心外膜脂肪へのボツリヌス毒素注入は冠動脈バイパス術後の心房細動を抑制する:CircAE誌
Long-Term Suppression of Atrial Fibrillation by Botulinum Toxin Injection into Epicardial Fat Pads in Patients Undergoing Cardiac Surgery: One Year Follow Up of a Randomized Pilot Study
Evgeny Pokushalov et al
Circulation: A and E: Published online before print October 20, 2015
疑問:心房細動予防のためにボツリヌス菌を心外膜に注入することの効果と安全性は何か?
方法:
・発作性心房細動があり,CABGを施行した患者
・ボツリヌス菌注入群 vs. プラセボ群 無作為割付
・ボツリヌス菌注入群30例=手術中にボツリヌス菌を侵心外膜脂肪層に注入;30例,Xeomin, Merz, Germany; 50 U/1 mL
・プラセボ群30例=生理食塩水
・植え込み型ループレコーダー使用により1年間の洞調律維持を評価
結果:
1)全例合併症なく脂肪層への注入に成功
2)CABG後30日未満の心房細動:ボツリヌス群2/30(7%) vs. プラセボ群9/30 (30%), P=0.024
3)30日後〜12可月での心房細動再発率:ボツリヌス群 0% VS. プラセボ群7/30(27%), P=0.002
4)1年以内の合併症なし
結論:CABG中のボツリヌス菌心外膜脂肪層注入療法は,早期及び1年後に及ぶ心房性不整脈の抑制に多大なる貢献をする。重篤な合併症はなし。
### 食中毒を起こすボツリヌス菌ですが,その毒素(ボツリヌストキシン)は神経筋接合部の神経終末に作用してアセチルコリン放出を抑制することにより筋収縮を阻害し,筋の攣縮及び緊張を改善する効果をも有しています。現在のところボトックス™として製品化されており,医薬品として痙性斜頚,眼瞼痙攣,片側顔面麻痺,重度の原発性腋窩多汗症,上下肢痙縮などへの保険適応が認められています。また今では顔のしわ取りなどの美容整形にも使われていますね。
さてこの論文で示された心房細動抑制の機序は何でしょうか。以前心外膜脂肪組織が多い心臓ほど,心房細動が発生しやすいという論文を見たことがありますが,ボツリヌストキシンが,脂肪そのものが持つ心筋への炎症作用を抑制するのか,あるいは自律神経系に作用するのか知りたいところです。
しかし,すごいことを考える医師もいますねえ。まあそれより,この治療を受ける被験者(患者さん)がいることにも驚いてしまいます。強烈な食中毒をきたす毒素を自分の心臓の周りに注入されるなんて,しかもほとんど全例のないことで適量もわかっていない段階でなんて。。。もしこれ自分が受けたら,ずっと胸がモヤモヤしそう。。。
$$$ ご近所の春日神社の紅葉,そろそろ見頃です。そういえば花見酒はありますが,紅葉酒はないですね。寒いからね。

Evgeny Pokushalov et al
Circulation: A and E: Published online before print October 20, 2015
疑問:心房細動予防のためにボツリヌス菌を心外膜に注入することの効果と安全性は何か?
方法:
・発作性心房細動があり,CABGを施行した患者
・ボツリヌス菌注入群 vs. プラセボ群 無作為割付
・ボツリヌス菌注入群30例=手術中にボツリヌス菌を侵心外膜脂肪層に注入;30例,Xeomin, Merz, Germany; 50 U/1 mL
・プラセボ群30例=生理食塩水
・植え込み型ループレコーダー使用により1年間の洞調律維持を評価
結果:
1)全例合併症なく脂肪層への注入に成功
2)CABG後30日未満の心房細動:ボツリヌス群2/30(7%) vs. プラセボ群9/30 (30%), P=0.024
3)30日後〜12可月での心房細動再発率:ボツリヌス群 0% VS. プラセボ群7/30(27%), P=0.002
4)1年以内の合併症なし
結論:CABG中のボツリヌス菌心外膜脂肪層注入療法は,早期及び1年後に及ぶ心房性不整脈の抑制に多大なる貢献をする。重篤な合併症はなし。
### 食中毒を起こすボツリヌス菌ですが,その毒素(ボツリヌストキシン)は神経筋接合部の神経終末に作用してアセチルコリン放出を抑制することにより筋収縮を阻害し,筋の攣縮及び緊張を改善する効果をも有しています。現在のところボトックス™として製品化されており,医薬品として痙性斜頚,眼瞼痙攣,片側顔面麻痺,重度の原発性腋窩多汗症,上下肢痙縮などへの保険適応が認められています。また今では顔のしわ取りなどの美容整形にも使われていますね。
さてこの論文で示された心房細動抑制の機序は何でしょうか。以前心外膜脂肪組織が多い心臓ほど,心房細動が発生しやすいという論文を見たことがありますが,ボツリヌストキシンが,脂肪そのものが持つ心筋への炎症作用を抑制するのか,あるいは自律神経系に作用するのか知りたいところです。
しかし,すごいことを考える医師もいますねえ。まあそれより,この治療を受ける被験者(患者さん)がいることにも驚いてしまいます。強烈な食中毒をきたす毒素を自分の心臓の周りに注入されるなんて,しかもほとんど全例のないことで適量もわかっていない段階でなんて。。。もしこれ自分が受けたら,ずっと胸がモヤモヤしそう。。。
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by dobashinaika
| 2015-11-16 23:18
| 心房細動:リアルワールドデータ
|
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土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。
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筆者は、2013年4月以降、ブログ内容に関連して開示すべき利益相反関係にある製薬企業はありません
●医療法人土橋内科医院
●日経メディカルオンライン連載「プライマリケア医のための心房細動入門リターンズ」
●ケアネット連載「Dr,小田倉の心房細動な日々〜ダイジェスト版〜」
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