の検査を行います。
・胸部X線写真
・超音波検査
・胸部CT
・血管造影

Q5.どのような治療法がありますか?

A.
1)「経過観察」:胸部大動脈瘤が小さく,症状がない場合,医師は「経過観察」を勧め,6ヶ月毎に変化をCTやMRIでモニターされます。
CTは瘤の大きさや形を捉えるのに有効です。瘤の直径が2インチ(約5cm)以下の場合に行われます。高血圧があれば,医師はできるだけ血圧を下げるようにします。(筆者注:日本循環器学会ガイドライン2010年版では,直径4.5cm未満は半年ごとのCT,4.5〜5.5cmはマルファン症候群などがあれば手術,5.5cm以上は手術としています)

こうした観察中に大動脈瘤の拡大や症状を認めた場合は,速やかな治療が必要です。とくに拡大が早く,マルファン症候群などを持っている場合は,できるだけ早い対応が必要です。

2)開胸手術:手術は,胸部に切開を入れ,大動脈の弱い部分をグラフトと呼ばれる繊維質のチューブに置き換えるやり方です。グラフトは弱い血管よりも強く,膨らみを作らずに血液が流れるようにします。大動脈瘤の多くの患者さんが,他の心疾患を持っていたり,瘤が心臓の近くにあったりしますので,心臓手術が同時に行われる場合があります。

入院は術後7〜10日です(米国の場合)。より大きく複雑な動脈瘤や,他の心疾患,肺疾患,腎臓病を持っている場合は,回復に2〜3ヶ月必要です。

3)血管内ステントグラフト
手術の代わりに,瘤の場所や形が良ければ「血管内ステントグラフト」と呼ばれる新しい治療が選択されます。「血管内」とはあなたの体の内側から長くて薄い「カテーテル「と呼ばれる管を使って行われるためにこう呼ばれます。カテーテルは太股の付け根や腕の血管から挿入されます。この施術の間中,医師はX線透視で,ステントグラフト(カテーテルの先端に付いている)の位置を確認しています。開胸手術と同じように,グラフトは弱い瘤の部分に負担をかけることなく血液を流し,破裂から血管を守ります。この間,あなたの瘤は小さくなっていきます。血管内ステントグラフトは,開胸手術より短時間で終わり,入院も2〜3日短縮されます。

しかし,この治療はすべての大動脈瘤に適応できるわけではありません。血管内ステントグラフトに合うような形でなければなりません。また長期にわたり,ステントグラフトがうまく働いているかをチェックする必要があります。ときに,ステントグラフトからの血液の漏れが増えたり,グラフトの場所がずれたりすると,追加の施術が必要になることもあります。専門家は血管内ステントグラフトの長期的な成績について未だに研究中です。
(2010年更新)

出典;handouts from Society for Vascular Surgery (SVS) on thoracic aortic aneurysm
循環器病の診断と治療に関するガイドライン:大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011 年改訂版)(2015年11月閲覧)

### 胸部大動脈瘤の診断は極めて難しいです。なぜならほとんどが無症状で経過するからです。かなり大きくなり,周囲を圧迫するほどになれば痛みを自覚しますが,それとて,他の筋肉や骨格系の痛みと鑑別することはたやすくはありません。症状がない場合は,検診や他の疾患を疑って胸部写真をとった時に偶然に見つかることが多いのです。

臨床家としては,背中の痛みと言っても,なにか筋肉痛とは違う特有の重症感を汲み取らねばなりません。ポイントとしては,背中が痛いという患者さんの喫煙,高血圧,家族歴,痛みの場所(比較的背中の広い範囲ではないか),痛みの性質(裂けるような感じはないか),他の症状(咳,嗄声など)はないかなどを綿密に聴くしかないと思われます。患者さんが背中が痛いとおっしゃる場合,頻度の高い疾患として筋肉痛をまず思い浮かべますが,大動脈瘤,大動脈解離は常に念頭に置いて置くべきと再認識しました。

なお腹部大動脈瘤の診断に関するブログはこちらです。
http://dobashin.exblog.jp/21024791/

$$$ 阿藤快さんは,大好きな俳優さんでした。一昨年,イプセンの「幽霊」の舞台も拝見しており,独特の存在感は今でも鮮明に覚えています。ご冥福をお祈り申し上げます。
by dobashinaika | 2015-11-18 22:46 | 患者さん向けパンフレット | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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